一触即発
昨日から連続で飼い猫が獣人となり、今朝は二階に保護している白猫親子が獣人化した。
「冷静に考えると色々ヤベェよな・・・」
日中、仕事をしながら一連のことを思い浮かべ、俺は言葉を漏らす。
これからの生活の事やそもそも何故うちの猫達があんな事になったのか・・・
色々考えるうちにただの猫だった頃の姿と、獣人の姿になったうちの子達を思い浮かべたところで、その魅力の前では全てが些細なことであると俺は気づいた。
「まあ、なるようになるだろ。」
そして、仕事を終えて帰宅すると、リビングの窓からウラルが何かを訴えるような眼差しでこちらを見ている。
一般的には寂しくて飼い主の帰りをずっと待っていたと思うかもしれないが、そんなことはない。これは一日中日向ぼっこの流れから飯をよこせというパターンだ。間違いない。
「はいはい、すぐにご飯の準備をしますからね。」
そんなことを口にしつつ鍵を開け、俺は玄関に入った。
「グルルルル・・・」
「シャァァァ!!」
殺気立った威嚇ボイスが俺を出迎える。
応接間でロジーナとアルマータが睨み合っていた。
白猫親子と一階組は仲が悪く、特にロジーナとアルマータは猫だった頃も顔を合わせるたびこんな具合だった。
「二人とも、やめなさい。」
俺の声に反応し二人はこちらを振り向くが、すぐに睨み合いを再開する。
「ローちゃん、やめなさい。」
今度は二人の間に割って入り、ロジーナの頭を撫でながら優しく諭す。
その時、背中に鋭い痛みを伴う衝撃が走った。
「いってぇ・・・!」
アルマータが俺の背中にガチの猫パンチを繰り出したようだ。
「お前、やりやがったな!」
ロジーナが脇からアルマータに掴み掛かった。
「シャアアアァァァァ!!!!」
上から雷鳴のような迫力あるシャー音が響く。
その声に誰もが動きを止めた。
上を見ると鋭い目つきのベレーザがゆっくりと階段を降りてきている。
「戻りなさい。」
中程で止まったベレーザは静かに言い放った。
すると、ロジーナとアルマータは弾かれたように散り、ロジーナはリビングへ、アルマータは二階の猫部屋へとそれぞれ走り去っていった。
そして、一人残された俺を見るとベレーザはフンと鼻を鳴らし、階段を上がっていった。
「うおー、こえー・・・」
ベレーザを見送った俺は、畏怖の念を覚え声を漏らす。
「・・・ご飯の準備をするか。」
これからやるべきことを思い出した俺は、応接間を出た。
思えばウラルはあの一触即発状態を伝えたかったのかも知れない。