369 ガムタイ族
チューリンにきて四日目の朝がきた。ギルドには冒険者が続々と集まってきている。そして冒険者は、まとまった数で一団が作られると城壁の守りに向かう。
どうやらマルス・フランシスは籠城の準備をしているらしい。
キルとロムは顔をみあわせる。
「籠城……てことは?」
「城の外は、知らんということじゃろう」
「周りの村々は守らないんですかね?」
「分からんが、まだそういう軍は組織されていないようだな。たぶん」
ロムは腕組みをして眉根を寄せる。城壁が兵士でガチガチに固められていく。
確かに城壁内部で集められる兵士の数は数千人というところだろう。二軍合計で一万六千の騎兵が攻めてきたら守るので手一杯かもしれない。他の領主に援軍をすぐに頼む状況だ。
数千の兵で正面から野戦を挑むのは確かに愚の骨頂ではある。昨日キル達に八千のスジタイ族を倒しに行かせたのは間違った判断ではなかったのかもしれない。
クムタイ族六千、ガムタイ族一万が移動して、どこかに去るまで援軍を頼りに籠城するのは堅実なやり方なのだろう。周囲の村々は全滅するかもしれないが、城郭都市を守れれば被害は少ないという計算ができる。
実際一万のガムタイ族だけでも城を守り切るのは難しい。今までだって一部族にこの都市は、征服されてきたのだ。
総人口二万程度の城塞都市で、集められるまともな兵士はせいぜい三千人から四千人だ。非戦闘職を動員しても良いところ一万数千というところ。
この世界では進化によって大きく強さが変化するので、個人の強さが勝敗にかなり影響する。
そういう意味で、騎士団の上級騎士のホーエンと特級剣士のリオ。冒険者の特級槍使いのツッキー、上級剣士のノエル、上級魔術師のリサは勝敗に大きな影響を及ぼす戦力である。
「確かに……、マルス・フランシスが俺達だけでスジタイ族を滅ぼせと命じたのは、間違っていなかったようじゃな」
「ルビーノガルツに援軍を要請される前に俺達で対処した方が……戦闘参加を申し出た方が良いかもしれませんね」
「うむ。早く申し出ないとルビーノガルツに援軍要請が出されてしまうな」
キル達はギルマスのコンノに自分たちの意思を伝える。コンノに連絡を頼んですぐにでもクムタイ族六千、ガムタイ族一万を討ちに行くつもりだ。
「了解しました。私から、マルス様に伝えておきます」
コンノはにっこり笑ってキル達を送り出す。
「お願いしますね〜! 全滅させちゃってください!」
踵を返したキル達にコンノの軽い声援が飛んだ。
まったく良いように使われているなと思うキルだったが、ルビーノガルツの人々を戦乱に巻き込まないためには仕方がない。
これもクリスのためだと自分に言い聞かせる。
ギルドを後にしたキル達は再び空に上がった。そして北方民族の方向に飛んでいく。
索敵、千里眼を駆使して北方民族を探す。彼らは昨日よりチューリンの近くまで移動していた。二つの集団を発見する。
「ガムタイ族から攻めましょう!」
「分かった!」
キル達はまず数の多いガムタイ族の方向に進路を変える。そして移動中のガムタイ族に広域大魔法をお見舞いする。
「流星雨!」
空一面に無数の巨大な魔法陣が出現する。そして隕石の雨がガムタイ属に降り注ぐ。阿鼻叫喚の地獄絵図が広がった。
昨日に引き続き三十分の連続攻撃で、一万のガムタイ族が殲滅される。
爆発を走り抜けた少数の騎馬兵はロムとホドが個別に攻撃し殲滅している。その中にガムタイ族の族長ガガンジがいた。
「お前達の仕業か! 許さん!」
全身にエネルギーを込めて強化魔法でステータスを上げる。そしてホドに全力を込めて斬りかかった。
「…………」
斬りかかるガガンジをホドが迎え撃つ。
馬上から振り下ろされる剣撃をホドが剣で受け止め弾き返す。
ガキーーイン!
折れた剣先がクルクル回りながら弾け飛んだ。
ガガンジが己の剣を見て叫ぶ。
「なんだと! ミスリルの剣がーー」
ホドの東方の武器・刀と体はエネルギーの光に包まれ強化されて輝いている。同じミスリルの剣や刀でも流すエネルギー量によって、強化のレベルによってその切れ味も強さも変わってくるのだ。
神級剣士の刀は、ガガンジの渾身の一撃を軽く切り飛ばした。
「…………」
ニヤリと口の端を釣り上げるホドが、返す刀を振り抜く。
エネルギーの刀身が伸びてガガンジをとらえる。
ガガンジは右肩から袈裟に切られ、二つに分かれた上半身が滑り落ちた。
特級騎士だったガガンジだがホドの一撃に反応することはできなかったのだ。
ホドは間髪を入れず次の獲物に目標を移す。瞬足を飛ばし刀を振り続け、生き残った兵士の首を飛ばす。
ロムも残敵を掃討してキルの元に戻ってきた。
「まずは一万じゃな!」
ロムの言葉にキルが頷いた。ホドも戻ってきている。
「次、行きますか?」
ロムとホドが頷いた。




