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異世界スクロール職人はジョブを極めて無双する   作者: 米糠


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357 買い物

「ここまできたんだから、ついでに商業施設を覗いていかない?」


 サラが嬉しそうにグラの顔を覗き込む。


「やっぱり、それが目的か?」


「あらやだ。そんなことないわよ。ついでよ。ついで」


 グラがキルに視線を送る。その視線にやれやれという感情が見て取れた。


「いいじゃないですか。俺も寄っていきたいです」


 キルも何かと買い揃えたい物はある。横でクリスも頷いた。


「さすがはキル君、話がわかる。それに比べてグラったら!」


 からかうサキに閉口するグラ。


「服見ましょ、クリスも見たいわよね!」


「はい。見たいです」


 サキは絶好調で仕切り始める。


「いくわよ。グラ、遅れないでね!」


「はいはい」


 サキを先頭に商業施設に入っていく四人。女性服売り場で服を見出す。キルとグラは待たされるだけだ。


「これどうですか?」


「似合うんじゃない」


「サキさんのそれも素敵ですね」


「うーん。こっちはどうかしら?」


 キルは北方民族のことを考えだした。


(詳しいことは分からなかったな。これじゃあ本当のところ、どうしたら良いか分からない……)


 結局クリーブランドと情報源は同じである。もっと詳しく知るには国境の街の商業ギルドに調べにいく以外はなさそうだ。


「キル君ー、ちょっとクリスの服を見てくれない」


 キルがサキに呼ばれて振り向くとクリスの恥ずかしそうにはにかんだ視線が突き刺さる。頬を赤らめ小首を傾げて俯き加減にキルを見るクリスの視線の破壊力は抜群だ。思わずキルも頬を赤らめる。


「に、似合っているよ。とっても可愛い」


 キルは頭を掻きながら俯く。


「そうですか!」


 クリスが満面の笑顔でキルを見つめる。


「じゃあ、これ買っちゃおう」


「グラー、ちょっと見てくれない? これとこれどうかしら? 私はこっちが良いかなと思うんだけど」


 サキがグラに意見を求める。


「ああ、どっちも良いんじゃない。君なら両方似合うよ」


 グラがサキによいしょするとサキは不機嫌そうにグラを睨む。


「どっちが良いか聞いてるのに、グラったらはっきりしないわね」


「そ、そうだね。君が良いって言ってた方が良いかなあ」


 グラが困った表情で額に汗を流す。


「そうかしら、でも少し露出が多くない?」


「うん。やっぱりもう一つの方が良いかな?」


「えー! こっちは大人しすぎるわよねー」


 グラが助けてとキルに視線で合図した。


「サキさん、試着してきたらどうですか?」


「そうねー、そうしてみよ」


 サキが嬉しそうに試着室に向かった。クリスもサキを追う。


「グラさん。サキさんてはじめの服の方が気に入ってるんじゃないですかね?」


「たぶんな。当てるのが難しくて困るよ」


 トホホというように背中をまるめる。


「ところでグラさん、北の国境近くに街に調べに行くって言ったら皆んな反対しますかね?」


 キルが真面目な話に話題を変えた。キルにとっては服などどうでも良いことだ。キルの願いはキルの仲間の幸せだ。できれば北方民族に攻め込まれる前にそれを防ぎたい。王国内が戦場になればそれだけ多くの住人が不幸になる。


「俺は反対しないよ。ロムもしないだろう。あとは分からんな」


「できればクリス達には戦争に参加してほしくないんですよね。たぶん俺一人で行っても北方民族を追い払うくらいはできると思うんですけど」


「そいつはどうかな。雑魚は置いておいて、一番強い奴は俺達と同じくらい強いかもしれん。一人はやめておけよ。俺とロムなら付き合うよ」


 キルはグラの申し出が涙が出るほど嬉しかったが、キルがいない時に残った皆んなを任せられるのはグラだと思っている。


「初めは情報を調べてくるだけですし、俺一人の方が身軽っていうか、気が楽っていうかーー」

 キラは、グラの同行を遠慮する方向で話を進める。


「だが一人はよしたほうが良い。ホドは東方の出身でかなり旅してこの地に着いた。だからもしかすると北方民族のことも少しは詳しいかもしれん。彼がついていってくれれば一番良いかもしれんがな」


「ホドさんですか」


「あいつは無口でなにを考えているか分からんやつだが信頼はできるぞ」


「それは分かってます。でも俺一人で十分ですよ。女の子達の方が心配ですし」


「あれだけ強くて皆んなしっかりしてるから、大丈夫だよ。サキに任せといてもね」


 グラが笑いを堪える。


「なに笑ってるの? グラ」


 サキが着替えて現れた。初めの服を身につけている。そしてポーズを取って意見を聞く。


「どうかしら? ちょっと露出が多いかな?」


 グラとキルが見つめると恥ずかしそうに手で隠す。見なくては分からないだろうとツッコミを入れたくなる。


「いいんじゃないかな。そんなに激しくないよ」


 グラが額に汗しながら言った。


 キルも胸元にいきそうになる視線をそらして頷く。


「大丈夫ですよ。良い感じです」


「そうかしら! じゃあこれに決めちゃおう」


 サキは喜びながら試着室に向かった。



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