341 ザロメニア城塞の攻防 30
「そうだな。そろそろルビーノガルツに戻りたいよな。俺もゼペックさんに会いたいし」
キルの脳裏にゼペックの悪人顔が浮かんでいた。
「ロム達が戻って来たら、将軍達に挨拶をしてから帰るとしようね」
グラが笑顔でそう言った。
グラも自国の防衛のためとはいえ、獣人達を殺しまくるのはもうそろそろ遠慮したい、あとはロマリア軍に獣人軍の殲滅を任せて結果だけをしっかり見定めた後に出来るだけ早く帰りたいのだ。
一方的な虐殺は、あまり精神衛生上よろしくないのだ。
「途中、緑山泊に寄って事の転末を伝えていくのでしょう?」
サキがグラの考えを確かめるように見つめる。
「そうだね。俺もそうしなければとは思っていたよ」
「きっと情報は、入っていると思うけど、当人が伝えに行かない訳にはいかないものね」
「まあなあ。サキは緑山泊に寄って行きたくはないのかい?」
「そんな事はないけれど〜」
何故か顔を赤らめるサキを見て不審に思うグラであるな。
「サキさんは、賞金稼ぎのゼットさんが居ないかな〜、なんて思ってるんですよね!」
モレノが、サキの密かな思いをぶちまけた。
「ななな、何を言っているの。そんなわけないでしょ!」
サキが顔を真っ赤にして否定する。誰の目にもモレノの言うことが本当だと分かってしまった。
モレノの頭にルキアの拳骨が落ちてモレノが頭を抱えてうずくまった。
「モレノ、他人の恋心をバラしてはダメ!」
ルキアのこの発言もモレノの言っていることが真実だと言っているようなものだが、本人は気付いていないようだ。
頭を抱えながら痛みを堪えてモレノはルキアを見上げた。
「ごめんなさい、、」
涙目である。
「本当に、そんなことはないんだからね! モレノちゃんたら勘違いにも程があるわ!」
サキが必死に否定し続けた。
「ど、どうでも良いけどさ! サキが違うって言うんだから違うんだよな。ははは!」
グラがあっけに取られたような表情でサキを落ち着かせようとした。
そんな時にロムとホドとエリスとユリアが戻って来た。
「どうしたんじゃい?」
ロムがグラとサキの様子を不審に思いながら聞いた。
「いや、何でもないよ。そろそろ戦いも終わりだなあって話してたところさ」
グラが話がこじれないように少し話をずらす。
「そうじゃな! 敵の将軍は皆、討ち取ったんじゃろう。わしらの仕事も此処までじゃな」
「そう。それでね、殲滅戦を見届けて、挨拶を済ませたら、緑山泊に寄ってからルビーノガルツに帰ろうと話していたところさ」
頭を抑えてしゃがみ込むモレノと顔を赤らめるサキを交互に確かめながら、ロムは不審そうに眉を寄せる
「またモレノが無神経なことを言ったのね」「うん。うん」
いつもの事だと言わんばかりのエリスとユミカの一言に、ロムの表情から不信感が消え去った。
グラがそういう事だと言わんばかりに頷く。
「よく分からんが、分かった。掃討戦を見届けるのにも時間がかかるじゃろう。いっそ空爆して掃討戦にかかる時間を短くしたらどうじゃ」
ロムの提案にクリスが喜び明るい笑顔を浮かべる。キルは早くルビーノガルツに帰ろうと思った。
「じゃあ、とっとと獣人軍の息のねを止めに行きましょう」
キルが皆んなの顔を見回し、皆んなが頷いた。そして全員がフライを唱える。
西の向かって飛行する『15の光』。行手を遮るものは何もない。
一気に逃げる獣人軍を追い越して旋回すると全員で空から攻撃を開始した。獣人軍の逃げ場が爆発と矢と剣撃の嵐で塞がれる。前に進めず後ろからは攻め立てられ指揮官もいない。獣人軍の混乱はいきなりピークに達した。
獣人軍の殲滅まで1時間とかからなかった。
キル達は全滅する獣人軍を上空から見届けた。
「よし。これでミッション完了だ! 引き上げよう」
グラの号令で『15の光』は東に向かって移動を開始する。
その晩ザロメニア城塞では勝利の宴が催された。だがその宴にキル達『15の光』の姿はなかった。
キル達は挨拶を済ませるといち早く緑山泊を目指していたのだ。そしてその晩はロマリア領内のとある平原で野営をしていた。
「これでひと安心だね、キル君」
「はい。今回は俺が突然無理な事を言い出して申し訳ありませんでした」
キル達は酒を飲めないがグラ達大人は酒が入っている。ザロメニア城塞で宴会用のピールを一樽もらって、マジックバッグに入れて持って来たのだ。食材もマジックバッグに収納してあった肉などを使っている。
「やはり勝利の美酒は美味いものじゃな!」
ロムが香ばしい匂いを放ち油を滴らせるモーモウの肉にかぶりつく。
「そうね、ロマリア軍の人達と一緒にいるのは落ち着かないからこうして飲めると最高だわ?」
サキがピールのジョッキを高く持ち上げながら満足そうに笑う。
「お酒はまだ飲めないけど、勝利を肴に食べる食事は最高っすね!」
「私も今日は納得のいく闘いができて最高であるな」
皆んなそれぞれが大仕事をやり遂げた充実感に満足し、重かった責任感から解放された喜びを存分に見せるのだった。
忙しくなって来ましたので、一旦此処までで少しお休みを入れます。
時間ができましたら続編を書いて投稿しようと思います。
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