251 アムテルの戦い 1
貴族軍は最速の行軍を行いアムテルを目指していた。
「お父様、このままではアムテルが落ちる方が私たちの到着よりも早いかもしれません。先行して私達がアムテルに向かう事をお許しください」
クリスが父ルビーノガルツ侯爵クリーブランドに出撃の許可を求めた。
「クリスチーナ達はそんなに早くアムテルに行けるのかい?」
聞き返すクリーブランド。
「はい。私達は空を飛んで行けるのでここからなら数時間でアムテルにつけると思います。今ならアムテルが落ちる前に到着できるはずです」
「わかった。出撃を許可する。急いで出発してくれ!」
ルビーノガルツ侯爵はキルを見る。
「キル君、娘を頼んだよ」キルは笑って答えた。
「心配には及びませんよ。クリスチーナ様はとてもお強いですから」
「そうか、でも頼んだよ」
「わかりました」
「ではお父様、行ってまいります」
クリスはそう言うとキル達に目配せをしてフライを使った。
キル、ケーナ、ゼペック、クッキーも後に続く。
「ゼペックさん、クッキーちゃん、一緒に来てくれてありがとう。
わたし、クッキーちゃんが一緒に飛んでくれているだけで嬉しいの。
攻撃なんてしなくても大丈夫だから怪我をしないように気をつけてね!」
アムテルに向かって飛んでいく途中、クリスはクッキーとゼペックに無理しないようにと言った。
「はい。クリスちゃん。私、怪我をしないように気をつけるから大丈夫だよ」
笑顔で答えるクッキー。その笑顔には心なしか緊張が浮かんでいる。
「ワシも大丈夫だぞい。見学に行くつもりでおるでのう」とゼペック。
「ありがとう、ゼペックさん」クリスはまた礼を言った。
5人はアムテルに近づく。
アムテルでは城壁に取りつこうとするスタインブルク兵と城壁を守ろうとするアムテル兵が戦っていた。
怒号と剣撃が響きわたっている。
キルが爆烈魔法を唱えスタインブルク軍の中央にお見舞いした。
物凄い轟音と巨大なキノコ雲が立ち昇る。
戦っていた両軍の兵士が一瞬動きを止めた。
続いてクリスの爆烈魔法で轟音と共にキノコ雲が立ち昇る。
城壁近くのスタインブルク兵にはケーナが数万本のエネルギーアローを放った。
数万本の矢が一面に降り注ぎ数百人の兵がハリネズミにされて倒れる。
スタインブルク軍は今やパニック状態になっていた。
キル、クリス、ケーナは攻撃を続けた。
次々に立ち昇るキノコ雲、飛び散るスタインブルク兵。
城壁近くでは矢が降り注ぐ。
上空を飛行する5人に気がついているものはまだいない。
爆発の中で右往左往するだけのスタインブルク兵だ。
スタインブルク兵の中でキル達に気がついたものが現れるのに10分以上の爆撃を受け続け、その頃には数千の兵が命を落としていた。
「全軍撤退!」
第3聖騎士団団長のナイル将軍が撤退の指示を出した。
その決断は早いものだったがそれでも失った兵は3千はくだらないだろう。
とは言えその速さで撤退の決断を下せた事は賞賛に値するだろう。
3千の兵を失ったとは言えよくそれだけの被害でとどめたと言える名采配だ。
スタインブルク軍は撤退して軍の立て直してをはかるしかなかったのだ。
アムテルの兵達から歓喜の声が上がった。
キル達はスタインブルク軍の後退を見届けた後上空から貴族軍の到着を発見して貴族軍に合流するのだった。
貴族軍はアムテルの城の前に陣を敷きナイル軍に睨みを効かせた。
アムテル男爵テルラムが貴族軍幕舎に顔を出した。
「皆さんが援軍に駆けつけてくださり感謝しますぞ。もう少しで我がアムテルはスタインブルク軍に占領されるところでした」頭を下げるテルラム。
「間に合ってようござったな。これもルビーノガルツ侯爵のご令嬢クリスチーナ様の空爆のおかげですな」ベルゲンケルトがクリスを褒め称えた。
「おお!あの攻撃はクリスチーナ嬢のものでしたか!あれほどの魔法を使うとは、素晴らしい。四天王スリザリン様にも負けておりませなんだ!」
テルラムが驚きクリスを褒めた。
「あの魔法に加えてその美貌、誰もが嫁にと思うのでしょうな?国王もまだ未婚なればベルゲンシャイン様の妃になっていただければ我が国も安泰でしょう」
ベルクレストがルビーノガルツ侯爵クリーブランドを見る。
「いえいえ、滅相も無い。そのような恐れ多い事はとてもとても」
と言っているがクリーブランドは満更でもなさそうだ。
クリスはと言うととても不快な顔をしている。
いきなり結婚の話をされても良い気がしないのは当たり前だろう。
そしてクリスはキルの方に視線を送った。
キルはクリスの視線に気付いていなかった。




