今宵は甘い夢の中へ
本日は10月31日
日本ではハロウィンイベントが行われる。
私は大勢で騒がしくするのは嫌いなので、
自宅でのんびりと過ごすことにしている。
と言っても、今日は大学時代の友人が
一人来ることになっていて、
二人で夜通し飲んでおしゃべりする予定だ。
「さ〜て、料理の材料は昨日に買ってあるし、
先に家事を終わらせるか」
言いながらも洗濯機を開けて衣類を放り込み、
スイッチを押して洗濯機を稼働させる。
「洗濯に掃除なんて毎日してるから、
人が来るからって焦る必要はないのよね」
私は普段と変わらない気持ちで掃除機をかけていく。
そして、頭の中で今日作る料理の手順を再確認していく。
「あれは時間かかるから早めに仕込んでおこっと」
そう言って掃除機を片付けるとキッチンへと向う。
時間は前日に遡り、スーパー店内。
私は買い物かご片手に青果売場に向かっている。
そしてかぼちゃの前で足を止めた。
「う〜ん、かぼちゃ丸ごと一つは使い切れないから、
カットしてあるのになるね」
「値引きシールが貼ってある……
常備菜にもするし二つはほしいな」
カットかぼちゃ二つをかごに入れる。
「じゃがいもは……お、大袋があるね。
しかも大きいしサラダに向いてるね」
じゃがいもの大袋をかごに入れる。
「そして、これに合わせるのはなんとあんこ」
「つぶあんかこしあんか……
私はどっちも好きだけどやっぱりこしあんかな」
何人かに聞いてリサーチすると、
女性はこしあんが好きという人が多い。
では、男性はつぶあんかというとそうでもない。
あんぱんもつぶあんは食べられないという人もいた。
「まぁ、好みは人それぞれよね」
私は納得してお酒売場へ向う。
「甘いものはお酒に合わないなんて人もいるけど、
私は全く思わないな」
「揚げ物とかの脂っこいものや、
塩辛いものばかり食べて飲んでると
そういう味覚になるのかな」
私は普段通りの赤ワインを選んでかごに入れる。
「櫻も1品作って持ってきてくれるし、
お酒も持ってくるからこれくらいね」
「スープは作ってあるから、うん終わり!」
私はセルフレジで会計を済ませて、
ポイントもしっかり獲得して自宅に帰った。
そして翌日
私はさっそく料理に取り掛かる。
「まずはフライパンに水を入れて、
じゃがいもを半分に切る」
水の量はじゃがいもが半分浸かるくらいだ。
「じゃがいもをフライパンに入れて、
蓋をして中火で蒸す」
「かぼちゃも同様に蒸す」
一度に入らない場合はじゃがいもと
かぼちゃを分けて蒸す。
その分時間はかかるけどね。
「蒸したら取り出して潰す」
私はすこし形を残して荒く潰している。
「こしあんもしくはつぶあんを加えて和える」
今回購入したのはこしあんなので、
つぶあんはまた次回かな。
「最後に醤油で整えたら完成」
出来立てもいいけど、晩餐まで冷蔵庫で冷やしておく。
料理を作り終えて、
お茶を飲んでのんびりしていると、
インターフォンが鳴った。
扉を開けると櫻が荷物を顔の前に上げて、
微笑みながら立っていた。
私も微笑みながら出迎える。
「いらっしゃい。どうぞ」
「ありがとう。お邪魔します」
櫻は靴をきちんと揃えて脱ぐと部屋に上がる。
「あっ! お茶飲んでたの?」
「うん、さっき料理作り終えたとこ」
「うわ〜、楽しみ!」
「あたしも作ってきたから冷蔵庫いれていい?」
「うん。スペースは空けてるよ」
「ありがとう。さっすが〜」
相変わらず明るいな。
櫻は荷物の中から手提げ袋に包んだタッパーを
冷蔵庫にいれている。
「お茶入れるから座っててね」
「ありがとう。和菓子持ってきたから食べよ」
「用意がいいね」
「ふふ、備えあれば憂いなしってね」
「なに作ってきたのか楽しみね」
「なんだと思う〜?」
「櫻のことだからお野菜たっぷりなんでしょ?」
「ふふっ、正解! バッチリお酒にあうよ」
