250 貴族軍出陣
幕舎にはルクスブルグ公爵ベルクレスト、ビームルク公爵ベルゲンケルト、パリス侯爵メレンハイト、ボルターク、ウェンリー両将軍が揃っていた。
「待たせてすみません」
ルビーノガルツ侯爵クリーブランドが入室早々言った。
「今日は我が娘が駆けつけてくれました」
ボルターク将軍がキルを見て驚く。
「緑山泊からの援軍ですか?」
「個人的な理由でルビーノガルツ侯爵クリーブランド様の援護に来ました」
キルが答える。
「この方達は娘のクリスチーナの冒険者仲間でして」
クリーブランドが補足した。
「クリスチーナとキル殿、ケーナ殿は神級冒険者だという事ですぞ。きっと頼りになると思います」
「そうですな、キル殿とは私も手合わせした事がありますから、その実力は存じていますよ」ボルタークが苦笑しながら思わぬ援軍に喜んでいた。
ウェンリーはキル、クリス、ケーナの3人を見て緑山泊の配慮に感謝した。
「それでは軍議に入らせてもらう。まずアムテルに向かっているスタインブルク軍2万をなんとかせねばアムテルが落ちる。どうするかだ?」
ボルターク将軍が話を切り出した。
ルクスブルグ公爵ベルクレストが胸で腕を組みながら周りを見回す。
「貴族軍は合わせて7500、王国直轄軍は合わせて1万。
マークキスはスタインブルクから新たな軍によって攻撃を受けるかもしれない事を考えるとマークキスを守る軍とアムテルに向かう軍とに分ける必要があるのでは?」
「私もそう考えます」ビームルク公爵ベルゲンケルトも同じ考えのようだ。
「だが2つに割ると兵が少ない」
ベルゲンケルトは2つに割ると勝てないのではないかとも思っているようだ。
「そうなのです」とベルクレスト。
2人の公爵の意見は同じだった。それが普通の考えというものだろう。
敵軍2万に対するならこちらも2万欲しいところだ。
「全軍で敵軍を討ち急いで引き返すというのもマークキスとアムテルでは距離がありすぎる。ダミアの敵を屠った後にアムテルとマークキスに向かったのではアムテルが落ちている可能性が高い」
腕組みして唸るウェンリー。
「貴族軍にはキル君とその仲間が5人加わっているのだろう。ならば7500でも戦力的には十分ではないか?それにアムテル城内に入れれば合わせて1万以上の兵数になる。どう思うかね?キル君」ボルターク将軍がキルの意見を求めた。
「はい。初めに俺とクリス、ケーナが空から空爆すれば敵を半数に減らすことも可能ですよ」キルが爆撃を進言した。
「あの爆撃は君たちがやったのか!」ベルゲンケルトとベルクレストが叫んだ。
2人は先の緑山泊戦で王国直轄軍が爆撃され立ち上るキノコ雲を見ていた。
「勝った!」ベルクレストが叫んだ。
「貴族軍7500がアムテルを救いに行こう!」ベルゲンケルトもいきなり乗り気になった。
「では軍を二つに分け貴族軍はアムテルに向かってださい。我々王国直轄軍はここに留まりマークキスの防衛に備える」
ボルターク将軍が作戦を決めた。
キル達はルビーノガルツ侯爵軍に混じって貴族軍としてアムテルに向かった。
* * *
ダミア近くダミダナル平原ではキューリー率いるスタインブルク第2聖騎士団軍2万とナックル、スリザリンの王国直轄第3第4軍2万が戦っていた。
戦いは一進一退の攻防が続いている。
「攻撃!」ナックルが自ら先頭になって突っ込んでいく。
王級拳闘士の攻撃力は聖騎士達を弾き飛ばしていった。
一本の槍が突き抜けるようにナックルを先頭に王国軍がスタインブルク軍を切り裂いていく。
スタインブルク軍は分断されるが聖騎士はヒールを使って回復し分断された軍を立て直していった。
2人の王級の将軍をようするベルゲン王国が攻撃力では上回っているいが、聖騎士は回復力で上回っていた。
聖級聖騎士で有るキューリーは教会の秘薬を用いながらも2人の王級将軍を相手に互角に戦っている。
しかしスリザリンの広域魔法はかなりの脅威であり大きな損害を聖騎士軍に与えている。
回復手段を持つスタインブルク軍とはいえ、その兵数の損耗は大きく徐々に戦局は王国側に傾いていった。




