385 指名依頼 2
ホームを出発したキル達『15の光』は夕方にはチューリンに着いた。早速冒険者ギルドのコンノに会いに行く。
ルビーノガルツ冒険者ギルドに連絡に出した使いが戻るより早いキル達の到着にコンノは感激してキル達を迎える。
「キル様、ロム様、ホド様、先日はお世話になりました。こんなに早くお越しいただけるとは思ってもおりませんでした。ありがとうございます」
「一日で駆けつけると約束しましたからね」
「その通りじゃ。呼ばれるかもしれぬと準備はしていたしな」
当然という顔をするキルとロム。
「本当にここまで一日かからず来れるんですね! 実は絶対盛っていると思っていましたよ。早速マルス様に連絡しておきましたからきっと驚いていることでしょう」
「明日、マルス様に謁見するのですか? 敵はどの辺りまで来ているの?」
「ここ数日、千キロほど東にとどまって動いていませんが、動けばすぐにでもやってくるでしょう。マルス様も警戒をしています」
百キロも離れていれば、一日で移動するのは通常ならば難しい。だが彼等ならば一日で可能な距離である。
自分たちは攻められるが、敵からは攻められないという絶好の位置どりで機をうかがっているということだろう。キル達にすれば、五時間程度で移動できる距離であるが。
「近隣の村が襲われたり、戦線布告をされてはいないんですか?」
「今のところ、それはありません」
キルの問いに答えるコンノは、キル達が来たことで安堵の色を強める。
「なるほどね! 警戒し続ければ疲れてしまうし、しなければ攻撃された時大きな被害がでてしまう。戦わずして此方を消耗させようってわけだね」
グラが敵の作戦を看破する。
「まずいじゃないですか? どうすれば良いんです?」
「此方から先制攻撃をすれば良いんじゃないか。そうすれば待つことはない」
「なるほど。そうですね」
「だが、その前に交渉で解決できれば、それに越したことはないけどね」
キルは尊敬の眼差しをグラに向ける。まさかグラがそんなに賢いとは思わなかった。
「じゃが、わしらが勝手に動くわけにはいくまい。全ては明日、領主のマルス・フランシスに会ってからじゃな」
「そうだね。ロムのいう通りだよ」
話を聞いていたコンノが口を挟む。
「明日の面会は、段取りをつけておきました。ですが先制攻撃と言いましても敵は二十万の大軍ですよ。勝てるんですか?」
コンノがそう思うのも当たり前だ。一騎当千の強者十三人といえども一万三千人
の戦力にしかならない。二十万人を相手にするということは、一人当たり一万六千人くらいを倒さなければならないという計算になるのだ。
だが、そんなコンノをグラはニヤリと笑う。グラの笑いは、自身の表れだ。
グラにとって、数は問題ではない。特級以下の戦士が何人いようと関係ないのだ。
そのレベルの攻撃では神級冒険者には傷一つつけられない。
問題になるのは、敵に高レベルの者がどれだけいるかである。
「勝てるさ。数じゃないんだ。こっちにはキル君がいる」
「キルさん……」
グラがキルの名を出したことに驚きながらコンノはキルに視線を向けて、何故キルの名を、この子の名を出したのだろうと考える。
このキルという少年がこの中で最強だということか? グラというこの男より、キルという少年の方が強いのか?
神級冒険者が十三人もいると言わずにキル君がいると言ったのか? 他の十二人より強いのは分かったが、十二人合わせたより強いのか?
まさかなと、その考えを否定してキルから視線をはずした。
キルはコンノが視線を向けているのに気付いたが黙ってその視線を受けながら、きっと不思議がられているに違いないと思う。
それにしても二十万もの兵士を束ねる存在とはどんな人間なのだろうーーやはり相当強いことは間違いない。
もし俺よりそいつの方が強いとしたら、逆に俺たちの方が負けることになるーーと嫌な考えが頭をよぎった。
相手は普通の人間……獣人ではないのだ。だが自分と同じ人間なのだから自分と同じ、嫌、自分より強い可能性がゼロとは言えない。
だが、可能性は限りなくゼロに近いことは間違いないと自分を納得させる。そして、いずれにしても全力で戦わねばならない……自分がこの国を守るんだと決意を改める。そう、それが最強の力を持つ自分の役割だと改めて自覚した。
キルの口の端は自然に吊り上がり、自分の存在価値を見つけて笑っている自分に気づいて驚く。
嬉しかったのだろうか? 自分の存在価値を見つけたことで、自然に笑ってしまうほど。
だが、喜びの感情は感じていない。自分の感情を分析してもどうして笑っていたのか分からなかった。ただ、今見つけた自分の使命を自分が肯定しているのは分かった。
八月一日より新作アップ予定です。
『お宝探し、しませんか?』 ダメダメおっさんが、超絶美少女と仲良くなっても良いじゃないか。俺ってそこはかとなく良い男かもしれません




