第1話
「決まったー!sin、圧倒的実力でチャンピオンを下したー!」
とある格闘ゲームの全国大会。
ある一人の高校生ゲームプレイヤーが長年にわたり無敗を誇っていたプロゲーマーを下した。
彼の名は「神代進」。十八歳の高校三年生。
プレイヤーネーム「sin」という名で様々なゲーム大会に出場、圧倒的実力で多くの強豪プレイヤーに勝ってきた正真正銘のプロゲーマーである。
今日の全国大会は進が昔からお気に入りのゲームとしてやりこんでいた有名格闘ゲームの全国大会で、チャンピオンとの闘いでもわずかなダメージのみで完勝を果たした。
「さあsin選手、優勝した今のお気持ちをおねがいします」
「そうですね、昔からやっていたこのゲームで、しかも尊敬していたチャンピオンにも勝つことができてほんとに嬉しいです。これからもこの経験を生かしてもっと上の高みを目指したいと思ってます」
「なるほどー、それではその気持ちを誰に伝えたいですか?」
そう聞かれると進ははにかみながら答えた。
「はい、天国にいる俺の親父に伝えたいです!」
帰り道、進は試合を観戦しに来ていた数人の学友と話していた。
「相変わらず最強だなーお前は、あの無敗のチャンピオンを倒しちまうなんてよ」
「この日のために散々あの人のプレイ動画見てメタ練習してたからな、その戦法がうまくいっただけだよ」
「そういうのをサラッと言えるのがすごいよなーやっぱり有名ゲーム会社社員の子にはゲームの才能があるってことなのかねー」
「そういうわけじゃねえよ、単純に俺の努力だ。努力は嘘をつかない。親父の言葉だ」
進の父親は「神代豪」と言って大手ゲーム会社「ADAM」の開発担当部の部長だった。
多くの名作ゲームを世に売り出し、そんな父を進は心から尊敬していた。
だが進が十二歳のころ、帰宅途中にトラックに轢かれ他界。現在進は母と二人暮らしをしている。
「んじゃ俺こっちだから、またなー」
「おう、おつかれさんー」
友人と別れ、進は自宅へ向かった。
20分ほど歩いて自宅に着く。
「母さん、ただいまー。ちゃんと優勝して来たぜ!」
「おかえりなさい。まさか本当に全国一位になっちゃうなんてね、お父さんも喜ぶわ」
進の母はそう言って、豪の遺影が飾ってある仏壇に嬉しそうに顔を向けた。
そんな母の姿を見て、進も思わず頬が緩む。
「んじゃこれ部屋に飾ってくるから、ご飯の用意頼むわ。今日は祝杯だからな、たまにはパーッとやろう!」
「ええ、今日は張り切ってご飯作ったから期待してて頂戴」
進は部屋に向かい、様々な大会で獲得してきた歴戦のトロフィーのある棚の一番上に今回の大会のトロフィーを置いた。
「見ててくれたか親父。俺、勝ったぜ」
金色に輝くトロフィーを見つめ、そう呟く。
その後は母と夕食を済ませ、一日を終えた。
後日、進はいつもと変わらぬ朝を迎えた。
昨日大会があったとはいえ、普段は一般学生である進に特別な休日など与えられるはずもなかった。
学校に行ってからは、クラスや周りの人間から全国大会の優勝に対する賞賛の声が挙がった。
一日中その話で持ち切りとなり、気づいた時には学校での一日が終了していた。
クラスメイトからの質問攻めに逢い、進はかなりの疲労感を募らせていた。
「疲れた……あんなに疲れるとは思わなかった……ほとんど素人質問だしなんの楽しみもねぇ……」
「神代進くんだね」
帰り道に愚痴を言いながらとぼとぼ歩いていると、突然黒いスーツを着た二人組の男に話しかけられた。
「はぁ……そうですけど」
「私たちは『株式会社ADAM』の者だ。先日の全国大会は見事だった。私も中継を通して見ていたが、なかなかいい試合を見せてもらった、礼を言うよ」
「それはどうも。あのADAMの社員さんにも見ていただけているとは、光栄な事です」
「そんな素晴らしいゲームプレイヤーの君に、私たちからちょっとしたプレゼントを贈りたいと思う」
黒スーツの男たちは懐から一枚のカードを取り出し進に渡した。
そのカードの記述に進は目を見開いた。
「『株式会社ADAM制作の超新感覚新型VRゲームのテストプレイへのご招待』ですか……?」
「そうだ。私たちADAMから君への特別招待状、貰ってくれるかい?」
疲弊しきっていた進の気分は一気に晴れ、男たちの問いに対し進はなんの躊躇もなく即答した。
「喜んで参加させてもらいます!ADAMの新作ゲームをいち早く遊べるなんて最高だ!」
「そう言ってくれると思ったよ。テストプレイ実施日は追って連絡するから、楽しみにしていて欲しい」
「はい!ほんとありがとうございます!」
高校三年とは思えないほどのはしゃぎっぷりに、ADAM社員の男たちも思わず頬が緩んでしまった。
男たちは進に別れの挨拶をし、車に乗りこんだ。
進は車に乗り込む男たちの顔を見て少し疑問を抱いた。
『なんだがさっきに比べて、表情が暗いような……ま、気のせいか』
進は意気揚々に、そのテストプレイの招待状を握りしめ自宅に帰るのだった。