「そういえば、お酒は冷やしてないの?」
「大丈夫、ボトルだから常温でもいいの」
「そっか わたしにも飲ませてね」
「うん、もちろん!」
それからしばらくはお互い読書に集中した。
私は読みかけの文庫本、
櫻は前回面白いと言っていた文庫本を再読している。
お互い、面白いと思う本は何回でも読むタイプだ。
ときおり、お茶と櫻が持ってきてくれた、
お団子を挟みながら読み進めていく。
部屋には静かな心地よい空気が流れている。
私は文庫本を読み終えて壁掛け時計を見る。
時刻は19時を過ぎていた。
「よし、準備するか!」
私は立ち上がり、櫻に声をかける。
本から顔を上げて「もうこんな時間か」と
大きく伸びをする。
「やりますか!」
そして私はキッチンでスープを温めて、
料理を食器に盛り付けていく。
櫻はテーブルの上を片付けて拭いていく。
お互いの家で飲む時はいつしか定着した役割分担だ。
料理とお酒、食器を並べ終えると、
お互い向かい合って席につく。
お互いのグラスにお酒を注ぎ合って、
グラスを当てずに乾杯する。
「乾杯」
「乾杯」
そして赤ワインを一口飲む。
「ふぅ~~、お馴染みの味だね~」
「安くて美味しいのが一番だからね」
「おうちごはんにあうってコピーで、
その通りに家のご飯にあうからね」
「そうそう、高くても口にあわないなら意味ないし」
「けど、この料理は今回が初めてじゃない?」
私はかぼちゃサラダを食べながら言う。
「そう! かぼちゃの自然な甘さに、
こしあんの上品な甘さが合わさって最高!」
「かぼちゃとあんこってどこかの
郷土料理にあったね。いとこ煮だっけ?」
「うん。富山県の郷土料理らしいね。
それをヒントにサラダにしたの」
「発想が素晴らしいじゃん。
赤ワインとの相性もいいし」
櫻は赤ワインを飲みながら、
かぼちゃサラダをつまんでいる。
「櫻のマカロニも美味しいよ。
野菜の食感もいいし、塩胡椒も程よく効いてる」
マカロニサラダを食べながら言う。
「ふふん、今回はお酒とあわせるために
普段より香辛料を多めにしたんだ」
「彩奈、スパイスとか興味あるって言ってたし」
「うん、いずれ海外回って勉強したいの」
「それに、ゆで卵も入ってるから食べごたえもあるね」
「野菜だけだと淡白になるから、
アクセントととしてゆで卵を潰して加えた」
「発想が素晴らしいね」
櫻はスープを挟みながらゆっくり飲んでいる。
「彩奈のかぼちゃサラダも土台として、
じゃがいもも入ってるんだね」
「じゃがいものおかげでかぼちゃが崩れたりしない」
「さつまいももよかったんだけど、
さつまいもサラダは別のレシピがあるのよね」
「へぇ! じゃあさつまいもサラダは
次回のお楽しみだね!」
「実はあたしも秋茄子でいいの出来上がってるんだ」
「そうなのね。次はその二つをメインにしましょ」
「うん! それにしても、このスープも美味しいね。
白菜に豆腐にきのこ……お鍋みたい」
櫻はスープを飲みながら言う。
「豆腐やきのこにお野菜をコンソメと味噌で煮込んだ、
お鍋風のスープってところね」
「優しい味で落ち着くね。
彩奈の料理はヘルシーで健康にいいね」
「櫻の料理も野菜たっぷりで美容にいいよ」
「あたしのはお酒とあわせるの前提だからね。
酒飲みが作る料理は特徴出るって言うし」
「あぁ〜 それは分かるかも。
私も飲むからお酒向けになることもあるし」
ここで一息ついて「ふふ」と笑って続ける。
「次回お互いが作る料理もお酒向けになるのかな」
「かもね」
お互い笑いあって、もう一度乾杯する。
宴はまだ始まったばかりだ。
その後……
毎年お馴染みのハロウィンパーティーは、
ここ数年間行われていない。
そして、何年かぶりに開催されたパーティーには、
小さな生命と共に過ごすことになるのだが、
それはまた別のお話……