第11話 次の物語へ
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アルは征く。
いまは自分が求められていないという事を知った。
「……アル様。本当にこのまま征かれるのですか?」
夜明け前の薄闇に包まれ、まだ目覚めたくないと抵抗を続ける……そんな静かな葛藤を湛えた街にアルとヴェーラは溶け込んでいた。
その姿は旅装。徒歩の道行きを想定したものであるが、辺境の地を旅するには軽装に過ぎるほど。馬車はもとより、荷を引く馬もない。二人だけの旅路。
「そうだ。もはや今のアリエルは僕の助力を必要としない。セシリー殿は未だに危ういけど、ヨエル殿やエイダ殿もいるしね。クレア殿の思惑はどうであれ、僕がセシリー殿をベッタリと守ってやることもない。……むしろ、僕の中の“衝動”はダリル殿へ向いているようだ。……『彼を止めろ』と煩いくらいにね」
アルに迷いはない。
彼はアリエル・ダンスタブル侯爵令嬢の道を知り、エイベル・ダンスタブル侯爵の見識を知った。もうオルコット領都に用はない。彼の身の内に宿る衝動を別とすれば、後はもう『興味の向くまま』というだけ。
此の度の『託宣からの脱却』についての独立派の狙いを、あくまでも理想的な流れとしてではあるが、アルはその目指すところを知った。少なくとも、民への害悪という尺度においては、託宣のままに事を進めるよりは“幾らかはマシ”なのだろうと。
エイベルからの情報にて、不敬ながらアルは陛下……フィリップ・マクブライン王が、権力を振りかざして盲目的に託宣を追い求めるような人物ではない事も知った。為政者として“まだ”現実的な判断のできる人物だと。そしてその統率力は未だに健在だ。
聞けば、既に教会との関係を清算しにかかっている。流石にその判断はいささか性急なようにアルは感じたが、もしかすると、フィリップ王はいっそのこと託宣絡みの“膿”を出し切る気なのかとも思える。
ただし、その考えは劇薬であり、しばらく血の雨が降り止まないかも知れない。それに関しては、状況によってはアルも手を出すことはやぶさかではない。
マクブライン王国としては、もう“物語”を外れたと言っていい。完全新規でもないが、この世界では独自の物語が始まりつつある。新たな息吹をもたらす、誰も先を知らない、それぞれが主人公となる“本編”が脈を打っている。
後は……過去となりつつある“物語”の終息。
別にアル個人がソレを為す必要も無ければ、そんな役割もない。そもそもそんなコトが出来るとも彼自身は考えていない。それこそ“主人公”にお任せすれば良いという具合だ。
「……ヴェーラ。悪いけどココから先は本当に僕の興味本位だ。“衝動”によって僕はダリル殿のことやクレア殿のことが気になっているが……正直なところ、大部分は“物語”の結末を覗き見したいという、ただの好奇心に過ぎない」
「アル様の行動の理由など、私には関係ありませんよ」
即答。ヴェーラにも迷いはない。いまの彼女の瞳には、主の姿以外は映っていない。
「……悪いね。ヴェーラには甘えてばかりだ。だけど、ヤバくなったら僕のことは捨ておいて良いから。主とか従者とかじゃなく……僕は君には死んで欲しくないし、僕を守る為に傷付くことも望まない」
「……私の心は……そのお言葉を嬉しく思います。……ですが、そればかりは約束できかねます。本気のアル様にとって、私が足手まといなのは承知していますが……私自身がアル様をお守りしたいのです。優しい心を持つ貴方のことを」
アルバート・ファルコナーのことを優しいと語る者は少ない。
ヴェーラは彼の性根を知っている。敵には容赦がないが、その根底には力無き者を援けるという想いが、矜持がある。そして、彼は“身内”には無私の愛を持つ。与える者だ。
それはファルコナーの特性なのか、彼個人の性質なのかはヴェーラには判らない。ただ、そんなアルのことを彼女は敬愛している。それは紛れもなく本当のこと。
