383 ショッピング 2
カーテンを閉めて、試着室に引き篭もるクリスは、ほてった頬を手のひらで抑えて心を落ち着ける。心臓がドキドキと大きな音を立てている。
鏡に映る腰に大きめのリボンのついたガーリーな薄いブルーのワンピース姿。
(き、綺麗だなんて……は、恥ずかしいすぎる……どうしてこんなにドキドキするんだろう。私どうしちゃったの…………)
クリスは高鳴る心臓を落ち着けようと、一生懸命深呼吸をする。
少し落ち着いてから元の服に着替え直す。両手でイチゴ色の髪を後ろにかき上げる。
(この服は買おう。顔は赤くなってないかな?)
試着室内の鏡でいつもの自分の姿なのをチェックして、頬が赤くないか確認してからカーテンを開けた。
「クリス、それ、買うっすよね?」
待っていたようなケーナの問いに頷く。
「ケーナは試着しないの?」
「するっすよ。交代っすね!」
ケーナも両手に抱えた服を持って、試着室に入る。今度は試着室の前で待つのはクリスとキルだ。
「ちょっと待っててね。お二人さん!」
一言言ってからケーナはサッとカーテンを閉める。
キルとクリスは思わず互いの顔を見つめ合ってから、頬を赤らめ気まずそうにそっぽを向いた。
(まったく、一言多いんだから、ケーナったら! おかげで意識し過ぎちゃうよ……)
心の中で悲鳴をあげるクリスは、心臓がまた騒ぎ出すのを止めようと集中していた。
「クリス。ちょっと!」
ケーナに呼ばれ、クリスはカーテンの隙間から顔を入れて着替えたケーナの姿を見る。
「変じゃないっすか?」
小声で呟くケーナに、よく観察してから頷き「素敵よ」と小声で告げた。
海老茶色の短パン、鮮やかなレモンイエローの半袖シャツに狐色のポニーテールが垂れ下がる。一見派手な色合いだが草原でも森林でも保護色的に働くかもしれない。狩人のセンスが影響しているのか、ケーナは短パンが好きなようだ。
「今日はこれ着て歩こうかな……」
「良いと思うわ。きっと気分も上がるわよ」
「クリスはその服着ていかない?」
「わたしはいいわよ。この服で」
「そんな、自分だけっすかー。クリスも着ようよー」
「えーー」
ケーナに懇願されついにはクリスが折れて二人が新しい装いで街を歩くことになってしまった。
店を出たキルの両脇には恥ずかしそうに寄り添うクリスと気分アゲアゲのケーナがいた。
三人はまた店を覗きながら繁華街を歩き続ける。
「キル先輩も新しい服にした方が良いっすよ。気分が上がるっす」
「はは! そうかな。女の子と違うと思うけど……」
キルは自分のファッションにはまるで興味がないので服を新しくしても気分が上がるということはない。ただだいぶ傷んだ服も増えてきたので、新しい服をいくつか増やしても良い頃合いだ。
ルビーノガルツの街は、パリスの街と同じくらいの大きさだ。大都と比べるとだいぶ小さいが、それでも地方領主の都としては栄えているほうである。美味しい食べ物を売る露店もたくさん並んでいてその匂いが鼻をくすぐる。
「なんだかお腹が空いてきたね」
考えてみればそろそろ昼食の時間だ。どこか食堂に入った方が良いだろうと思い、キルの目線は一人良さそうな店を探し始めるが、クリスとケーナの視線は立ち並ぶ服屋に注がれている。
「この店、好みの服を売っていそうっす!」
ケーナがまた別の服屋に飛び込むと、クリスも嬉しそうに入店する。もちろんキルもその後に続いた。
「これなんかクリスの好みじゃないっすか?」
「そうねー、良い色合いだけど、チョットこの辺がきつそうだわ」
キルには分からないように服の胸の辺りを指差して難色を示す。
「最近キツイと思うことが多いのよ。だからゆったりめの服が良いな」
「良いなあー、自分もそんなこと言ってみたいっす」
「え! なになに? どうしたって?」
何か問題でも起きたかとキルが話に加わろうとするが二人が顔を赤らめてキルを追い出した。
「キルさんは関係ないからあっちにいってて!」
「これは男子が聞いちゃダメな奴なんす!」
ケーナに背中を押されてキルは店の外へ押し出された。なんのために買い物に誘われたのか分からなくなるキルである。
暫く待たされたが、店を出てきた二人の手にはまた新しい服が抱えられていた。
二人の満足そうな笑顔を見て、キルは気に入った服が買えたのだろうと判断した。
「良いのがあったみたいで良かったね」
「「はい」」
「そろそろお腹がすいてこないかい? ほら、もうお昼過ぎてるし」
クリスとケーナが互いを見つめてくすりと笑う。
「はい。すきました」
「先輩! ナイスタイミングっす!」
「実はさっきから美味しそうな店を探してたんだよね!」
「お洒落なところが良いっすよ! ねえ、クリス」
「そうね。キルさん、お洒落なところに連れて行って」
キルは二人にせがまれては仕方がないなと今までチェックしてきた店をおもいだしていた。
八月一日より新作アップ予定です。
『お宝探し、しませんか?』 ダメダメおっさんが、超絶美少女と仲良くなっても良いじゃないか。俺ってそこはかとなく良い男かもしれません




