39 中級スクロール職人 1
荷馬車の中でも冒険者達は今日の大勝利に興奮気味だ。
「すげ〜な、あんた達。魔法に弓に、威力が半端ネーよ」
満面の笑みで話し掛けてくる冒険者。
「俺たちは漆黒の剣ってんだ。俺がゲン、これがグル、あれがジャキだ。
よろしくな!それにしてもスゲ〜なあ。
あの矢、突き抜けてたぜ、身体を突き抜けてたぜこんなデケー穴が空いてたぜ。
初めて見た。あんなの。特に腕がぶっといわけでもねーのになあ?」
困った顔のケーナ。クリスも苦笑している。
「漆黒の剣さんは剣士3人のパーティーなんですか?」キルが話を変える。
「おう!そうだぜ、俺たちは剣士3人のDランクパーティーだ」
ゲンが上機嫌にこたえる。
「そういえばあんたスクロール使ってたなあ。驚いたぜ、アレ、高いんだろう?」
「通常は3000カーネルくらいするらしいですよ。俺はスクロール職人なんで自分で作ってるんですけれどもね」キルが答える。
「へ〜、生産職が冒険者か?生産職で長年やれる人は珍しいけれどもな、君ならできそうだな。あの魔法、スクロールとは言え強力だものなあ。まあ頑張れや」
生産職と聞いただけで適性なしじゃないかという雰囲気を醸すゲン。
ゲンに限らず生産職のギフト持ちは戦いに向かないステータスと普通は思われている。
剣士のジョブを得てみてわかるがHP、攻撃力、防御力、腕力、素早さなどに差が出るのは明らかでそれらは戦いに影響するステータスだ。
特にアーツの属性がジョブと一緒なら破壊力が相当違う。
ゼペックさんが剣士のジョブスクロールを持っていて良かったとつくづく思うキルであった。
「ケーナちゃんもクリスちゃんも良いギフトを持ってるんだろうな。
あんなに強力なスキルはなかなか覚えられないぜ。
俺なんて3年やってるがついこの間攻撃力強化が生えたくらいだ。
きっと俺の剣士のギフトは星ひとつなんだろうなあ」ゲンがぐちをこぼす。
「そういうなよ。俺たちみんな同じ感じなんだから」グルが慰める。
「彼女達きっと星3に違いないぜ、まだ始めたばかりであのスキルが生えてるんだろう」ジャキが羨ましそうに言った。
「いえ、スキルスクロールを買って身に付けたんですよ」
キルが言うと3人は驚いた顔をする。
「そんなスクロールがあるのか?」ゲンが聞く。
「はい」
「高いんだろうなあ?」
「ケーナの強射は80000カーネル、クリスのファイヤーボムは100000カーネルですね」キルが営業をする。
「ゲ!.........タッケーーー」とゲン。
「ですよね〜〜。でも彼女達はそれを買ってあのスキルを身につけました」とキル。
「そうっすよ」
「そのとおりですわ。とても良い買い物でしたわよ」
ケーナとクリスがスクロールを買った事を事実だと証言した。
「本当に安いと思うっすよ。おかげですぐにそのくらい稼げたっす」
「そうは言ってもそんな大金は.........ナイ!」キッパリ言い切るゲン。
コイツら結構カツカツで生活しているらしい。逆に頑張れと言いたいキルであった。
「今日は多分午後には狩り行ける感じで帰れそうだね。ケーナ、クリス帰ってから狩りに行こう」キルがヤル気を見せると、ケーナもクリスも同意する。
「行きたいっす。今日は暴れ足りないっす」
「そうね。私も消化不良な感じだわ」
「お前ら帰ってからまた狩り行くのか?働き者だなあ」感心するゲン。
「今から行ってもたいして狩れないだろう」呆れるジャキ。
「そう思うぜ、今日は1人10000カーネル貰えるんだからそれで良いだろう」とグルは余計なお世話をする。どうやらコイツらは残りの時間内では狩りに成功しない可能性もあるという人達らしい。
索敵や気配感知のできない人達にとっては、獲物を探すだけでも多くの時間を費やすのだから、普通の感覚はそんなものだろう。
去年はそう言う感じだったなあとキルは思う。
「はは、俺達獲物を探すの早いんで、結構狩れますよ」キルが笑って誤魔化す。
「そうか?頑張れよ」とゲン。だからお前らが頑張れよと言いたくなるキルだった。
パリスの街に着き報酬を10000カーネルずつ受け取って解散になる。
緑の草原は荷車を引いて草原に向かった。
サクサクとキルが4頭ケーナとクリスが1頭づつモーモウを狩ってギルドに引き返す。
時間はまだ5時というところ。
チョット早いがもう一度は無理な時間、今日の狩りはここまでにして解散とすることにした。
モーモウの代金1人40000ずつを渡して2人と別れたキルは買い出しをして早めに帰る。今日は新しい紋様のアーツのスキルスクロールを作ってみるつもりだ。
工房の前でボーッとしているゼペックさんに声をかけるとゼペック
爺さんは嬉しそうに微笑んで「今日は中級のスクロールを作るんじ
ゃったのう」と言うのだった。
「はい、材料揃えました」
「そうか、魔石の粉は作ったのか?」
「これからライガーの魔石で作ろうと思っています」
「そうか、じゃあ中に入ろうかのう」
キルは魔石の粉を作り始めるのだった。