「はは。僕のことを優しいと評し、僕を守ると言ってのけたのは君で二人目だ。……分かったよ。僕はヴェーラの想いを無下にはしないさ。僕は全力で君を守る。だから、君も僕を守ってくれ」
「……私はアル様をお守りいたします。そして、アル様も私を守って下さい」
主と従者。お互いがお互いを守る。どちらも死なない。死なせない。それは新たな契り。
「アル様。私が二人目と言われましたが……一人目とはどんな方だったのでしょう? ファルコナー領の?」
「え? ああ、所謂幼馴染ってヤツでさ。その子は幼い頃の事故が原因で……」
語らいながら二人は歩く。“次”へと向かう。
「……そんなことが? ……それでは、アル様の戦士としての出発点は…………」
「まぁ…………そうとも……かな? ……でもさ、その子は…………なんだ……」
「……そ、そんなにも? ……ファルコナー領とは凄いところですね……まさか……アル様より……ですか? ……他にも……では……となる?」
「……そういえば……父上が……でさ……かな……?」
二つの影が寄り添いながら、オルコット領都の薄闇に紛れて出立していく。目指すはルーサム家の庭。大峡谷の深部。
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……
…………
………………
「アリエルよ。そなたのことは“それなり”には認めてはいたが……此の度の決断は見事だった」
「……お父様にお膳立てされた上でのことです。いまの私はアルバート殿……“アル”に相応しき『友』ではありません。所詮は机上の戦いしか知らぬ小娘でした」
アリエルとエイベル。紛れもない父娘ではあるが、いまの二人の間には、貴族としての距離感が横たわっている。
結局、アリエルはアルの友として歩むことを是としなかった。お互いに利用し合う関係を求めなかった。さりとて、彼と敵対することもなければ、遠ざけることもない。
彼女の答えは……『待っていて欲しい』。
自らの未熟を悟り、その上でアルの本質と本意を見抜くことができなかった。エイベルに指摘されるまで、アリエルは出し抜かれた悔しさから、次はこっちの番だと鼻息荒く構えていただけ。それすらもアルにそう仕向けられていた。
彼はアリエルに対して、お互いに利用し合う関係となる事を容認していた。つまりはファルコナー流の『友』として認めていたということ。
「いまの私はアルが差し出す手に掴まってぶら下がっているだけ。いずれ私は言うでしょう『何故ちゃんと引っ張り上げてくれないのか!?』と……」
「彼との友諠が終わる時だな」
「はい。そして、去って行くアルに対しても私は憤りを覚えるでしょうね。……そうであればまだ良い。それどころか、不埒な賊として彼に始末される未来かも知れません」
「もしかすると、彼はそこまでを見越していたのかも知れぬな。……くく。個人でダンスタブル家を利用しようと企むほどだからな」
アリエルはアルの手を取らない。いずれ、対等以上の状況で彼を出し抜くことを見据え……いまは研鑽のときだと判断した。ずるずると彼の暴力に頼ってしまう……そんな弱い自分の未来がチラついたというのもある。アリエルは踏み止まった。
『いまはまだ『友』として並び立てない。だから、待っていて欲しい。アルバート殿の手を取るのは、貴方を手玉に取る程度になってからにします』
戦場を征く者の礼をとりながら、アリエルはそう応じた。いまの彼女の答え。
そして、その答えは確かにアルに響いた。
『アリエル様……いや、アリエル。友よ。君のその在り方に敬意を表する。君が苦難にさらされているとき、僕は君のもとへ駆け付けるよ。……必ずだ』
『私も……微力ながら、貴方が援けを求めるなら必ず応じます。持てる力の全てをもって』
いまは対等ではない。
アリエルには、アルの力を十全に利用しつつ、彼が求めるようなメリットを示すことができない。金や名誉などで足らずを装飾することしかできない。彼女はそれを理解した。
