263 『15の光』始動 2
「流石ね、キル君」
「いえ、それほどでもありませんよ」
「傷の少ない良い素材が取れて良かったわ」
サキは満足そうだが、ユミカはドラゴンと戦えなくて残念そうだ。
キルはレッドドラゴンの遺体をストレージに収納した。
「ギルドに戻ってドラゴンの素材を買い取ってもらいましょう。それから次の狩りの準備ですね」
「次はデスビオ山脈の奥地の調査だね、ドラゴンが住んでいれば良いんだけれど」グラがキルに笑顔を向ける。
「クッキーちゃんに料理を作ってもらわないとですね」「うん。うん」
「ルビーノガルツまで一っ飛びっす」
キル達はルビーノガルツを目指して飛行した。
ルビーノガルツ冒険者ギルドでレッドドラゴンの討伐を報告すると受付嬢におどろかれる。討伐してきたことと、ストレージに収納してドラゴンを持って来たことにだ。
素材の買取をお願いすると買取所の奥の解体所にドラゴンを出すように指示された。当然そこでも驚かれた。ドラゴンを狩って来たことだけでなくその状態の良さについてもだ。
なにせ一撃のもとに首が刎ねられているドラゴンの素材なんて、あり得ないほど最高に良好なコンディションなのだ。そんな狩り方のできる冒険者なんて聞いた事もない。
レッドドラゴンの魔石はキルがもらいそれ以外は引き取ってもらう事になる。
この事で、今までギルド内でキル達の実力を捏ねでAランクになったと陰口を言っていた冒険者達がキル達の実力を認める事になった。そして敬意を持って『ドラゴンスレイヤー』と呼ぶようになった。
キル達は、クランのホームに帰って今回の成果をゼペック爺さんとクッキーに話した。
「流石はキルさんじゃのう。レッドドラゴンを一撃で倒したのかえ?」
「凄いです!流石はキルさんです。次の狩りのために料理を作っておかなくてはですね」
「たのむよ、クッキー。明日にもデスビオ山脈に出発しようと思ってるからね」
「はい。マジックバッグに食材も料理の作り置きもあると思います。今晩もっと作っておきますね」
ギルドから連絡があったのかルビーノガルツ侯爵クリーブランドがクランホームを訪れた。
「やあ、レッドドラゴンを狩ってきたそうじゃないか?ギルドではその話で持ちきりだそうだよ」
「これは侯爵様、よくいらしゃいました」
グラが片膝をついて出迎えた。
キル達もそれに倣う。
女子達はカーテシーをする。
「お父さま、突然いらっしゃるとは、どうかしたのですか?」
「特にどうという事はないのだがね。ドラゴン狩りの話を聞けたらなと思ったのだ。皆、堅苦しい挨拶はいらぬぞ、突然訪れてしまってすまなかったな」
「いえ、そのような事は……」
グラが代表してクリーブランドの応対にあたった。
グラはクリーブランドにドラゴン狩りの転末を簡単に説明した。
「ほーう、それじゃあ、キル殿が一刀の元にドラゴンの首を刎ねたというのだね。素晴らしい」
「あ、ありがとうございます」
キルは頭を下げた。
「キル殿には先のスタインブルク戦でも協力をしてもらったね、それにクリスチーナの事、世話になりっぱなしだ。ありがとう。今度何か礼をさせてもらうよ」クリーブランドがキルの両手をとってにこやかに笑った。
キルも強張った笑顔でこたえる。
「ドラゴンを狩った後は暫くお休みをとるのかい?」
「いえ、明日にでも次の目的地に向かおうと思っています」
「と言うと?」
「デスビオ山脈の奥地にドラゴンが棲んでいるという言い伝えが有るそうなので、調べに行こうと思っています」
「またドラゴンかい?どうしてまたすぐにドラゴンを狩りに行こうとするのかな?」クリーブランドは不審そうに眉を顰めた。
「エンペラードラゴンの魔石が欲しいので……」
「エンペラードラゴンの魔石…またどうして?」
キルは迷ってから言葉を濁した。
「スクロールの材料にする為です」
「そうか、キル殿はスクロール職人のジョブをお持ちなんだったっけね。剣士も魔術師のジョブも持っているとか?クリスチーナに16のジョブで神級だと聞いたよ。本当かい?」
「はあ、まあ、そんなところです」
キルは頭を掻きながら照れ隠しをした。
「それはスクロール職人だからできた事なのかな?」
「それもありますけれど、たくさんの討伐経験値を稼いできたのもありますね。ドラゴンもたくさん狩ってきました」
「ドラゴンもたくさん狩ってきた!たくさんとは凄い事だね、君にとってはドラゴン狩りなど日常茶飯事だったのか?驚いたな」
クリーブランドは改めてキルの強さに感心した。そしてこのパーティーのメンバーも同様にドラゴン狩りなど日常茶飯事なのだと思い至る。
「クリスチーナも君達と一緒に行動ができてとても幸運だったと思うよ。これからもクリスチーナの事よろしく頼んだよ」
「はい。勿論です。それにクリス、いえ、クリスチーナお嬢様には我々もいつも助けられているんですよ。なくてはならない仲間なんです」
「そう言ってもらうと私も安心できるよ、ありがとう」
キル達とクリーブランドの時間は安穏に過ぎていった。




