259 恩赦の影響
貴族軍は解散して自分達の領地に戻り出した。
キル達も一度緑山泊に戻ることになった。
キルはロマリアに備えて自分達ができるだけ早く緑山泊に戻って待機すべきだと考えていたのだ。
「お父様、それでは私たちは緑山泊に戻らせていただきます。」クリスはクリーブランドに別れの挨拶を済ませた。キル達もクリスの後ろでクリーブランドに頭を下げる。
そして5人は緑山泊に向かって空を飛んで行った。
緑山泊に着くと不死身のゾルタン、知恵の泉ジルベルト、慈愛の光ソンタクら緑山泊の首脳陣達が迎えてくれた。
「皆さん、お早いお帰りでしたね。スタインブルクの軍は追い払うことができたのですね?キル君が行ったのですからスタインブルクに勝ち目はありません、彼らも運が悪い」ゾルタンが笑顔で言った。
「ハハハハハ、そうですね、スタインブルクはキューリー軍とナイル軍だと聞きました。彼らではキル君を討つ事は不可能、いや、スタインブルクには聖級までの人材しかいなかったはずですから誰が出て来てもキル君を討つ事はできなかったでしょう」ジルベルトも笑っている。
「神級レベルの人間相手ともなると兵の数ではどうにもできませんからね、精鋭の兵のレベルが釣り合っていなければ戦いにならない。イタズラに兵を損なうだけでしょう」ソンタクがキル達を見つめる。
「そうですねえ、キル君達は我々とはまるでレベルが違いますからね。とても頼りになる」不死身のゾルタンが言った。
「グラさん達が見えませんけれど何処かに行っているのですか?」
キルはグラ達8人がいないことに気づいてゾルタンに問いただした。
「ああ、彼らはパリスの街に様子を見に行きましたよ。恩赦が有りましたから、もうあの街で昔のように暮らしても大丈夫ですからね。今頃ホームの様子を確かめているんじゃないでしょうか?」
「ロマリアに備えていなくて大丈夫なのですか?」とキル。
「ロマリアには備えていますよ、我々がね。大丈夫、軍が動いてから呼んでも飛んでこられるでしょう」ゾルタンが答えた。
「それに緑山泊は天然の要害、我々だけでもやりようはいくらでも有ります」とジルベルトが胸を張る。
「グラさん達はまたパリスで冒険者ができるか確かめに行ったようですよ。ここにいても暇なんでしょう」とソンタク。
「キル君達も冒険者に戻って良いのですよ。ロマリアの事は気にしなくても大丈夫。我々だけでも暫く足止めくらいはできますし、本来国軍が相手をするべき問題ですからね。それにキル君達だって、求めればすぐに駆けつけてくれるんでしょう?」ゾルタンが笑う。
「それにこの前の敗戦でここ2〜3年は攻めて来る戦力が整わないでしょう。この点はスタインブルクも同様だ。そして2〜3年後には、ベルゲンシャイン国王も戦力を整えられるでしょうしね」ジルベルトが状況分析をさらっと説明する。
「俺達も、冒険者に戻ってしまって大丈夫なのですか?ここでロマリア王国の侵略に備えていなくても良いのですか?」キルはゾルタンやジルベルトに確認した。
「大丈夫、大丈夫、安心して冒険者を始めてください。私の知るところではここ2〜3年は攻めては来ないでしょう。ですからその頃までは好きな事をしていても良いのですよ。もしキル君達の力を借りたい時は連絡を入れますからよろしくお願いしますよ」とジルベルトが太鼓判を押した。
「そうそう、明日にでもパリスのホームに行ってごらんなさい、グラさん達と合流できるでしょうから、そのまま冒険者に戻ったらどうですか?」
ソンタクが、パリス行きを勧める。
「本当に良いのですか?」キルは再度確かめる。
「もう皆さんは罪人ではないのですから、ここに留まる理由は有りません。勿論とどまっていただいても良いのですが、冒険者に戻って普通の生活をした方が良いですよ。ここは罪を犯したものや訳ありの者が集まっている場所ですからキル君達がいるべきではないですよ」とゾルタンがいった。
「俺はまたバーサーカー化してやらかしちまうとまずいので、此処にとどまるけどね」バーサーカーロメオが照れ笑いをしながら言った。
「俺もちょっと力の加減が下手くそだからなあ、それに此処が気に入ってるんでね、寝ぐらは此処だな、たまには遊びに行くからその時はよろしく頼むぜ!」偉そうに言うのはドラゴンロードのペケだ。
なんだかんだだ言いながら緑山泊の首脳陣は皆此処にとどまっている。
だがそこそこの人間は罪を許されたために元いた町や村に帰って行ったものも少なくないらしい。ゾルタン達はそれを良しとして受け入れていた。
キルはクリス、ケーナ、ゼペック、クッキーの顔を見回して相談した結果、明日パリスに行ってグラ達と合流する事にするのだった。




