第4.5話:社長室にて
進がゲームにログインしたのと同時刻、ADAM本社の最上階の社長室には社長と四人の重役たちが集結していた。
重役たちは全員老人というわけでなく、三十代から四十代の中年の男たちで皆どれも堅実な顔立ちをしている。
「社長、たった今総勢千二百人のプレイヤーがゲームにログインしたようです」
円卓の大テーブルに座る重役が部下の一人から伝令を受けた。
「おお、そうか!ふっふっふ・・・・・・ついにこの時が来た・・・・・・私の才能が!欲望が世界に名を刻む瞬間がな!待ちきれんぞ!」
円卓の中央に構える社長席に腰を掛ける男は歓喜の声をあげ、椅子を大きく揺らした。
この男こそ、大企業ADAMを仕切る代表取締役社長である。
男は社長と呼ぶにはその見た目は若く、整った顔立ちと風格からはカリスマ性が感じられる。
「我々も同じ気持ちでございます。社長の夢が現実となり、民衆が社長を崇め立てる姿が目に浮かびます」
「そんな上げるんじゃない、実際のところどうなるのかは中のプレイヤー共にかかっているんだからな」
「ご冗談を。どう転んでも最後には我々の目的が完遂されるように仕組んでおりますのに」
重役の一人がそう言ったのに反応し、他の重役が高笑いを上げる。
しかし社長だけはその様子に釣られる様子などなく、落ち着いた刀子で椅子に背もたれをかけている。
その様子でたちまち重役たちの笑いが止まり、緊張感が走る。
「確かにそうだ、我々の勝利に変わりはない。だがこんな世界だ。いつ現れるとも限らないじゃないか」
「だ、誰がでございましょう・・・・・・?」
「命知らずで正義感に満ち溢れた愚かな主人公さ」
そう言って社長の男は鋭く口角を上げ不敵に笑う。
重役の何人かは身震いし、俯いてしまう。
「あくまでたとえ話だ、気にすることはない。それでは私も行くとしよう、後のことは頼んだぞ」
「はい、お任せください」
社長の男は新型VRを装着し、椅子に腰かけたまま脱力する。
「「「「いってらっしゃいませ!」」」」
四人の重役が声を合わせ社長を見送る。
その声を聞き、再び不敵な笑みを浮かべたのと同時に、社長の男は現実からログアウトした。