第7話:炎の剣士
「そんじゃ、早速レベル上げのためにスライム狩り始めますか!」
「うぅ……またあのヌメヌメしたのと戦うんですね……」
「大丈夫だって。さっきも言ったけど、戦うのはあくまで俺だから、任しとけって。」
sinとユウカは再び草原のフィールドを歩き始める。
茂みの中からスライムたちが飛び出してくるのを警戒しつつ、sinはユウカに万が一のことがないよう彼女に歩幅を合わせて歩く。
ユウカも同じように周りを警戒しながら少し怯えた表情でsinとともに歩き続ける。
「なぁ、そういや気になってたんだが、君はなんでこのゲームをプレイすることになったんだ?ADAMの奴らにどう言われて引き受けたんだよ」
「それはですね……」
sinが問いかけるとユウカは足を止め口を開いたが、どこか息詰まったように途切れてしまった。
「……あれ?」
神妙な面持ちでユウカは考え事をするように、その場に立ちすくむ。
「おいおい、まさか忘れたなんてことは無いよな?のゲームにはちゃんとリアルでの記憶は持続するようになってるはずだぞ?」
「はい……そのはずなんですけど……どうしても思い出せないんです。どこかそこら辺の部分だけボヤボヤしててはっきりしないというか……」
「まじかよ、ADAMのやつらちゃんとデバッグ作業したのか?まぁこのゲーム自体が仮に本当のβテスト版ってこともあるだろうから、それによる一時的な不具合だろう。思い出してくれたときでいいから、その時になったら教えてくれ。」
「はい、すみませんお力になれなくて……」
「大丈夫大丈夫!それより今はレベル上げだ。早く強くなんないと後々やばいからな……っと、早速きやがったな、このヌメヌメ野郎!」
sin達が話している最中に、再び茂みからスライムが出現した。
スライムは現れたと同時に数回飛び跳ね、それを合図としたかのように周りからさらにスライムたちが出現し、円状になってsinとユウカを取り囲んだ。
sinは急いで鞘から木の剣を抜き、戦闘態勢をとる。
「ほーう、さっきの俺らの戦いを見て集団戦法ときたか。見かけによらず頭脳派だなぁお前ら……」
スライムたちは飛び跳ねながら徐々にsinとユウカを追い詰めてゆく。
「ユウカさん、いけるか?」
「は、はい!もう怖くありません!いけます!」
「よっしゃあ!来るなら来やがれぇ!」
sinが叫んだのと同時に、スライムたちが一斉に二人に飛びかかる。
が、その瞬間突如スライムの全身は激しい炎に包まれ、一瞬で黒焦げになりポリゴン化して消えた。
「「!?」」
sinとユウカは突然の出来事に呆気に取られていた。
スライムたちもまた、仲間のひとりが突如として黒がげになったその事実に大きく見開かれた目をさらに見開き驚愕の色を隠せない。
「よーし撃破!おーいそこの二人、大丈夫か?」
後ろの方からはつらつとした声が聞こえ、sinとユウカは後ろを振り向く。
後ろには炎に包まれた剣を片手に持った若い青年が立っていた。
逆立った髪と吊り上がった目は炎のように赤く染まっており、眼光からは自身と闘志が湧き上がっているように感じられる。
「そこの二人、ここは俺に任せな。スライム如き俺様が一瞬で丸焼きにしてやるぜ。」
青年は剣を構え、スライムの大群に突っ込んで行く。
青年が走り出すと同時に剣を纏っている炎もさらに火力を上げ、火花を散らしその激しさを増す。
「くらえぇ!『ブレイズスラッシュ!!!』」
「やばい!ユウカさん避けろ!」
「えっ?きゃぁ!」
sinはユウカの体を抱き抱えその場に伏せる。
スライムの大群の中心で青年が剣を思い切り一振すると、炎は一瞬でスライムの大群を包み、一体目同様黒焦げになった後ポリゴン化となって消えていった。
「ふう……ま、こんなもんだろ!さっすが俺!今日も最強だぜ!」
「うぅ……」
sinはユウカの手を取り、一緒によろめきながら起き上がる。
青年は二人に駆け寄り満足気な表情でその場に仁王立ちする。
「お、大丈夫だったかあんたら?いやぁ俺が来てよかったな。じゃなきゃ今頃ボコボコだったぜ?」
「ボコボコだったぜって、んなわけねぇだろ。相手スライムだぞ?とりあえず、助けてくれてありがとな。」
「へぇ、楽勝ねぇ。だったらそのなまくら同然の木の剣で一体何が出来るってんだよ、素人坊主。」
「あぁ!?誰が素人だ!お前いきなり出てきてそういう事は……」
「あぁ!大丈夫でしたかお嬢さん?怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫です……」
