384 指名依頼 1
キル達がルビーノガルツに帰ってから三日後、チューリンの街の遥か北東に騎馬民族の大群が押し寄せていた。北方民族を統一したテムジの軍勢である。
キル達によって三部族が滅ぼされたという情報は、すでにテムジの耳に届いていた。三部族の仇を討たねば長としての体面が保てない。討たなければせっかく統一した北方民族はまたバラバラに分裂してしまう。それは、否応なくテムジの行動を決めてしまうものであった。
テムジの統一王国はその総勢二十万人という兵力を西へと大移動することになったのだ。
統一北方民族西進の報はマルス・フランシスの耳にすぐ届いた。
「北方の諸民族はテムジ王の元に統一され、西へと移動を開始しているようです。現在は千キロほど離れていますが二十万とも言われる騎馬兵団にとっては数日の距離、警戒が必要かもしれません」
マルス・フランシスは顔を顰めてその報告を聞いた。
「ギルドに緊急で兵をできるだけ集めるように伝えろ!」
「は!」
「それから『15の光』に指名依頼だ。すぐ救援に来るようにコンノに言え!」
「は!」
「全軍籠城の体制だ。いいな!」
「は!」
次々に指示を飛ばすマルス・フランシス、トップダウンは彼のような決断力のあるリーダーにとって有効なシステムだ。
マルスの指令はギルマスのコンノのところにすぐ届いた。
「えらいことになったーー!」
コンノは掲示板に参戦依頼を表示して兵を集めると同時に速馬をルビーノガルツ冒険者ギルドに飛ばす。もちろん『15の光』への指名依頼を出すためだ。
ルビーノガルツ冒険家ギルドからキル達の元に指名依頼の連絡が届いたのは、それから二日めの夕方である。
「キル先輩! ギルドから指名依頼がきたっすよ!」
ギルマスの使いから依頼書を受け取ったケーナがキルにそれを渡す。
グラとロムが寄ってきて、依頼書を読んでいるキルのかたわらに立ち、手元を覗き込む。
「準備が出来次第すぐに立ちますので、そお伝えてください」
キルはギルドの使いに口頭で答える。そしてケーナに皆んなを集めてくれるように伝えた。ケーナがホールから急ぎ皆んなを呼びに行く。
グラは悪い想定が現実になったかと苦い顔でロムを見た。
「まあ、想定内じゃから良しとして、準備をしよう」
キルも残念さを身体中から滲ませている。
「全面戦争ですかねーー嫌だな」
「降りかかる火の粉は払わにゃならんじゃろう」
グラが食堂兼会議室のテーブルに着くよう目配せして歩き出す。ケーナに呼ばれた少女達が集まりだしている。
キルは椅子に座って全員が集まるのを待った。夕食前という事もありクッキーはまだ調理中で、エリスとユリアとマリカがその手伝いをしている。
「クッキーちゃん。チョットはずしても大丈夫?」
エリスがすまなそうに謝るとクッキーは三人にテーブル席につくように促す。
皆だいたいの経緯は察しているので、ギルドの指名依頼は北方民族のことだと分かっている。
「チューリンから指名依頼がきた。北方民族が大挙して近づいているらしい。戦いになる可能性が高いから、間に合うようにできるだけ早く現地に飛ぼうと思う」
キルがそう宣言するとグラが付け足す。
「明日の朝ここを経って夕刻までにはチューリンにつくつもりだ。クッキーちゃんはできるだけたくさんの料理を作ってマジックバッグに用意してください。それと念の為に肉や果物などの食材をできるだけ入れておいてください」
厨房にいるクッキーから「分かりましたー」と返事が返ってくる。
「俺達が北方民族の問題を解決してしまえば、ルビーノガルツにまで援軍要請は来ないはずだよ。皆んな協力してくれるかな? 参加したくないものは、ここに残っても問題ないよ」
「そんなの、皆んな行くに決まってるっすよ! キル先輩」
ケーナの言葉に全員が頷く。
「ありがとう。助かるよ」
「皆さん、ありがとうございます」
クリスが立ち上がって頭を下げる。
「クリスが頭を下げることじゃないよ。これはルビーノガルツの人たちを戦争に巻き込まないためだからね」
グラが笑顔でクリスに掌で制すると、クリスが微笑んで席についた。
「出発は明日の朝、朝食をしっかり取ってチューリンに向かうから今晩中に用意は整えてくれよ。次ようだが、何かあるものはいるか?」
「グラ〜! チューリンって東方の珍しい物が売ってるのよね?」
サキが観光気分の発言をして暗い雰囲気を吹き飛ばした。
「そうだね。機会があればショッピングもすれば良いさ。珍しいものがあるかもしれないよ」
「やったあーー。東方の服とか、チョットエキゾチックなのが良いのよね」
「そうなんですか?」
「うん。うん」
「そうよー! とってもセクシーでキュートな服があるらしいわ!」
サキの言葉に少女達が嬉しそうな笑顔になる。
「珍しいアクセや小物も多いみたい」
女子達はあらぬ方向で盛り上がり始めるのだった。
八月一日より新作アップ予定です。
『お宝探し、しませんか?』 ダメダメおっさんが、超絶美少女と仲良くなっても良いじゃないか。俺ってそこはかとなく良い男かもしれません




