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第八話~臨時能力評価試験~

大変長らく間隔を空けてしまいました。

またコンスタントに投稿していけるよう心掛けたいと思います。


民間怪異(みんかんかいい)対策員(たいさくいん)”。

その名の通り民間事業者により運営される怪異対策のエキスパートである。


公務員である怪異対策局員とは違い、彼らは営利目的で怪異関連の問題に対処する。

早い話が“妖怪退治屋”だ。


給与水準が上がりにくい公務員とは違い、民間怪異対策員は能力と活躍次第で対策局員の何倍もの収入を手に入れられるというメリットがある。

故に対策局員(公務員)を辞め民間に下る者たちも少なくない。


過疎地では既に怪異対策局員不足の穴を埋めるために行政から業務委託を受けている業者も多数存在しており、今後ますます民間怪異対策員は増えると言われている。


……しかし、何故よりによって“コイツ(櫛田ナガメ)”が。



「あら、これはこれは私の“旦那”のバディ(相棒)である上総煬(かずさよう)特等官さま。……何やら二日酔いのようですね」



櫛田はズカズカと私の正面へと距離を詰め、クンクンと犬のように匂いを嗅いでくる。

コイツのクセの強いコロンの臭いに思わず胃の内容物が込み上げそうになるがなんとか堪える。



「ハァ……お言葉ですが、もっとあなた方対策局員は真面目にお仕事をなさってはいかがですか?

特に、あなたの尻拭いで(けい)くんはやりたくもない残業や休日出勤が続いているんですよ。わかっています?」



櫛田は肩を竦め腕を組み、切れ長の目がより一層細くなり私を射抜いた。

……この蛇女が、好き勝手言いやがって。



「うるせえな、対策局員(私たち)は毎日お前が考えてる以上に時間も心身も犠牲にして奉公してるんだよ。

それより何の用だ?八塚(旦那)なら北条課長と朝イチでむつに出払ってんぞ」


「ふんっ、そんなことは承知していますよ。

今日は“臨時能力評価試験”とやらを受けるよう対策局に言われて来たんです」


「……ああ、そういや」



能力評価試験。

通常、年に二回行われるそれは新入・現職対策局員の配属先選考や実力評価に用いられているが、稀に今回のように民間対策員の実力を測るため臨時で行われることもある。


いくら妖怪退治屋とはいえ、怪異に対して無知であったり人間に毛の生えた程度の実力しかないのではお話にならない。

そのため、民間対策員は入職と共に必ず怪異対策局での能力評価を受けなければならないと法で定められているのである。



「さあ、無駄話もこれくらいにしてさっさとその試験とやらを受けさせてくださいな。

ご存知ないかもしれませんが私、会社経営もしているのであまり暇じゃあないんで───」



「「「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」」」



櫛田の言葉を遮るようにかまびすしい声がロビーに木霊した。

後ろを振り向くと、そこには殺気立ったオーラを纏う八塚FC(やつかファンクラブ)のメンバー三人が仁王立ちして櫛田を睨み付けているではないか。



「おうおうおう!さっきから聞いてりゃなんだぁ?

(よう)ちゃんはいつだって真面目に仕事してるよ!残業や休日出勤だって八塚くんが進んでやってくれてるんだ!」


「何も知らない部外者のくせに失礼なことばっか言ってんじゃないよ!煬ちゃんのおかげでどれだけ桜幡(おうはた)の町が平和になったことか!」


「お、お金持ちで、や……八塚くんの女だからって調子に乗らないでよ!

私たちの仕事を馬鹿にしないで……!」



大神(おおがみ)、木村、柳目(やなめ)たちが櫛田へと食って掛かる。

案の定、櫛田の切れ長の目が一段と鋭くなることは言うまでもない。



「活きの良い方々ですね。

……いいでしょう、せっかくなのであなたたちが私を評価(テスト)してくださいな」



───ズォォッッッ……!!


うおっ、こいつとんでもねえ殺気を放ちやがった。

八塚FCの面々はその異常さを真っ先に察知したようで見るみる内に顔が青冷めていくのだった。




────────────────────




場所は変わり訓練場。

春に八塚(あいつ)と戦って以来足を運ぶことはほとんどなかった場所だ。


二階席には既に野次馬根性の若い二等官やら暇をしている鎮圧課諸々のベテラン連中が缶コーヒーを片手に居座っていた。

ったく、仕事しろ仕事。



「よ、煬ちゃんどうするのぉぉぉ!!

