第5話:デザイアサンクチュアリ
衝撃的なこの世界の真実が告げられ街中が混乱の渦に包まれている中、進は情報収集を続けていた。
情報収集と言っても、基本は街にいるNPCに聞き込み、店に置いてある雑誌や新聞などの身近なものから大雑把に掻き集めたものである。
「さてっと、大体情報集まったな。とりあえず整理してみるか」
進はメニューのオプションからメモを選択し、集めた情報を確認し始める。
1.この世界はライトワールドと呼ばれていて西暦は二千八十二年となっている。
2.今いるこの街はセントラルシティという名で近代技術が目覚ましい発展を遂げている街である。
3.五年前、この街でトップの巨大企業が次元転移装置とやらの実験に失敗し、そのせいで街のいたるところで不規則に別次元に繋がるゲートが出現し、そこからモンスターが侵入するようになり市民を脅かしている。
4.その対策として三年前に設立された組織が、対異界エネミー対策組織『BRIGHT』である。
「まあざっとこんなんもんだろ。一時間かからないでスムーズに収集作業ができてよかったぜ。問題はこっからだ、何をするべきか……」
進としては今すぐにでも街に出現したモンスターエネミーの討伐をしたくてたまらない。
だが、戦う術がない。
アリスにも説明を受けていたが、このゲーム内でのプレイヤーの能力値はほぼ現実の世界にいた時のものと同様。
街の人々が日々その恐怖に脅かされているという現状から、近接での素手の戦いでは勝ち目が無いことは明白である。初期状態のメインスキルを使っても勝ち目は薄いだろう。
BRIGHTという特殊部隊が編成されその者たちにしか本来戦うことが許されていない世界で、プレイヤーとして彼らが戦う術を普通にゲームをプレイしていても見つかるはずがない。
「となると、どこかにプレイヤー専用の休憩所もしくは集合場所があるはずだな。そいつを探すか」
ここをゲームの世界だとするとそのような場所を見つけることは容易なことである。だが、ここを現実の世界と置き換えた場合そんなものは現実にはまずない。
あるとすればスバイ映画などに出てくる秘密の集合場所などだろう。
そこでまた新たな仮説として、「この世界は現実とフィクションが混同したある程度都合のいい世界」だと仮定した時、今の進達をスパイ映画のスパイとするとそのような場所が用意されている可能性が高い。
更にその仮説の裏付けとして、情報収集の際進は何人かのプレイヤーが同じ方向へと向かっていく様子を目にした。
おそらくチュートリアルを聞いていない進には分からない何かがあるはずだと彼は確信していた。
「とりあえずついて行くのが正解なんだろうが、絶対あるよなぁ……秘密の合言葉的なの」
進はしばらく迷った後、とりあえずプレイヤーたちが向かった方向に足を運ぶことにした。
近くで観察し、盗み聞きすれば行けるだろうと踏んだのだ。
近くを通ったプレイヤーらしき少女がその方向に向かっていくのを確認し、その後を付ける。
メニュー画面の地図を見ながら目的地に向かっているようだ。
コソコソと隠れるような仕草は見せず、完璧にNPCと同化しそれとなくついて行く。
『にしても綺麗な人だなぁ、青みがかった綺麗な黒髪で美人だし。こんな人もゲームやるんだな、全然想像がつかない。だからこそ残念だな。ここに閉じ込められて出られなくなるなんて』
華奢な体で年はおそらく十八かそれ以前かと思われるとても可愛らしいその見た目に、進は思わず見惚れてしまいそうになっていた。
しばらくついて行くと、少女は古い建物の間の路地に入っていった。
小さな扉の前に黒服の男がいて少女はその前に立つ。
『おぉ、いかにも秘密の隠れ家的な場所だな。こういうのテンション上がる〜』
ワクワクした気持ちを必死に抑えながら進は少女たちの様子に聞き耳を立てる。
「あの、プレイヤー認証をしたいんですけど」
「よし、ステータス画面を見せてみろ」
「はい、どうぞ」
そう言って少女は黒服に自分のステータス画面を提示する。
「・・・・・・よし、確認した。入れ」
黒服に促され少女は扉の中に入っていった。
