354 従魔 3
プニプニに6本目の串焼きを突っ込んでルビーノガルツの繁華街をうろうろ見て回っていると防具屋が目に入る。
プニプニを入れて置けるようなポケット付きの防具がないかと考え探してみると良さそうな防具を見つけた。肩パットに収納機能が付いている。
(これならプニプニを入れて置けるな)
キルはその肩パットを手に取り材質や強度を確かめる。
(主、主、それに俺を入れとくつもりかい?)
(そうだ。ここに入っていても、俺の見てるものをお前も見れるだろう)
(そうですけどね……ただ、わざわざ買わなくても俺がそういう形に変形擬態してれば良くないですか?)
(なるほど)
(なんなら鋼鉄製の胸当てとかになりますぜ。強度だってここらの防具より強いですし)
(確かにそいつは良い考えかもなあ)
だがよく考えてみれば、プニプニがスライムとして戦う時キルの防具が一つなくなるということだ。
(防具の上に張り付いて目立たないようになってみて)
キルの命令に従ってプニプニがぐにゃりと変形する。
(こんなんどうですか?)
キルの肩パットがちょっと高そうな棘付きの肩パットに変形している。表面と棘がプニプニだ。
(これなら良いんじゃない? でも棘はいらないな)
(じゃ、こうですか?)
今度は棘がくにゃりとだらけて平らになる。
(うん。これでいい)
キルは満足して防具屋を後にした。
「キルさん。いいのがなかったのかえ?」
「そうですね。必要がなかったみたいで……」
「プニプニはどこいった?」
「この肩パットがプニプニです」
肩パットのプニプニがグニャリと変形して挨拶する。
「ああ、おったおった」
ゼペック爺さんが現れたプニプニを見て大笑いをする。
「プニプニも邪魔にならずに良い感じじゃのう」
(なんで笑ってるんだ?)
(可愛かったから笑ってるんだよ)
(人間てのは分かんねーな)
(そのうちなれるだろう)
「ゼペックさんそろそろ帰りますか?」
「そうじゃのう」
大通りに出てフライを唱える。二人は空高く舞い上がる。
ホームまでは一っ飛びだ。帰ったらプニプニを皆んなに紹介しておく必要がある。
あっという間にホームについて玄関を開けるとルキアとモレノがホールで出迎えた。
「今日は楽しかった? ゼペックさん」
「キルさん。何か連れてきた……」
ルキアは銀の髪を揺らしながら青い瞳でキルの肩パットを見据える。
モレノもプニプニに気づいた。プニプニが変身をとき、スライムの形にぐにゃりと戻る。
「なにこれ、可愛いー」
右手で金色の髪をおさえながら、左手の人差し指でツンツンとつっつく。
モレノはプニプニが気に入ったのか満面の笑顔だ。
(全く、人間は皆んなこれをするのか?)
プニプニは不快に感じているようだ。
(これは愛情表現だから、慣れろよ)
(そうなのか。なら喜ばなくっちゃな)
「モレノだけずるい。私も触りたい」
ルキアが右手の人差し指でプニプニをツンツンし始めた。
楽しそうに笑う二人。今はプニプニも上機嫌だ。
「お帰りなさい」
「お帰りっす」
クリスとケーナもホールにやってくる。
「見てください。スライム!」
モレノが振り返って二人を手招きする。
キルが肩のプニプニの前に掌を差し出すとプニプニはピョンと飛び乗った。
キルがプニプニをクリスとケーナの目前に差し出す。
「キャー可愛い!」
「小ちゃいっすねー」
「キルさんがテイムしたのじゃ」
ゼペック爺さんが得意げに笑う。
「プニプニなんですよー」
モレノがプニプニをツンツンして見せる。
「本当! プニプニねー」
クリスがワインレッドの瞳を輝かせる。
「自分も触って良いすかね?」
ケーナも人差し指をツンツンする準備に入る。
「いいよ」
(いいですよ)
ケーナもツンツンし始める。
「本当プニプニっす。可愛いー」
「私も!」
クリスもツンツンし始める。
二人の笑顔が輝く。
「テイムしたってことは、キルさんの従魔ってことすか?」
「そうだね」
「いいっすね。可愛い従魔。自分も欲しいっす」
「こんな可愛いけど、魔物だからね。実際強いよ、こいつは。少なくともオークキングより強い」
「信じられません!」
クリスが驚いて目を見張る。
「いくらなんでも嘘でしょう?」
モレノが複雑な笑顔でキルをみる。
「今は俺と戦って力を落としてるけど、すぐに力は取り戻すだろうし、そうなったらなかなかだよ」
「本当なんですね」
ルキアが静かに頷く。キルも口の端を吊り上げる。
「あー、なにそれ、可愛いー!」
ユミカがホールに入ってきて目ざとくプニプニを見つけて叫ぶ。
「えー、どれどれ? 本当可愛い!」
「うん。うん」
エリスとユリアもやってきた。
「お食事の用意ができーー!」
クッキーが呼びにきてプニプニの可愛さにフリーズする。
再びツンツンが始まった。




