254 ダミダナル平原の戦い2
貴族軍
「報告します!スタインブルク軍は北方に移動を始めている模様です」
報告を耳にしたベルゲンケルトは腕を組んで考え込んだ。
ベルクレストも眉根を寄せる。
「挟撃される事を避けるために北に逃れたという事であろうな」
ベルゲンケルトが口を開く。
「そうでしょうな」ベルクレストがベルゲンケルトに同意する。
「追いますか?」とベルクレスト。
「どのあたりに移動して陣を敷くかは想像できるな。とすると我々はこの辺りに陣を敷いて明日に備えるとしよう。こちらの兵は少ない。正面からまともにぶつかるのは得策ではない。早朝奇襲を仕掛けるしかなかろう」
ベルゲンケルトは奇襲をかけるつもりだ。当然と言えば当然かもしれない。
「ベルゲンケルト様、ルビーノガルツ侯爵様の援軍5人でございますが」
ベルゲンケルトはベルクレストの発言を制して話し出す。
「知っているぞ。空を飛んで先行し、空爆して敵に甚大な被害を与えたらしいな。相当な強者だ。緑山泊との戦いでその実力は嫌というほどわかっているさ」
「さようでございます。ですのでまず彼らに空爆をしてもらうのが良いでしょう。そして敵が混乱したところを総攻撃するのです。」
「そうだな、空爆から入るのが1番かもしれん。クリーブランド卿に話を通さねばな」
* * *
第2聖騎士団軍キューリー将軍は第3聖騎士団軍の敗残兵を糾合し5000の兵を補いつつその兵を第3聖騎士団軍ナイルに任せた。
「問題は2つ。敵空軍を使わせないようにする事。これは貴殿がやったように混戦状態にする事が大切だろう。もう一つは敵の最強戦力をどうやって潰すか?これはこちらの最強戦力をぶつけるしかなかろう」
キューリーは聖級光精霊の召喚石を取り出した。
「これを使うしか無いな」
「では私の召喚石も使いましょう。これと私達聖級2人で1人ずつ潰すしか有りますまい」
「すまんな。ナイル」
ナイルとキューリーは親友だ。
「4対1でも危ういかもしれぬがな……」
「それほどか!」
「いや、直接対峙したわけではないし、よくはわからんがな、ただ今までにない圧力は感じたな」
ナイルは眉根を寄せる。
「やるだけやって、逃げる判断は早めにした方が良さそうだな。死んでは何もならんからな」
キューリーの目は遠くを見ている。
「秘薬を持たせてある者には使わせた方が良いかもしれん。出し惜しみしていては破れるぞ」とナイル。
「そうしよう。勿論私も使う。それと指揮官クラスの中から特級の者を集めて近くに控えさせる。秘薬を使えば聖級並みになる。私達の助けになるやもしれぬしな」
「それが良い」
キューリーの元に特級聖騎士が4人集められ、指揮系統の再編が行われた。
* * *
貴族軍の陣では早朝の空爆から総攻撃に備えて準備を進めていた。
東の空が明るくなってきている。太陽が姿を現すのももうすぐだろう。
キル、クリス、ケーナ、ゼペック、クッキーの5人も装備を整えていつでも出発できる状態だ。
突然陣の北から歓声が上がった。怒号も飛び交っている。
どうやら敵の奇襲攻撃を受けているようだとキルは推測した。
「敵の奇襲だ!空に上がったって、応戦しよう。混戦になる前に!」
キルが叫んで空に上がった。クリス達もすぐさまキルに続く。
陣の北からスタインブルク軍が攻撃を加え貴族軍の陣に侵入を開始していた。
貴族軍も戦いの準備をしていた事が幸いして武装していたほとんどの兵が応戦に当たっている。ただ早朝の敵全軍攻撃とあって押されている。
ここまでの大軍勢が気づかれずに近づくとは驚くべき事である。
2万近い軍勢が一斉に襲いかかってきていた。
キル達はスタインブルク軍に空爆を開始した。まだ混戦になっていない中後衛の軍に対してだ。
貴族軍は全軍混戦の状況を呈しているが総崩れというわけではない。
ベルクレスト軍の一画が押し返しているのはゴリアテと『谷間の百合』がいるあたりだろうか、ゴリアテは一騎当千だ。
キルの目に2つの召喚陣の光が見えた。
「光精霊の召喚石を使ったな!あれは俺が対処する。空爆は任せた!」
キルはクリスにそう言い残して召喚陣の方に急行する。
2体の聖級光精霊が上空でキルを迎え撃った。
光精霊の背後で魔法陣が光幾万本の光の矢がキルを襲う。
キルは高速急旋回の飛行でその矢を易々と躱し光精霊に斬りつけた。
一刀両断され光精霊が泡となり消える。
そしてもうその時に、キルはもう一体にも斬りつけていた。
眼下では秘薬を使ったのか急激に強さを増す者の気配が感じられる。
キルは地面へと降り立った。この中の特に強い2人が敵将に違いないとキルは思った。