アリエルのその姿勢は、自らの未熟や弱さを見つめるということ。弱さから逃げない姿勢をファルコナーは尊ぶ。
このとき、アリエル・ダンスタブルは真にアルの『友』となった。
……
…………
「アリエルよ。南方の辺境貴族家にあってもファルコナーは異質。その中でも特に異質と言えるのがブライアン卿だ。アルバート殿は何処か彼に似ている。王国に比肩する者がほとんど居ない、最強の魔道士にだ」
「……ブライアン・ファルコナー男爵ですか。しかしお父様。あくまでも彼の御仁は『身体強化』に特化した魔道士だと耳にしましたが……? 最強とは……そこまでですか?」
「王家の『雷』を超えると言えば解かるか?」
「ッ!?」
唐突なエイベルの話を、アリエルは雑談の類だと考えていたが……そうではなかった。
王家の秘儀たる『雷』の属性魔法。
それを超える魔法はマクブライン王国には存在しないと言われている。最強の魔法だと。だからこそ、マクブライン家が王家として国を興し、他家もそれを認めたのだ。そんな逸話が建国をモチーフとした御伽噺にも語られている。
「ブライアン卿は『雷』すら躱す。誰も彼を捉えられない。敵として前に立てば、気付かぬ内に死んでいる。ルーサム家のダーグ軍団長が彼を制したと聞いたが、あくまでも模擬戦だ。そして、軍団長自身が『次は殺し合いになるから二度と奴とは模擬戦をしない』と辟易したという話も聞いた」
「お、お父様? 何故にそのようなお話を……?」
アリエルからすれば当然の疑問。アルがブライアンに似ているのは親子なのだから当然のことだ。そして、アル自身も『父上は化け物だ』と語っていた。だが、今その話をエイベルがする意味が彼女には解らない。
「アリエルよ。ここからは機密だ。心して聞け。王国においてブライアン卿は不可侵の存在だ。王家は彼が望むモノを与える。代わりに彼は王家にも政にも関与しない。そういう契約があるのだ」
「……そ、それは……内容こそ特異ですが、主従を考えれば当然のことでは? 主家たる王家に従い、王家は従う者に報いる……」
「そうだ。当たり前のことだ。だが、契約の対象はファルコナー家ではない。あくまでもブライアン卿個人。個人が王家と契約している。そして……私はブライアン卿から聞いた。彼が操る魔法の秘儀をな」
魔法。
貴族家には秘儀とする術理が一つや二つあって然るべきと言われている。血統を利用した特殊な魔法を継承している貴族家もあれば、魔法の術式自体を秘伝としている場合もある。
門外不出としている家もあるにはあるが、魔法の秘儀を交渉の材料にしている貴族家も決して少なくはない。だが、当然のことながらおいそれと知ることはできない代物には違いがない。
個人で国と契約するほどの魔道士。その秘儀。どれほどの価値か。
「……お父様はその秘儀を知る為に何を……?」
アリエルはブライアンの秘儀そのものよりも、父エイベルがソレと引き換えとしたモノの方に寒気を覚えてしまう。
「ふふ。安心しろ、何もない。ブライアン卿は唯の茶飲み話として語っただけだ。そして、彼の魔法の秘密は秘儀でも何でもなかった」
「は、はい……?」
「ファルコナーのマナ制御の先。それは唯のコツ。『感情とマナを切り離さない』……それだけだと言っていた。普段は感情豊かであるのに、そのマナが一切揺らがない男が何を言っているのだと当時は思ったがな。そして『ある程度の勘や才能は必要だが、普通の魔道士なら修練によって俺と同じ領域に達することができる』とも語っていたな」
「…………お父様が仰りたい機密とはソレですか?」
秘儀が秘儀ではない。特殊な血統による継承ではない。天性の才能による一代だけのモノでもない。ただの修練とコツによる技術。誰にでも可能性がある。それこそが秘儀。流布できない情報。