『なんだよ・・・・・・なんか特別な合言葉とかないのかよ。遊び心がねぇなー』
進は落胆しながらも少女に倣って黒服の前に立つ。
「プレイヤー認証を頼みます」
「よし、プロフィールを見せろ」
「おう、ほらよ」
「・・・・・・うん、確認した。中に入れ」
「サンキュー」
進は手早く認証を済ませ、扉を開け中に入る。
中に入ると下に続く細長い階段があり、足元が薄いライトで照らされていた。
不気味と思いながら進ゆっくりと下へと降りていく。
下に向かうにつれ、何やら奥の方から賑やかな声が聞こえてくる。
かなり長い距離の階段を進が降りきった時。
「おお・・・・・・!」
そこには、もう一つの街があった。
セントラルに比べ規模こそ小さく栄えているとは言えないが、人の往来があり、街の端には多くの店がある。
武器屋、薬品売り場、はたまたカフェなど、その種類は様々だ。
すでに多くのプレイヤーたちが集い、皆各々目についた店を物色して回っている。
「そうだよ!こういうのだよ!こういうのを待ってたんだよ!テンション上がってきたー!」
合言葉がなかったことに対する進の落胆は、またテンションによって一掃された。
「ようこそいらっしゃいました進様」
突然横から一人の黒服が現れた。
「こちらに来られるのは初めてということですので私共からここの簡単な説明をさせていただきます。この街はセントラルの地下にあるデザイアクロニクルプレイヤー専用休憩所兼ショップシティ、通称『クロニクルサンクチュアリ』です。ここでは戦闘で使用する武器やアイテムなどを購入でき、プレイヤーたちにとって重要な空間となっております。レベルやランク、称号に応じてショップで買える商品が増えていきますので、存分にお楽しみいただけると思います。ここでのショッピングには専用通貨としてKP『クロニクルポイント』を使っていただきます。初めてのご入場ということでわたくしの方から3000KPを進呈させていただきます。ご自由にお使いください」
黒服がメニュー画面を操作すると、進のメニュー画面に通知が表示された。
『黒34』から3000KPを支給されました。
「KPはエネミーとの戦闘やクエストクリアによってそれぞれ獲得できます。それとこれも差し上げましょう」
黒服はつけていた腕時計のようなものから、それと同じものを出現させた。
「うおぉ!今何やったんだ?腕時計の中から急に同じのが出てきやがったぞ!」
「これは『ストレージブレス』と言って、超次元圧縮技術によって物をコンパクトかつ多くの量を収納することのできる優れものです。これを一つ進呈致しますのでぜひお使いください。ブレスはレベルに応じて収納できる容量が増えていきますので、より多くのものを運びたい場合などはレベルを上げて頂く形になります。よろしいでしょうか?」
「了解。バッグとかどうしようと思っもてたからほんと助かったぜ、ありがとな」
進はウキウキ顔で嬉しそうにブレスを腕に付ける。
「これで説明は以上となります。それでは、サンクチュアリでごゆっくりとお過ごしください」
そう言って黒服はどこかへと消えていった。
「よし、せっかくポイントもらったことだし早速武器でも買いますかね」
進は街へと繰り出し、近くの武器屋の散策を始めた。
最初に立ち寄ったのは剣の店『MUSASI』という店だ。
近代的な街の外見に見合わず、木造建築で少々浮いている見た目の店である。
「いらっしゃい!うちにはいいもんが揃ってるよ!ゆっくり見ていってくんなぁ!」
威勢のいい店長の声が店中に響き渡る。
『いいねぇこういう雰囲気。いかにも武器屋って感じだ』
進は最初に買う武器は剣だと決めていた。冒険の始まりといえば剣、という相場が彼の中にあったからだ。
進は店に入るとあるものを探し始めた。
「お、見っけた。店長ーこれくれ」
そう言って進がレジに持って行ったのは、木の剣だった。
「おいおい、兄ちゃんよぉ。そんなもんでほんとにいいんかい?もっと他にいいやつあるだろう」
「いや、これでいいんだ。それにこいつが一番安くて使いやすそうだし、それともなんか買っちゃいけない理由でもあんのか?」
