第3話:ナビゲート
「うぅん・・・・・・」
呻き声を上げながら進は目を覚ました。
どうやらしばらく意識を失っていたらしい。
辺りを見渡すと、そこはどこか現実離れした不思議な空間だった。
謎の黒いキューブがあちらこちらで宙に浮いており、ゆっくりと上下しながら動いていて、床は薄く発光し進の足元を照らしていた。
壁はストライプ状に白と黒の交互に発行しながら不気味な雰囲気を出している。
「な、なんなんだよ・・・・・・ここ。一体どこなんだ?くそ・・・・・・まだ頭がビリビリしやがる」
痛みが残る頭を擦りながら、進はゆっくりと状況を整理する。
「あの黒服のおっさん達が話してた、俺の脳波をデータに変えてゲーム内に移した状態が今の俺のいるこの世界って事なのか?その過程であそこまでの衝撃があるとか聞いてねぇぞ?服装とかまんま来た時のまんまだし、意識もある、体も動かせる。本当にこれゲームの世界なのか・・・・・・?まだ微妙に信じれねぇ・・・・・・」
「問題ありません。間違いなくここは、『デザイアクロニクル』の中です。ご安心下さい、神代進様」
「うわ!」
当然背後から声を掛けられ振り返ると、そこには某有名漫画に出てくる敵キャラの第一形態が乗っていたあの乗り物に似た機械に乗った珍妙な格好の少女がいた。
「初めまして神代進様。私、このゲームのナビゲートを担当させて頂いている、AIのアリスと申します。以後、お見知り置きを」
その声はとても機械的で、全く感情の無い声色と表情はいかにもゲームキャラという感じがした。
長い黒髪で清楚系美人を思わせる顔立ちをしており、服装は白と黒の縦ラインが入った服で、周りの世界と同化しているように見える。
「は、はあ・・・・・・よろしく」
戸惑いながらも、進はアリスに軽く挨拶をした。
「早速ですが、このゲームの説明に移らせて頂きます。よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。頭の痛みも少し引いてきたしな。頼むよ」
「かしこまりました。では、説明に移らせて頂きます。再度確認させて頂きますが、この世界は『デザイアクロニクル』のゲームの中です。現在進様の意識はゲームの中と完全に同調しており、肉体はデータで再現されていますが、思考やそれによる動作に関しては生身の時とほとんど変わらないものとなっております。現実世界での進様の身体は、ADAMが責任を持って保護、及び管理しておりますのでご安心下さい。ですが万が一現実世界の身体に何か多大なる変化、支障が見られた時は強制的にログアウトされますのでご安心下さい。ここまでで、何かご質問はございますか?」
「身体は無事なのか・・・・・・そりゃそうだよな、よかったよかった。万が一のアフターケアもちゃんとついてるってことだし、そこら辺は安心だな。そうだな・・・・・・それじゃあ質問だ。多分このゲームにはアクション要素があって戦闘とかがあるんだろうけど、こっちの俺が受けたダメージとかは現実世界の俺になにか支障はあるのか?」
「質問にお答えします。進様の仰るとおり、このゲームには対戦要素が含まれており、当然その中で戦闘が発生する場合があります。その時に進様が受けたダメージ等は現実世界の進様の身体にはそれほど大きな支障はございません。ですがエネミーやダメージ量によっては、現実世界の身体に多少の疲労感等を及ぼす可能性がございます。そのような場合を考慮した上でプレイすることをおすすめ致します」
なるほど、一応現時点での最大限安全は確保されてはいるものの、状況によっては危険もあるって事か。このゲームはあくまで試作機だし多少の欠陥があるのも仕方ない。これは慎重にプレイしないと厄介なことになりそうだぞ・・・・・・
進の中にあった不安感は和らいだが、その分さらに危機感がより増した。
「なるほどね。よくわかった。質問は今のとこ以上。続けてくれ」
「では説明を続けさせて頂きます。ここからこのゲームの概要や設定、プレイ方法の説明となります。この『デザイアクロニクル』というゲームは四つの世界に分類されており、それぞれ『ライトワールド(喜びの世界)』『ドライワールド(乾いた世界)』『ピュアワールド(清らかな世界)』『エナジーワールド(堅実な世界)』と名付けられております。今回進様にログインしてい頂くのは『ライトワールド』となります。他のワールドは正式販売時に選択可能となりますので、予めご了承ください」
流石にそうだよな。βテスト版なのだから全部のモードを遊んでる暇なんてないし、それに名前的にも一番基本的そうだし問題無いだろう。
進は頭の中で整理と納得を繰り返しながら、黙って説明を聞く。
「このゲームの基本的な遊び方は、町やフィールドで発生するエネミー退治やNPCから課せられるクエストをこなしながらレベルを上げていき、最後のラスボス討伐を目的としていきます。各操作にコマンド等は無く、現実世界でする会話と何ら変わりないのでご安心下さい。戦闘は肉弾戦と変わらない感覚になりますが、先程も申し上げました通り肉体はデータで形成されているため、レベルに応じて身体能力は常時変化致します。ですので現実では不可能な動作や運動もこちらの世界では可能となりますから、存分にゲームをお楽しみ頂けることと思います」