「ファルコナー領には、ブライアン卿に次ぐ魔道士は多くはないだろうが、決して少なくもない筈だ。その誰もが彼の地から出てこないのは、王家との契約によるもの。実は同じ契約を、東方のルーサム領や北方のラジアータ領に属する一部の者たちも受けていると聞く。……だからこそ、ルーサム家が独立派に与したことで王家の裏をかけたのだがな」
「……それも機密ですね? 少なくとも私は噂すらも聞いたことがありません」
「古貴族家の当主には知らされている情報だがな。ブライアン卿の茶飲み話に比べれば然程でもない。ちなみに、契約により縛られている者のその正確な数は分からんが、ファルコナー領ではそこそこに多いだろう」
アリエルはエイベルの言いたいことがようやくに理解できた。
いま、王家との契約など関係なしに、王国内をうろついている者がいる。飛び抜けた化け物の息子。
「私は彼にブライアン卿ほどの脅威を感じなかったが……コツとやらを掴んだらアルバート殿もそうなるだろう。そして王国……王家は超越者を野放しにはしない。ブライアン卿とて唯々諾々と契約を交わした訳でもない。契約と監視の目を押し付けられたのだ。……もっとも、監視の方はファルコナーに感化されてしまい、王家も頭を抱えていたがな」
「押し付けられた……最強の魔道士が……ですか?」
アリエルとて方法はある程度は思い付く。手っ取り早いのが人質であり、ファルコナー領への諸々の商取引を締め付けるなどだ。……が、それが仮にアルであれば、必ずどこかで‘やり返す’。危険な一手だ。アリエルなら選びたくない。
「……私も詳細は知らぬが、単純な脅迫や人質の類ではない。あのブライアン卿ですら素直に負けを認めるほどだ。王家には超越者を従える『何らかの力』があるのだ。『雷』など見せ掛けのオマケだ。契約による縛りこそがマクブライン王家の秘儀。いまは違うようだが、かつてはクレア殿すら縛られていたとも聞く。そして、私は王国の貴族家当主として彼に首輪を付ける側だ。……アリエルよ。私の言いたいことが分かるな?」
「…………は、はい」
アリエルはごくりと唾をのみ、覚悟を決める。
『アルバート・ファルコナーの友として為すべきことする』
それはエイベルの……古貴族家にして大貴族であるダンスタブル侯爵のお目こぼし。ブライアンとの友誼、アルへの敬意として。
そしてエイベルの語る契約による縛り。
マクブライン王家の秘義。
クレアの扱う同系統の異能をも上回るモノ。
もっとも、クレアはとうの昔にマクブライン王家の秘儀を解析して盗んでいる。同じ事は出来ずとも、契約破りを可能とし、自身の異能の強化に活かしていたりもする。
アリエルは考える。自身の抱いていた違和感のことを。
「(……アルは強い。いくら辺境貴族家と言えど、都貴族に比べると強過ぎるほど。……でもそうじゃなかった。そもそも強過ぎる者は、王家が縛って私たちの目に触れなかっただけ……?)」
アリエルは薄ら寒いモノを覚える。アルは語っていた。ファルコナー領には自分では敵わない者も多いと。
エイベルが言うには、その者たちは王家によって縛られている。つまり、王家はそれほどの秘儀を有しているということ。エイベルが王国最強と断言する、ブライアン・ファルコナーですら縛る契約の行使。
超越者を封じるマクブライン王家。
王国の秩序を保ってきたのは、間違いなく王家ということ。
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……
…………
………………
「セシリー殿。本当によろしいので? オルコット家やダンスタブル家の庇護があれば、少なくとも追い回されることはないでしょうに……」
もう一つの旅立ち。神子セシリー。
東方への旅路で捕らえられてダリルの裏切りを知った。その上、クレアの企みに踊らされ、無気力のままに虜囚の身で流される。意思を取り戻したかと思えば、覚悟も無いままに強大な力を振るい、敵を殺して動揺してしまう。
アリエル一行に合流しての旅路の中でも、覚悟も定まらず、自分が何をしたいのかもハッキリしない。力を振るう恐怖に負けて、現実を見ずにフワフワしたまま。無様としか言いようがない。
