side結月 ひび割れたガラスの靴への祈り。
そんなに進みません。
「十二時の鐘が鳴ったよ。」
そう笑って皮肉げに告げた。
その言葉がどこか癪に障ったのだろう。王雅はあたしに止めをささんとばかりに思いっきり首を締めた。苦しくて苦しくて。自分の息がピューピュー言うのを感じていることしかできなかった。頭に酸素が行かないのが感覚的に分かる。
目の前では一人の男が頬を上気させて、歪んだ笑みを見せていた。
興奮しているんだ。こいつは。私が殺されそうになっていることに、自分が殺そうとしていることに興奮しているんだ!!
『変態。』『気持ち悪い。』
そう言おうと思っても、喘ぎ声しか出なくて、首を締めるその手を引っ掻くことぐらいしかできない。でも、ここで女と男の差が出てしまう。あたしにとってそれは皮肉だった。
苦しいよ‥‥。なんで、こんなことばっかり。
__はやくおわらせて。
その時だった。突然、息苦しさがなくなったのだ。
「やっほー!僕が来たよー。副会長パイセンいますうー?」
「っ!?」
玄関先から聞こえる声にあたしは涙ぐみそうになった。
涼風、さん‥‥。わかって、くれたんだ。なんで事情も話していないのにこの状況を知ったのだろうか。もしかしたら、本当に偶然かもしれない。
それでも、あたしは今、彼女のおかげで生き延びることができたのだ。彼女が、彼女が魔法使いだったんだ!!
拝みたくなった。ああ、これで私も。
「‥‥俺はこの部屋から出るが、逃げるなよ。」
その声にあたしは背の後ろに悪寒が走った。違う。これはただ死ぬ時期が伸びただけで、あたしが今日、王雅に殺される運命は何一つ変わっていないんだ。
あたしに用意されていたのはヒビ割れしているガラスの靴だけだったのだ。
王雅はあたしを服によって何重も手と足を複雑に結ぶと、冷たく睨んで部屋の鍵をかけた。
「あ、あははっ‥‥。」
その施錠音で、あたしは笑った。
ああ‥‥。なんていう恥ずかしい勘違いをしてしまったのだろう。あたしに当てはまるガラスの靴なんて存在しないんだ。あたしの王子様なんて最初っからいなかったんだ。
あたしの味方、なんて、最初っから‥‥。そう考えているともっと笑ってしまう。
これが最期だ。一人で考え事のできる時間は、最期なのだ。あたしは最期ならばと普段から癖になってしまっている『祈り』を捧げた。
「ママ、パパ、ごめんなさい。二人の頑張っていたこと、全部、無駄になっちゃった。千陽、どうか、逃げて。あたしの身代わりにどうかならないで。」
千陽のために万が一を考えて、全部の事情を書いた手紙を仕込んでおいた。千陽が普段近寄らなくて、でもあたしが死んだらちゃんと見てくれると思う場所に。
王雅が先に開けてしまうかもしれないため、千陽に伝わるかはあくまでも運だが。
「あとは‥‥、お義母さん。あなたは千陽のことをいじめました。許しません。姫川さんと千陽を救ったことは今でも間違いじゃないと思っています。‥‥ですけど、あなたは、心を病んでいた。あたしがそのことにもっと、早く気がつけたら‥‥、良かったのに。」
『お義母さん』なんて初めて呼んだ。でも、なんとなく彼女に共感してしまう。『涼風』グループに巻き込まれて、純粋な心を失った彼女に。
「姫川さん‥‥、いや、天乃ちゃん。助けてくれて、ありがとう。千陽が元気なのはあなたのおかげだよ。でも、あなたは高校に入ってから雰囲気が変わったから、今度はあたしが支えたかったのに‥‥。ごめんね。」
千陽を救ってくれた功労者に感謝の念を送る。あともう一人、名を出すとしたら、彼だった。
「佐久間っち。ありがとう。佐久間っちってあたしと初めて会ったときのこと、覚えている?佐久間っちは覚えてないかもしれないけど、あたしが派手な格好しててさ、孤立していたときに話しかけてくれたんだよ。」
自分の派手なネイルを思い出して笑う。
あのときは、本当に必死だった。王雅は元々は冷たく見えるだけの人だったが、義兄としての義務は果たしてくれて感謝していた。
でも、中学生の時、お義母さんが精神系の病院に入院してから本格的にあたしのことを襲ったのだ。そのことにショックを受けた。でもあたしがバラしたら殺すという。それならば殴れないようにしようと露出が高い格好をしていたのがあのギャルの格好の理由だったのだ。懐かしい。
それからあたしはギャルというものにハマって、『オタクに優しいギャルが実際に存在しているなんて初耳なのだが!?』というラノベを読み込んでギャルとしての心構えを知った。その本にはネイルの方法や髪型や口調についてなども分かって、あたしのギャルのバイブル書だった。
でも、孤立したいわけじゃなかったの。ただあたしは『ギャル』というものにどうしようも憧れてしまったの。
それを、君が助けてくれたんだよ。
だから、あたしは学校では『普通』になれた。格好は変だったかもしれないけどね。
だから、君になら、触れたんだよ。
それを確かめたくて、何度も、何度も触ったの。
「だってね、佐久間っち、あたし‥‥。」
「ん?どうした?」
「どうしたじゃないよ〜。もう、佐久m、‥‥え。」
後ろを自然と振り返ると、そこには佐久間っちの姿があった。
最後までお読みいただきありがとうございます。筆の進みがかなりいい感じ!!(あ、これが普通ですよね。すみません。)な、むこうみず太郎です。
今回はどうしてもここで結月さんの心情を入れたくて物語自体は進めずに、彼女の心情について書かせて頂きました。(心情が入っているか?という疑問はなしで!何卒なしでお願いいたしますぅぅぅぅぅ!!!!)
最近、愛華さん(ヤンデレ幼馴染)が出てくる機会が少ないのでまた出してあげたい!!結月さん&涼風さんが強すぎる!!むこうみず太郎の推しは愛華さんなのでもっと出してあげたい!!
皆さんの推しは誰でしょうね?ぜひ教えていただけると光栄です。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。