そいつはいいな。自分の努力したいで自分がまるでヒーローやゲームキャラそのものになって遊べてしまうだなんて全ゲーマーの夢じゃないか!それがここで叶うなんて・・・・・・。さすがADAMのゲームだ。他とは格が違う。
進の心境は段々と、当初の楽しみの気持ちを取り戻しつつあった。
不安感こそ残ってはいるものの、ゲーマーとしての血が彼のアドレナリンを常に刺激し向上心を抑えきれない。
「続いてこのゲームのゲームシステムを説明いたします。今からチュートリアルプレイを開始いたしますので、準備ができたら声をおかけください」
「大丈夫だ、すぐに始めてくれ」
進は即答した。
「かしこまりました。それではチュートリアルを開始します」
アリスの声と同時に進の目の前の景色が一変する。
機械的だった狭い部屋が一瞬にして一面原っぱに変わり、快晴の青空の下そよ風の吹く心地よい草原になった。
「すっげえ・・・・・・風の当たる感覚も、太陽の暑さもちゃんと肌で感じる。再現度高いな、さすが最新テクノロジーだぜ」
従来のVR技術を遥かに超えたオーバーテクノロジーの凄さに、感涙の声を抑えきれない。
「これから私の指示に従って動作を取っていただきます。まずはメニュー画面の開き方です。宙の上で指を横にスライドしてみてください」
言われたとおり指を横にスライドしてみると、何もなかった宙の上に突然のデジタル画面が表示された。
「おぉぉすげぇ!」
「上から順に『ステータス』『アイテム』『スキル』『ウェポン』『オプション』となっております。まずはステータス画面をタップしてください。
ステータスの項目をタップすると、画面が切り替わりレーダーチャートと様々な項目が表示された。
ユーザー名:未登録
パワー:5
ディフェンス:4
スピード:4
ブレイン:6
ラッキー:5
装備品
ヘッド:なし
ボディ:初期衣装
アーム:初期衣装
レッグ:初期衣装
メインスキル:未登録
メインウェポン:なし
サブスキル:未登録
称号:なし
「こちらが現在の進様の初期ステータスとなります。『アタック』『ディフェンス』『スピード』『ブレイン』『ラッキー』の五つの項目があり、レベルや装備品によって変動いたします。上記三項目は文字通り攻撃、防御、素早さを表しております。『ブレイン』は知力ステータス、高ければ高いほどエネミーの弱点ヒントが表示されやすくなります。『ラッキー』は運のステータス、高いほど良いことが起こりやすくなります。装備品は装備する箇所によって上昇するステータスが異なります。主に『ヘッド』はアタックとディフェンス、『アーム』はアタック、『ボディ』はディフェンス、『レッグ』はアタックとスピードとなっております。装備品によってブレインやラッキーが上がる場合もございます」
なるほどな、ここら辺はあまり従来のRPGと大差ないらしい。ブレインなんかはあまり見ない要素だから面白い仕様だな。
「そして『メインスキル』、こちらは当ゲームの最大の特徴となっております。こちらはこれから事前にプレイヤー様自身に選んでいただき、一度決めてしまったものは二度と変更が効かないものとなっております。使い込むことによりスキル自身もレベルを上げ、それに応じてスキルランクアップをしていき常に進化を続けていきます。慎重に選択されたうえで、ゲームをお楽しみください。続いて『メインウェポン』、こちらはゲーム内で調達し装備してスキル同様強化していくものとなります。スキルと合わせることで特別な能力を発揮するものもありますので、状況に応じて使い分けてみるのもいいでしょう。続いて『サブスキル』、こちらはメインスキルとは異なり変更が自由にできる仕様になっており、先ほど申しあげたようにウェポンとの合わせ技等に使用するものとなっております。最大三つの保有が可能でメインスキル同様に使い込み度によって強化されていきます。最後に『称号』、こちらはゲーム内で得た功績や記録が形として残るようになっており、登録している称号によってゲーム内のアイテムが購入しやすくなったり、様々な特典やサービスが受けられるようになるしようとなっております。以上が『デザイアクロニクル』のゲーム説明となります。ここまでで何かご質問はございますか?」
「いや、大丈夫だ。ぶっちゃけ完全に今の説明が頭に入ったかと言われると自信はないが、あとはプレイしながら感覚を掴むよ」
「かしこまりました。では初期設定に入ります。まずはプレイヤーネームの設定です。こちらも後の変更ができないものとなっておりますのでご注意ください」
「ああ。でももう決まってる。俺のプレイヤーネームはいつだってこれ以外にない」
進は初めてゲームをやった日から一度もプレイヤーネームを変えたことはなかった。とても単純だが、大切な、憧れの父が名付けてくれた、この名を。
「俺のプレイヤーネームは『sin』だ!」
今回は設定がもりもりですので、今後の物語を見ていただくにあたりなるべく抑えてもらいたいです!多彩なキャラクターを登場させる予定ですのでお楽しみに!