257 クリーブランドとギルバート
ルビーノガルツ侯爵クリーブランドは幕舎を離れてルビーノガルツ軍に戻った。そしてギルバートを呼んだ。
ギルバートはすぐにやって来た。
「旦那様、お呼びですか?」
「うむ、ギルバート、実はな、キル殿を我が配下にできぬかと思ってな?」
「キル殿を?でございますか?」
「そうだ。どう思う?」
「それは良い考えでございますが、ただキル殿は貴族に召し抱えられる事を望みますまい」
「何故だ?」不審に思うクリーブランド。
「キル殿は前王の誘いを断る為に逃げまわっていたそうにございます。その為ゼペック老人とクッキー嬢が人質として捕えられたとの事」ギルバートが語り続ける。
「キル殿は2人を救出する為に牢破りを行なったそうでございます。その為クラン全員で逃亡の旅に出る事になった……と」
「そんな事があったのか。それは何処から仕入れた情報だ?」
「クリスチーナお嬢様から直接聞きましてございます」
「なるほど、それなら間違いという事はなさそうだな。……となるとキル殿を雇い入れる事は難しそうだな。ではケーナ嬢はどうだ?」
「キル殿のパーティーはとても稼ぎが良く生半可な給金では自由な冒険者を辞めて貴族の使用人になろうとは思えないでしょう」
「そんなに稼ぎが良いのか?」
「あの強さですからね、昔クリスチーナ様についてキル殿のパーティーとご一緒した時でも日に数百万カーネルを簡単に稼いでおりましたぞ。当時は今ほど強くはなかったと思いますが」
「数百万カーネルだと?そんなに稼げるのか?」信じられないという表情のクリーブランドだ。
「はい。ですからキル殿のパーティーはお金では雇い入れる事は不可能と推察致します」
「なるほどなあ……。金で雇い入れる事は不可能か……」
クリーブランドは腕を組んで考え込んだ。
「もう一つはクリスチーナの事なんだが、娘は我が家に戻って来るようにはできぬものかな?冒険者を辞めて貴族に戻るという事はできぬか?」
「貴族に戻るとよその貴族様に嫁入りせねばなりますまい?それは嫌がるでしょう。元々それが嫌で家出したようですし」
「だろうなあ……困ったものだ」
「ですが、ご結婚をなさった後であれば貴族に戻られる事も可能かもしれません。まああまり喜びはしないでしょうが……自由な冒険者と不自由な貴族の暮らしでは、どちらに魅力を感じるかは自明の理ございますからね」ギルバートは眉根を寄せながら言った。
「確かになあ……」
クリーブランドも納得する。
「ただ……お近くにお住まいになられる事くらいまでなら、お優しいクリスチーナ様のことですから可能性はあると思います。」
「なるほどなあ、その線でいくしかなさそうだ。それでは聞くが今、クリスチーナには思い人などはおらぬのか?」
「残念ながらそこまでは知りませんが、ただクリスチーナ様の近くにいる歳が釣り合いそうな男性はキル殿くらいかと……」
「ホウ……キル殿……ね、ふむ、なるほど……ふむ」
クリーブランドは顎を撫でながら口の端を上げた。
ギルバートはクリーブランドの様子を見て不審そうに問いかけた。
「どうかなさいましたか?旦那様」
「イヤなに。大したことではない。少し妄想をしてしまっただけだ。クリスチーナはあの美貌、キル殿はあれ程の強者、お互いが惹かれあっても不思議はないのではないかと思ってな」クリーブランドがギルバートを見返した。
「ですが旦那様、キル殿のパーティーにはクリスチーナ様と同じ歳の女子が他に7人もいます。そのいずれもが美少女でございます。」
「クリスチーナよりも美しいというのか?」
「いえ、そうは言いませんが……」
「そうは言わないが……なんだと?」
「それほどの美少女達に囲まれていてもキル殿はなんと言いますか…彼女達に興味を示している風ではなさそうでした。誰にも……」
「それは……何が言いたいのだ?」
「あまり興味がなさそうだったという事で……」
「なあに、心配せずとも後数年のうちにはそっちの方にも興味が出て来るに違いない」クリーブランドは口の端を上げた。
「さようでございましょうか……」
「ギルバート、クリスチーナと話がしたい。呼んできてくれ」
「はい。かしこまりました」
ギルバートはクリーブランドに頭を下げるとクリスを呼ぶ為に踵を返した。