「いやぁ別にねぇけどよ・・・・・・まぁ兄ちゃんがいいってんなら止めはしねぇぜ?でもここに来たってことなら兄ちゃんも異界のモンスター倒しに行くんだろ?ここに来るのはBRIGHTの連中がほとんどだがそいつらはみんな質のいいもんを買っていく、それ以外でこの街に来る野郎はどっかから情報を仕入れてやってくる命知らずの連中さ。いくら兄ちゃんがその命知らずの一人でも、俺としてはその武器はあんまりおすすめできねぇ。それ買えねぇくらいしか金を持ってないわけじゃねえだろう?別のにしときな」
「気にすんなって、これがいいんだよ」
店長の忠告を聞いても進は 揺らがない。
「最初のうちは節約しときたいんだ。出てくるモンスターが全員強いわけでもないだろうし、ある程度の難易度調整はされてるはずだからな。こいつである程度倒してポイント稼いだ方が後々いい買い物もできるだろうし」
「難易度?なんだそりゃ?まあ、とにかくお前さんがいいってんなら持っていけ!俺の忠告聞いても顔色一つ変えねぇその度胸気に入ったぜ!どうやらそんじょそこらの命知らずとは違うらしい。そいつを称えて安くしといてやる。半額の200KPだ!安物でも俺が作った剣だ、切れ味は保証するぜ!それと鞘もオマケしてやる。あった方が持ち運びも楽だろう」
店長は腰に携えるタイプの安物の鞘を進のベルトに巻き付けた。
「お、サンキュー店長!大事にありがたく使わせてもらうぜ」
「おう!すぐ壊して泣きついてきやがったら承知しねえからな!それなりに使い込んでからまた来いよ!」
店長の激励を受け、進は店を後にした。
進が次に訪れたのは薬屋『Angel bless」という店。
冒険の基本、回復アイテムの調達だ。
中に入ると、薬屋独特の匂いが鼻をつく。
進はしばらく店を散策し、商品の下に書いてある説明を一通り見た後剣と同様に安物の回復アイテムを10個店員のところへ持っていった。
購入したのは『DPヒールS』という商品で、値段が上がるにつれてS、M、Lと回復量の違うアイテムだ。
これも近未来の技術が使われており、何かのガジェットのような形で服用するのではなく傷ついた箇所にアイテムを当てることで自動的に傷を治すことができるという優れものだ。
薬屋の店員によると、モンスターから採取された新物質やゲノムを改良して作られた技術であるらしく、この現代において最も最先端の技術なのだという。
そして最近では倒したモンスターの材料から自分でアイテムを作り薬を調合するものが増えていて中にはそれで実験に失敗し、命を落とすものもいるので絶対に調合はしないようにと進は店員に釘を刺された。
進が
薬屋を出て進はある程度の物資調達が済んだ後、街の中心にある広場近くの人だかりができている場所へと向かった。
進はその人だかりに近づき広場中央に視線を向けた時、目を見開いた。
そこにあるのは異界のフィールドへと続いている、ゲートだった。
ゲートの周りには様々な機械が置かれ、そのどれからも太いコードが伸びメインコンピューターへと繋がれその形を保っている。
進が街から仕入れた情報では、ゲートはランダムに出現し時間が経つと自然と消えてしまうという話だったが、このゲートはその形を保ち消えることなくこの場に留まっている。
何故このような機械が設置されているのか、進は先程と同じように現実に置き換えて考えた。
セントラルを表の社会と考えた時、デザイアサンクチュアリはいわば裏の社会。となれば一般人の知らないゲートをとどめておく技術の一つや二つはあって当然なのではないかという仮説を立て、ひとまずは納得した。
そうこうしている内に進と同じように装備を整えた他のプレイヤーたちが次々とゲートの中へと入って行った。
進は腰に巻いた剣に手を添え、大きな深呼吸をした。
そして大きく目を見開き、不安と恐怖を感じさせない期待と楽しみのみを秘めた晴れやかな顔でゲートの中へと飛び込んで行った。
また説明回かよ!と思った方。すみません。こういうのちゃんとやっとかないと個人的に納得できんのです。次はちゃんと戦闘書くから!待ってて!