372 帰省の朝
大きな伸びをして目向い目を開ける。昨日は少し飲みすぎたらしい。
宿屋のベッドで目を覚ましたキルは体をほぐしながら立ち上がる。
(ゼペックさんどうしてるかな? 帰ったらまた一緒に過ごそう)
(昨日はだいぶ食わしてもらったから、かなり密度が上がっちまって、肩パットの中にいるのもギリギリだぜ!)
頭の中でプニプニの生意気な声が響く。ここのところ死体の始末は、プニプニに食ってもらっていたので体積が増えて小さくなるのも限界だと言いたいらしい。
「出てこいよ。出てきて楽にして良いぞ」
キルの言葉を受けて肩パットからプニプニが飛び出しポヨンと跳ねる。そしてプニプニがグググっと大きくなった。そして初めて遭遇した時のような六本腕のオークキングに変形する。
(もっと大きくなりたいが、室内だからこのくらいにしといてやるぜ!)
「あの時より今の方が大きくなったのか?」
見た目はあの時と同じだが密度は今の方が濃いーーつまり同じ密度ならもっと大きいオークキングに変形するらしい。
(ああ! 今の方が強いぜ。へへへ! あ! 貴方様には敵いませんし、そういう気持ちもないですよ!)
「大丈夫だ。プニプニの気持ちも考えも伝わってくるからな。だがもう少し話し方を学んだ方がいいよ」
プニプニとの会話は声に出さずとも行えるのだが、つい声を出してしまっているキルである。自分の方が脳内会話を学ばないと突然一人で喋り出す変な人になりかねない。
キルの声でロムとホドがむくりと頭を上げる。そしてオークキング姿のプニプニを見て飛び起きた。
「大丈夫です。プニプニが変形してるだけです!」
身構えたロムとホドに、キルが急いで事情を説明する。プニプニも急いで小さく収束してピヨンとキルの肩パットの上に飛び乗った。
「プニプニはそんな能力を持とったんか?」
下顎を撫でながら、安心して警戒をとくロム。
「…………」
ホドも緊張が解けて体の力が抜けている。
「小さい姿も辛いようでもっと自然な大きさでいたいって言われて……」
「なるほど……」
「あれでも小さくなっているほうだそうで……」
「あれでか!」
オークキングの姿でも、頭は天井につきそうだった。
「街の外に出たら、一度のびのびさせてやりたいです」
「そうじゃな! その大きさも、知っておきたいしな」
「…………」
ホドもうなずいた。
(肩パット被うのじゃ小さいから胸当てになるってのはどうでしょうか?)
(その言葉使い良いじゃないか。変形もやってみてくれ)
プニプニがグググっと変形してキルの胸当てになり包み込む。
「へー! おかしくないよ」
キルがプニプニに向かって声を出す。
「何にでもなれるんじゃな」
「そうですね」
「なら……いっそのこと、人型になってもらって、横にいてもらうとかどうじゃ?」
(できるよ! こんなのどう?)
プニプニがグニョリと変形してキルの側で人型になっていく。
(どうかしら?)
話し方まで女性のものになっている。
「それじゃあ、クリスじゃないか!」
その姿はクリスにそっくりだった。
「驚いたわい! 誰にでも化けれるな」
「でも、クリスは不味いよ! もちろんケーナも」
「仲間と同じ姿はダメじゃろう」
ロムが冷静に補足する。
(じゃあ、これは?)
プニプニはまたグニャっとしたかと思うと別の人型に変形する。
今度はクッキーのようなメイド服姿で顔立ちは別の端正な女性のものだ。
「それならとりあえず良いんじゃないかな」
「うむ。そうじゃな」
(それじゃあ、今度からこの姿で行くね)
「空を飛んで移動する時は俺の鎧になって一緒に飛ぶんだよ。地上に降りたらその姿になっても良いけれど」
(めんどいな……それなら鎧に化けてるよ。置いていかれたら大変だし。時々素の姿になりたいけれど)
プニプニはまたキルの胸当ての所に引っ付いて擬態する。
「やっぱり、これが一番ですね」
キルが笑顔でろむをみる。
「そうじゃな」
ロムもホドと顔を見合わせ頷きあった。
「今日はルビーノガルツに帰るわけですけど、途中一度何処かでプニプニをのびのびさせてやりましょう。本来の大きさも確認しておきたいし」
「分かった。何処か他人に見られない場所で一度休んでのびのびさせてやろう」
(わーい。やったー!)
胸の辺りでプニプニがプニョプニョと動いて喜びを体であらわす。
「プニプニも喜んでますので、今日はそれでお願いします」
「それじゃあホームに帰ろう」
部屋を出てロムが精算を済まし、三人は空にとびあがる。そして一路ルビーノガルツを目指すのだった。




