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355 晩餐

 食堂のテーブルに15人が一堂に会する。


 目の前にはクッキーの作った料理が並んでいる。


 食欲をくすぐる美味しそうな匂いに唾液の分泌が盛んになる。


(俺の分もあるんですか?)


 プニプニはだんだん己の立場を理解し出してきたようだ。


(今、用意してもらうよ)


「クッキー! プニプニにも、これを食わせたいんだけど、あるかな?」


「はい、キル様。パンとオーク肉のジムジャムソースで良いですか?」


 クッキーのジョブは料理人だ。今は特級に進化していてこの国でも指折りの腕前に違いなかった。レパートリーも多彩でその料理を食べられるのは至極の喜びだ。


「パンだけでいいよ。食べさせすぎるのもなんだしね」


(あっちの肉……)


 肉料理が食べたいという思いを我慢するプニプニ。気持ちは伝わってくる。


(お前、味覚はないんだろう?)


(味は分からないが、分解した時の成分による違いはあるから、好き嫌いはある。肉は総じて好きだな)


「ここいらの主食はパンや麺だからそれに慣れてくれ)


(分かった。食えればなんでもいいからな……)


 クッキーが皿にパンを乗せてキルの前にならべると、プニプニがピョンと飛びついて体内に取り込んだ。プニプニの中でパンが徐々に溶けていく様は、じっと見ているとなんだか面白い。


「キルさん。今日母のところに行ってきたのですけれど、そこに父がやってきましてーー」


 クリスが困惑気味に話し始める。


「昨日北の様子は大丈夫だと言っていたのですが、あの後商人達から情報を集めたらしく、多少気にしているようでした」


「やっぱり……」


 キルは下顎を触りながら考え込んだ。


「ここで待つか? あるいは北に飛ぶか? 国内、北国境で戦いが起こらないようにするなら北に飛んで北方民族をどうにかするんだね」


 グラの提案を受けて眉根を寄せる。


「俺たちも商人に北の様子を聞いてみてはどうじゃ。クリーブランド様はもう聞き取りは済ませたのだろうがな」


 ロムも胸で両腕を組んで難しい顔だ。


「ほっときゃいいのよ! 何かあれば応援要請が来るんでしょ。それって、国境近くの領主の問題だもの」


 サキはあまり関わりたくないようだ。


 足りない食料をめぐって争いが起こるのは、北方ではよくあることだ。北方民族同士でも常にというほど戦いを繰り返している。それは逆に食料の需給関係改善に繋がっていた。


 その争いが北方民族同の間だけで済んでいれば良いのだが、往々にしてその戦禍は国境地域の王国領にも及んでしまう。領内の村々を襲って食料を奪う。領主は防衛の兵をだす。そうした小競り合いは珍しいことではない。ただルビーノガルツ侯爵領には無縁のことだ。かなり大規模な戦闘に発展しなければ応援の要請はこないのだ。


「明日買い物がてら商業ギルドに顔を出してみようかな? そのついでに色々聞いてみようと思う」


「販売員ではなにも知るまい。卸しに来ている旅商人がいれば何か聞けるかもしれん。あるいはかなり上層部の人間に話を聞くかじゃな」


「確かにロムの言う通りだよ。ただ国境近くの商業ギルドとここでは聞ける情報に差はあるだろうね」


「じゃあ、国境近くにちょっと飛んで聞き込みしてくればいいんですかね?」


 キルはグラに視線を向ける。


「そうだね。ここの商業ギルドで調べるよりましだろうね」


「せっかく帰ってきたのにまた出かけるんすか?」


「クリーブランド様はに任せておけば良いのでは?」


「うん。うん」


 少女達は少しゆっくりしたいのだろう。あまりこのことを深掘りしたくなさそうだ。確かに応援要請があるまではなんの問題もない。


「ギルドのお偉いさんに話を聞く方法ならないこともないぞえ」


 ゼペック爺さんが口を開く。


「何か伝手があるんですか?」


「いや。ない」


 キルはゼペック爺さんの顔を見返す。


「じゃあ……どうするんです?」


「それはのう、ギルマス案件になるほどのレアで高価なものを買取に出すことじゃ。例えばドラゴンの素材とかじゃのう。それも多量に……」


 ゼペック爺さんが悪い顔で眉を吊り上げ静かに笑った。


 確かに金額が大きくなれば上層部の人間が直接判断する必要が出てくる。


「さすがはゼペックさん! 確かにそうですね。ドラゴンの魔石をいくつか見せれば金額が金額だけにギルマス登場なんてことになるかもしれませんね」


 キルはゼペック爺さんに尊敬の眼差しを向ける。


「レッドドラゴンの魔石は売値4000万カーネル買値は2000万カーネルじゃから一つでは弱いのう。やはり億でのうては」


「じゃあ、幻のストレージのスキルスクロールではどうっすか?」


 ケーナがワクワク顔で話に加わる。


「きっとオークションになりますから、ギルマス案件になりそうですね」


 クリスも賛成するがキルは表情を曇らせる。


「希少すぎるスクロールは……うーん」


 嫌な記憶が脳裏をよぎる。また追われるようなことになったら身も蓋もない。


「エンシェントドラゴンの魔石ならどうですか?」


「うん。うん」


 エンシェントドラゴンの魔石はキルも材料として使いたい。数百持っているレッドドラゴンの魔石とはちょっと扱いが違ってくるのだ。だがこれからもエンペラードラゴンを探していればいくつも手に入るのは間違いなかった。


「なんなら十個くらい出しちゃえば良いんじゃない?レッドドラゴンの魔石をドカーンと」


 エンシェントドラゴンの魔石を売りたくなさそうなキルを見てサキがあっけらかんとした口調で言う。


「それなら二億カーネルになりますね。それでいってみようかな」


「なんならブルードラゴンの魔石も五十個くらい売っちゃえば? 余ってるんでしょう?」


 気楽なサキの言葉にキルが頷く。確かにレベルを上げようとしてレッドドラゴンやブルードラゴンはダンジョン内で狩りまくったのでその魔石も余っていた。


「そうしてみようかな……」


「ストレージのスキルスクロールの方が確実にギルマスが出てくると思うっすよ」


 ケーナの言葉にキルもそうだろうという気はしている。オークションを見たいと言えば、オークションの段取りなどギルマスが付きっきりで相手をしてくれそうだ。


「なんなら僕がスキルスクロールの持ち主ってことで、君は付き添いを装っていればスクロール職人なのを隠せるよ」


「なるほどそうですね。お願いします。スクロールとドラゴンの魔石とギルマスが出てくるまで出し続ければ間違いなさそうですね」


話はまとまり、キルはその晩ストレージのスキルスクロールを四枚作った。



 






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