周囲に甘やかされ、自分自身でも己を甘やかしていた。
そんな彼女だったが、義両親や義弟と過ごす中で一つだけ覚悟が定まった。
『はぁ……情けない。オルコット家の長子でありながら何たる体たらく。義姉さんは馬鹿なクセに考え過ぎなんだ。いちいち賢いフリをするのは止めなよ。実際、馬鹿さ加減はダリルと変わらないんだからさ。もっとシンプルにやりたい事を一つに絞れば?』
『そ、そこまで言わなくても良いだろう? それに、ダリルと同じ程度などと……お前は私のことをそんな風に見ていたのか……ッ!?』
『ん? 今さらなに言ってんの? 義姉さんとダリルは、同じ程度の馬鹿同士でお似合いだっただろ? あと、神子云々に関しては僕らにはいまさらだよ。オルコットに連なる者はとっくの昔に覚悟を決めている』
自分のことを客観的に見ることも出来ていなかった。まさか家族にダリルと同程度の馬鹿と思われていたとは……と、セシリーはショックを受けていたが、発言した義弟をはじめ、義父も義母も馴染みの使用人たちですら『こいつ何で今さらショックを受けてんだ?』という視線を彼女に浴びせた。
知らなかった……自覚していなかったのはセシリー本人のみ。
更に、オルコット家の者は誰もが覚悟を持っていた。独立派に与すると決めるよりも遥か前から、貴族としても、家族としても……気負いなく命を懸ける覚悟を持ち合わせていた。それを彼女は思い知る。
「ああ。私は行くよ。ダリルと話をする。クレア殿を殺すことになってもだ。ヨエル殿やエイダは私のことを馬鹿な女と笑うかも知れないが……私はやっぱりダリルが好きなんだ。あいつの真意を聞きたい。もう一度、ちゃんと話をしたい。馬鹿な真似をしやがってと、ぶん殴ってやりたい。……ごちゃごちゃ考えるのはやめだ」
ウジウジと悩んでいた頃に比べれば、スッキリとしたセシリーの表情。
ヨエルはそれを良しとしたが、エイダは主の事を、ただ肯定するだけにという訳にはいかない。
「……主たるセシリー。私はそんなアンタを笑うさ。理想ばっかりの甘ちゃんだし、覚悟も無い。戦士としては未熟にもほどがある。なのに結局は惚れた男に逢いたい、話がしたい……と、ソレだけで振り切れるんだからな。はは! まったくもって馬鹿で単純な女だ」
何だかんだと言いつつ、それでもエイダはセシリーの選択に従う。ただ、戦士の恩とは別に『あぁはいはい。お熱いことで』という感があるのも事実。
「……エイダ。そ、そこまで言うか? 一応従者じゃなかったか?」
「はっ! 私は戦士として恩を返すが、別にアンタを全肯定はしないさ。それに……ごちゃごちゃと考え過ぎだったのは事実だろ?」
「うッ……ま、まぁな……」
「(……単純な主だな)」
アッサリとエイダにやり込められる、単純なセシリー。そういうとこだぞ。
「(何処か落ち着きのなかったセシリー殿のマナが、オルコット領都で過ごす中で驚くほど安定した。……これはクレア様の思惑通りなのか、それとも……?)」
ワチャワチャとエイダにからかわれるセシリー。そんな二人を見やりながらヨエルは思う。『どこまでが誰の思惑なのか?』……と。
既に託宣……“物語”からの流れは逸れた。それでも未だに世界に影響を残す。役割を持つ者に働きかける。
その中心はどうあっても神子。
セシリーであり、ダリルであり……そして総帥。
元の流れに戻ることはない……歪な形のままに世界は進む。
愚かな人形劇に興じる者。
押し付けられた役割を越えようと足掻く者。
過ぎゆく役割に固執する者。
そもそも未だに役割を知らぬ者。
役割の外にいる者。
次に始まる新たな物語を見据えている者。
それらを遥か高みから眺める神々。
それぞれの思惑が交叉しながら世界を紡ぐ。
“物語”の終焉は近い。
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