落とし物ありがとう大作戦!!‥‥‥のはずが!?
お読みいただきありがとうございます。
「お、俺のこと、覚えていないのか‥‥‥?天乃。俺だよ!!健だよ!!」
「へ?あ、天乃‥‥‥?健‥‥‥?」
「‥‥‥。」
お互いにそう呼んでいたことを、忘れているのか‥‥‥!?
ああ、天乃はもう、俺の存在なんて‥‥‥、これっぽっちも‥‥‥。
「いや、おかしいだろ!?」
__そんな簡単に忘れられてたまるか!!
いや、外見でわからないのはわかるが、名前で俺だってわからないのはおかしいだろ!?
普通に考えて!!
まだ半年、いや三ヶ月も経ってないんだぞ!?卒業式から!!
普通忘れるか!?
いや、忘れないね(多分)!!
それに、なんで『伊織』じゃなく『佐久間』の方だけを知っているんだ!?
俺、名字が『佐久間』に変わったこと、教えてないよな!?
それに『伊織』を忘れているなんて‥‥‥!!
「えっと‥‥‥、な、何がおかしいの、かな‥‥‥?」
「俺のこと、本当に覚えてないのか!?天乃!?」
「え、あ、うん‥‥‥。えっ?」
本気で、戸惑っている、だと‥‥‥!?
なにかのドッキリであってほしかった‥‥‥。
俺の中の天乃(妄想)は、
『健?変わったね〜。お互い変わったし、約束は健の勝ちでいいよ。』
そして‥‥‥、
『ねえ、健。デート行こ?中学の時行けなかったとことか行ってみたくない?』
とか、あわよくば、
『健、私‥‥‥、あなたのことが‥‥‥。』
とかなっていたのに!?
なんで覚えていないんだ!?
「えっと‥‥‥、佐久間、さん?」
「‥‥‥。」
放心、してしまった。
ショックが故に‥‥‥。
「あ、ああ!!思い出した!!筆箱拾った人ですね!?どうかしましたか!?もしかして私にお礼とか!?」
「えっ?どうしたんだ‥‥‥。天乃‥‥‥。」
「そんな‥‥‥、お礼なんていいのに‥‥‥。」
やばい‥‥‥。
天乃が壊れた。
一人で喋っている‥‥‥。
お、俺、お礼とか持ってきてないけど‥‥‥。
しかもちょっと棒読みだし、恩義せがましいというか‥‥‥。
こいつ、本当に天乃か‥‥‥?
あの天使なのか‥‥‥!?
俺のこと忘れたのはしょうがないにしても、性格まで変わっていないか!?
「でも‥‥‥、そんなに言うなら。」
いや、そんなにもなにも何も言っていないんだが‥‥‥。
「デート、なんてどうでしょう?佐久間くん。」
「はっ?デート??」
いや、まあ、誘うつもりではいたが‥‥‥、にしてもいきなりというか‥‥‥、普通の天乃だったら嬉しいだけなのだが‥‥‥。
はっきり言って怖い。
様子が変で、自分との過去をめっきりと忘れられた人にいきなりそんなこと言われたら。
「私はやっぱり‥‥‥、デートならデパートへ行きたいですね。色々なものが見られますし。佐久間さんは?」
「えっ、俺?」
もうイマジナリーフレンドと話しているのかと思っていたから、目線を合わせられて聞かれて硬直してしまう。
やばい。こんな話の聞かない天乃は初めてだから、なんて言えばいいのかわかんねえ‥‥‥。
しかもデパートとか天乃が言い出さなそうなとこ言い出したから、パニックだ。
おい‥‥‥。天乃‥‥‥。
中学の時、『人混みは苦手で‥‥‥。』って言った天乃につい『マジ?本当に?あの天乃が!?』と何度も聞いて怒らせたの、まだ引いているのかよ!?