青年はsinが話しているのを途中で切り上げ、ユウカの手を取り言い寄り始めた。
「おい!話を最後まで聞け!」
sinは青年の肩を掴み話を戻そうとする。
「なんだよ、助けてやった恩も忘れていきなり逆上か?おー怖い怖い。」
「まず名乗ったらどうなんだ?いきなり出てきて人の相方に言い寄るんじゃねぇ!」
「そんなに名乗って欲しかったら、まずは自分から名乗るのが普通なんじゃないのか?」
青年は得意そうな顔でsinを煽る。
「くっ……それもそうだな、俺はsinだ。お前は?」
青年はユウカから手を離し、胸を張って名乗り始めた。
「俺の名は『ブレイ』!ライトワールドの炎の剣士とは俺の事よ!」
「炎の剣士……てことは、お前のスキルは炎を発生させるスキルってことか?」
「まぁそんなとこだ。お前のなまくらスキルとは違っていいもんだぜ?」
「残念だが俺のスキルはなまくらじゃあない。少なくともお前みたいなやつには絶対に教えてやらんがな」
「んなもん興味ねぇな。それよりも、お嬢さんの名前は?ぜひお教えしてもらいたい。」
「あ、はい。私はユウカと言います。スキルはヒールです。よろしくお願いしますブレイさん。」
ユウカは少し困惑したようにブレイに自己紹介をする。
「ユウカちゃんかぁ!早速俺の名前覚えてくれて嬉しいぜ〜。なぁ、良かったらこれから俺と一緒に来ないか?こんな素人よりは頼りになると思うぜ?」
「えぇ!?」
ブレイの突然の誘いにユウカは素っ頓狂な声を上げる。
「おい!何勝手に人の相方取ろうとしてんだよ!そういうのはやめてもらおうか。」
sinが再びブレイの肩を掴み自分の方へと引き寄せる。
「はぁ?お前みたいな素人野郎がそんななまくらだけで彼女を守れんのか?そんな剣使ってるならどうせスキルも大したことないんだろうよ。」
「さっきから素人素人ってなぁ!散々人の事バカにしやがって、さっきのスライムだって俺なら余裕で倒せたんだ。それにこの剣はただの木の剣じゃない。武器屋のおっちゃんの自信作なんだ、そいつをバカにするのは許さねぇぞ。」
「そうか、なら一戦やるか?そのなまくらと俺の炎の剣、どっちが強いか教えてやるぜ。」
「いいぜ、やってやる。」
ブレイの強く睨みつける視線を受け、sinは臆すことなく同じように鋭い視線を返した。
「sinさん大丈夫なんですか?いきなり一戦やるなんてそんな……」
「大丈夫だよ、見ててくれ。俺は、勝つ。」
sinはユウカの方に手を置き軽く力を込め、その意志を伝える。
「ルールは簡単だ。先に相手に一撃食らわせた方の勝ち、それだけだ。ユウカちゃん、合図をお願い出来るかな?」
「はい、わかりました。」
「よし、そんじゃあ互いに鞘に刀を入れた状態からスタートだ、いいな?」
「あぁ、OKだ。」
草原のフィールドの風が静かに草を揺らし、sinとブレイの髪をなびかせる。
二人は互いに向き合い、鞘に手をかけたまま微動だにせず、その様子に周りには緊張感が増す。
『勝てる、間違いなく』
sinは確信していた。絶対的な自身と覚悟で、この決闘に勝利することを。
『行くぜ俺のスキル……高速移動!発動!』
sinは心の中で強く念じ、スキルを発動させた。
『スキル発動……!烈火!』
ブレイもまた、同じように心の中で念じスキルを発動させる。
鞘から火花が漏れだし、スキルの発動を確信させた。
だが、sinは違った。
周りがどこか異様な雰囲気に包まれている。
sinの周りで横向きに吹き髪をなびかせていた風が、ふっと消えたのだ。
そしてその風は、足元に集中しまるで円を描く様にその場の草を揺らしている。
「それでは、よーい!初め!」
ユウカの掛け声と同時に、ブレイは鞘から勢いよく剣を取り出し、それと同時に目の前のsin目掛けて走り出した。
剣から炎が迸り、火花を散らしてsinに襲いかかる。
だが、その剣先はsinに届くことは無かった。
sinは、ブレイが走り出したのと同時に鞘から剣を抜き、その瞬間、スキルを発動させた……!
「はぁぁぁあ……!!!」
次の瞬間、ビュンッ!!とものすごい速さでsinの身体は風を切り、その瞬速から放たれた一太刀はブレイの腹部を浅く切った。
一瞬の出来事、そう言えるほどの速さで決着は付いた。
「なっ……!」
ブレイは呆気に取られ、僅かに減った自分のHPバーから目を離せずにいる。
そんなブレイの方に振り返り、sinは得意気に言った。
「見たか、これが俺のスキル『高速移動』だ!」
戦闘描写、気合い入れました!少しは成長出来たでしょうか?是非感想等よろしくお願いします!