あの女めちゃくちゃヤバいオーラ出てるんですけど!?」

「わ、私イタコだから戦闘力からっきしなんで帰っていいよね!?」

「うっ、お腹が……学生時代のトラウマが……そ、早退しましゅ」


「お前らが先に喧嘩売っちまったのが悪いんだろうが……」



蛇女(櫛田)の放った神話クラスの殺気をモロに喰らったこいつら(八塚FC)は既に戦々恐々の状態。

そりゃそうだ、相手が悪すぎる。



「さて、私は準備万端ですよ。

……そういえば、教官であるあなたが相手じゃなくても大丈夫なのでしょうか」 


「ああ、構わねえよ」



私は肩を竦めながら櫛田の質問へと答えた。

一応今回の能力評価試験は教官である私の立ち会いの元で行われるため、教官以外の対策局員が相手でも問題ない形式となっている。



「まあほら、お前らも対策局員の端くれなら実力以上の怪異相手でも臆せず挑まなきゃならねえ時もあるだろ。

危なくなったら私が助けに入るから安心して戦えや」


「鬼!」

「悪魔!」

「年下狙いアラサー女!」


「よし、櫛田!遠慮なくこいつらぶっ飛ばしてくれていいぞ!」



こんな状況においても減らず口ばかり叩きやがって。

ちったあ痛い目見やがれ。



「あなたに指図されるのは癪ですが……まあ時間が惜しいので───」







「───手ッ取リ早ク終ワラセルトシマショウ」






「「「ッッッ!!!!!!」」」



櫛田の声音が低く重くなると同時に、八塚FCの三人は瞬時に後方へと飛び跳ねた。


そして三人がそれまで立っていたはずの床は……()()()()()()()()()()していた。


瞬きを許す間もなく山の如き八俣遠呂智へと変身した櫛田はその巨大な口を使い、音速の速さで広範囲の床を抉り取ってしまったのだ。


まるで突然空間が欠如したかのようにポッカリと空いた床の穴が目に焼き付き、一瞬頭が混乱する。

それはあいつら(八塚FC)が肌で感じていることだろう。


だが、()はこちらの思考が正常に機能するのを待ってくれるほど優しくない。



「マコちんっ!ひとみんっ!!

私の後ろに隠れろッッ!!!」



沙織(さおり)がそう叫ぶと同時に、まるで千年杉(せんねんすぎ)の幹のような巨大な蛇の尾が三人へと襲いかかる。



「んぎぃぃぃぃッッ!!!?

クッッッソ重てぇぇぇぇッッッ!!!」


「ひぃぃぃ~っ!沙織ちゃんなんとか持ちこたえて~~っっ!!」

「死んじゃう死んじゃう絶対死んじゃう」



人狼(ヴェアヴォルフ)へと変身した大神が櫛田の尾をなんとか受け止め、木村と柳目を庇う。

さすが人狼。鬼と同等ともいわれるその怪力は伊達じゃあない。


……だが、相手が相手。

巨大な質量そのものが武器の八俣遠呂智に対して、その怪力だけでは役者不足だ。



「マア、カワイイ()()()()()デスコト。

シカシ残念デスガ、ウシロガオ留守デスヨ───」


「し、しまっ───」



奴らが対処しなければならないのは尾だけではない。

無数の牙を携えたその巨大な頭にも注視が必要なのだ。



「後ろは任せて!行くよ……“口寄(くちよ)せ”っ!!

ガリッ……“鬼門封(きもんふう)じ・(うしとら)”!!」



迫り来る櫛田の大きな口に恐怖しながらも、木村が親指の先を噛み切り血の滴った手を床に叩きつける。

するとそこには幾何学(きかがく)模様の刻印が浮かび上がり、その中から霊的な姿をした無数の牛の群れが湧き出て来るではないか。


その牛たちの(つの)には燃え盛る松明(たいまつ)が括りつけられており、あっという間に櫛田の勢いを殺した。



「ホウ、コレハマルデ火牛(かぎゅう)(けい)

……ナルホド、倶利伽羅峠(くりからとうげ)ノ戦イニ名ヲ馳セタ“朝日将軍(あさひしょうぐん)木曽義仲(きそよしなか)公”デスネ。

コレガ(うし)ノ位置デアルナラバ……(トラ)ハ差シ詰メ、虎退治(とらたいじ)武勇誉(ぶゆうほま)(たか)キ“加藤清正(かとうきよまさ)公”デショウカネ」


「うげっ!バレてる!?」



頭上から斬りかかる“二つの影”を察知したのか、櫛田が瞬時に牛の群れから遠ざかり回避する。

影の正体はそれぞれ甲冑を身に纒い、刀と槍を身に付けた武士と思われる霊体たちであった。


鬼門(きもん)……陰陽道(おんみょうどう)における北東の方位。

十二支(じゅうにし)の丁度“(うし)”と“(とら)”の間を指し、鬼が出入りする不吉な方角とされる。


───そもそも日本における鬼のイメージもこの丑寅()から来ており、“牛のような角”と“虎柄のパンツ”を履いているのがその所以(ゆえん)だ。


この方角を司る丑と寅を守護神に見立て、それぞれに縁のある英霊(えいれい)を呼び寄せたのがこの木村の“口寄せ”なわけだ。


丑……平安時代末期、源平合戦における倶利伽羅峠の戦いにて火牛の計を繰り出し、平家を打ち倒した英雄・木曽(源)義仲。


寅……安土桃山(戦国)時代、朝鮮出兵の折、家臣を食い殺した大きな虎を槍ひとつで退治した逸話の残る武将・加藤清正。


歴史を題材にした乙女ゲー好きな木村が好みそうな人選だなこりゃ。



「み、皆、目を瞑って……!!」



突然、木村を押し退け櫛田の前へと立った柳目が自らの顔を覆うスカーフへと手をかける。

……さすが八塚FC。腐っても対策局員だな。


本気で櫛田を倒すつもりらしい。



「二人がこれだけ頑張ってるんだ……わ、私だって……やってやる……ッ!!」



スカーフを勢いよく引き剥がし、赤い宝石のようにまばゆく光る柳目の“邪視(イヴィルアイ)”が炸裂した───。


木村真琴(きむらまこと)


・性別……女

・年齢……28歳

・身長……166㎝

・体重……増減なし

・3サイズ……B83、W63、H86

・仕事……青森県怪異対策局下北支部桜幡庁舎情報課の一等官。非正規ファンクラブ“八塚FC”の一員

・出身……青森県むつ市

・能力……代々続くイタコの一族。口寄せの術の使い手で、自分に霊を憑依させることや守護霊として英霊を呼び出し戦わせることも可能。

・好物……魚介類全般。塩辛と日本酒は欠かせない



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