あのとき何回謝されたと思ってるんだよ‥‥‥。
慰謝料とか言って、高い単行本も買わされたし‥‥‥。
『俺の小遣いはお前の本代じゃないんだぞ‥‥‥。知っているか?』
そう呟いたのがやけに記憶に残っている。
結構前のはずなのにな‥‥‥。それ。
「出かけるときの大半は書店巡りのお前がそんなこと言うなんて‥‥‥、お前、あのときのこと、まだ怒ってるだろ。天乃。謝っただろ?」
天乃は愛華と違って顔に出さずに静かに怒るから怖いんだよな‥‥‥。
とにかく怒りを鎮めて‥‥‥!
「は?あのとき‥‥‥?謝る‥‥‥?と、とにかく、デート楽しみですね。」
「はぁ‥‥‥。」
え、怒って‥‥‥、ないのか‥‥‥。
それにしても、楽しみですね、って言われても‥‥‥。
一人で勝手に話を進められていて楽しませようとする気なくね?
本当にこいつ天乃か?
天乃はこんなに強引じゃないぞ?
優しいぞ?天使だぞ?
怒っていてもここまで強引じゃなかったはず。
それに
「集合場所も集合時間も決められてないのにどうやって集まるんだ?天乃。」
「っ!?それは‥‥‥。」
司書さんと仲のいいぐらい本の虫な彼女は学年一の才女だった。
そりゃあ、抜けてて可愛いとこもあったけど‥‥‥、ここまで勝手かつ穴のあいた計画を立てるようなやつじゃなかった。
「えっと、後で携帯に来るので‥‥‥。」
「‥‥‥。」
確かに俺達は互いの連絡先を知っていた、が。
「俺たちは番号を一旦消したはずだぞ?なんで『来る』んだ?」
「一旦‥‥‥?私、佐久間さんの携帯番号知ってたの!?」
「何を言っているんだ?天乃?そりゃ、連絡先ぐらい交換するだろ?てか、しただろ?俺ら。まあ。受験のときに互いに邪魔になるからって消したじゃないか。」
だから、俺は天乃に携帯で連絡は取れない。
なのに、なんで『連絡が来る』なんて他人事で言っているんだ?
なんで俺と連絡を取り合ったことを知らないんだ‥‥‥?
「シナリオが‥‥‥、狂っている‥‥‥?」
「さっきから、何を言っているんだ?大丈夫か?天乃。」
ここまでくればもう別の人格にしか見えない。
俺のいない間になにがあったんだよ‥‥‥。
「おーい。健〜。もう授業始まるから戻るわよ。いつまでも、天乃ちゃ、こほん。姫川さんに迷惑をかけてないで。」
「ああ。愛華。」
驚愕の顔で俺を見る天乃を心配になってくると、愛華がわざわざこっちの校舎まで来てくれた。
「ひいっ!?白雪 愛華!?」
「‥‥‥?姫川、さん?」
しかもなんか天乃が愛華におびえているし。
愛華は確かにきついことを言うやつだが、天乃はそれを包み込めるほどの天使だったはず‥‥‥。
やっぱり違和感が‥‥‥。
「なんだか、天乃が別人みたいな感じで‥‥‥。」
「‥‥‥別人?」
俺のその言葉に愛華は顔色を変えた。
嬉しそうな、それでいて複雑そうな。
俺のあの一言にそんな一喜一憂するほどのものがあっただろうか?
「な、何を馬鹿なこと、言っているの!?早くクラスに戻るわよ!」
「あー、わかったわかった。じゃあ、また今度な。天乃。」
そういって俺は先にクラスに足を向けた愛華を追った。
今日がちょっとおかしかっただけかもしれないし‥‥‥、明日も行こうかな。天乃のとこ。
「‥‥‥。なんだったの‥‥‥。あの、二人‥‥‥。ゲームと違うんだけど‥‥‥。」
その『天乃』と呼ばれた少女の独り言は俺には届かなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
やっとまともに出てきてくれたヒロイン(仮)!!
もうまともには一生出てこないかと思っていました‥‥‥。
よかったね。ヒロイン(仮)。