252 アムテルの戦い 2
「スタインブルク軍はこの後どう出てくるのでしょうなあ?」
ベルクレストがクリスの様子を見て話題を変えた。
「さようですなあ。このまま逃げかえれば良し。さもなくばこちらから攻めいってやりましょう」とベルゲンケルト。
「これは頼もしい。アムテルの街もこれで安心というものです。早く奴らを撃退してダミアの救援に向かいましょう。あそこでも激戦が続いているようですから」とアムテル男爵テルラムは好戦的な意見を口にした。
「確かにテルラム卿の言う通りだが、我らはここまで移動してきたためににかなり疲労している。ここは明日まで休ませてもらいたい」
ベルゲンケルトがテルラムの意見に水をさした。
「そうですなあ、私もそう思いますぞ」とベルクレスト。
「ではアムテル城内で休んだ方が安心でしょう。城内に軍を入れてください」
テルラムの提案に従い貴族軍7500は、アムテルの城壁内に入って休養をとるのだった。
* * *
第3聖騎士団団長のナイル将軍は傷ついた兵達の治療を命じた。
スタインブルク軍には聖騎士、聖職師などが通常の国の軍と比べて多いためヒールなどの回復魔法を使える者の割合が多いのが特徴だ。
スタインブルク軍はキル達の爆撃のせいで多くの死者の他に多くの怪我人を出していた。
今はいち早く負傷兵を治療する事によって戦力の回復をはかることが最も大切な事で有る。
そしてスタインブルク軍はその能力が高いという特徴をおおいに示したのだった。
軍はヒールのかけ声と魔法発動による光に包まれていた。
「全体の15%の兵を失うとはな!それにしても恐ろしい魔術師がいたものだ。あの魔法が相手となると戦いにならぬな」ナイルは眉間に皺を寄せる。
なんとか魔法攻撃に対策を講じなければならないがなかなか良い対策は思いつかない。
上空からの魔法攻撃に対しては弓矢で攻撃する以外は打てる手が無いが上への攻撃は矢の勢いも落ちるし射程が届かない場合もある。
「一方的に攻撃を受け続けるくらいなら一旦引く方が良いか?何か奇策は無いだろうか?」第3聖騎士団団長ナイル将軍は目を閉じて考えるのだった。
* * *
貴族軍幕舎
「報告します!スタインブルク軍は西に向かって移動を始めました。ダミダナル平原に向かっている模様!」
ベルゲンケルトとベルクレストが顔を見合わせる。
「ダミアを攻めている軍と合流して王国直轄第3、第4軍をたたくつもりか?」
ベルクレストが敵軍の目的を推測する。
「なら我々もダミダナル平原に向かい敵軍を挟み撃ちにするまででは?」
とクリーブランド。
「急がないと第3第4軍が危なくなる。こちらも急ぎ出発だ!」
ベルゲンケルトが言った。
貴族軍は急遽出陣の準備を始め、ナイル軍を追う形で出発した。
「良し!このチャンスを逃すな!敵軍の背後から急襲するぞ!急げ!」
ベルゲンケルトの号令でベルゲンケルト軍が走って行軍した。
ベルクレスト軍、ルビーノガルツ侯軍、パリス侯爵メレンハイト軍もそれに続いて走り出した。
戦争において相手と正面からぶつかり合っている時は案外損害は少ないものだが、背後から襲われたり横から攻撃された時は大きな損害が出るものだ。
ベルゲンケルトにしてみれば引いていくスタインブルク軍の背後から攻めかれるというのは必勝のチャンスという事だ。
「見えたぞ!あれがスタインブルク軍の殿だ!捉えるぞ」
ベルゲンケルト軍がスタインブルク軍の殿を視界におさめ行軍スピードを上げる。
その時であった。ベルゲンケルト軍の左右からスタインブルク軍が攻めかかった。
先行していたスタインブルク軍が左右にわかれて待ち構えていたのだった。
ベルゲンケルト軍は左右から攻撃を受ける形になった。
「攻めかかれ!」
スタインブルク軍は初めからこれが狙いで追撃を誘っていたのだ。
貴族軍に右からも左からもスタインブルク兵が突っ込んできた。
ベルゲンケルトの軍が挟み撃ちにあって押し込まれ混戦状態となる。
「戦え!押し戻すのだ!」ベルゲンケルトが大声で叱咤する。
「ベルゲンケルト軍を助けるぞ!かかれ!」
ベルクレスト軍も後方から混戦の中に突っ込んでいった。
さっきまで逃げていたスタインブルク軍の殿が向きを変えてベルゲンケルト軍に突進してくる。
三方向から攻め込まれ貴族軍には不利な展開だ。
こうなると上空からまとめて敵を攻撃することなどできやしない。
仲間の兵も道連れになってしまうからだ。
両軍は入り乱れて激戦となった。
これはナイル将軍の奇策だったのかもしれない。
混戦状態にする事で空爆を防いだのだ。
こうなると両軍の自力の勝負だ。
初めに挟撃された分ベルゲンケルト軍の被害は甚大である。
兵数でもスタインブルク軍の方が優っている。
ベルゲンケルト軍が挟み撃ちにあった事でかなり不利な状況に陥ってしまったが、ベルクレスト軍も加わって総崩れだけは避けている。
ベルクレスト軍に『谷間の百合』が加わっていた事が大きな影響を与えた。
「ドーリャアー!」ゴリアテの2本の大剣がスタインブルク兵を薙ぎ倒す。
Sランク冒険者ゴリアテの強さは尋常ではなかった。
兵数こそ少ないが貴族軍には抜きん出た戦力が混じっていたのだ。
そこにルビーノガルツ軍、メレンハイト軍も戦いに加わって消耗戦になっていく。
だが神級冒険者のキル、クリス、ケーナは乱戦になってもその強さは健在であった。
まさに一騎当千の戦いを見せつける。
神級の持つステータスは初級、中級のもが攻撃してもダメージが通らないくらいに高かったのだ。
「ドカーン!」大人数がぶつかり合い轟音が響き渡る。
キルがアーツで切りまくりスタインブルク兵が吹っ飛ばされる。
兵士の能力が同じなら、2倍の兵に三方向から攻め込まれれば殲滅されるのが普通だ。だがここではそうはならなかった。
神級冒険者3人に圧倒されて徐々にスタインブルク軍の優位は覆されていった。
最後はスタインブルク軍が逃げ始め掃討戦へと移行する結果になった。
作戦の上では完全にナイル将軍が勝っていたが、キル達の地力がその作戦的優位を覆してしまったのだった。




