彼女のSOSについて。
シリアスシリアス。シリアスです。もう少しでこの章も終わりですね‥‥。
「なあ、黄瀬さんの妹さん。」
「千陽、で、いいですよ?その呼び名はややこしいし長いですから。」
「ああ、そうか。千陽ちゃん。」
「はい。なんでしょう?」
「お姉ちゃんに男の人が苦手とかそういう話は聞いたことあるか?」
何故、俺に対して震えていたのか‥‥‥。
もちろん俺が嫌い、というのもなくはないだろうがそんなやつに向かって積極的に抱きつこうとするだろうか?
俺は思った。
__これは黄瀬さんなりのSOSなのではないのかと。
「男の人、ですか‥‥‥?う〜ん。お姉ちゃんは元々男の人と喋ることはあまりなかったみたいですからね‥‥‥。」
「そう、なのか?」
結構意外というか‥‥‥、黄瀬さんなら男とガンガン喋っていそうなのだが。
「でも、お姉ちゃんはお義兄ちゃんと仲いいですよ?」
「‥‥え?」
俺は訝しんだ。だって明らかに黄瀬さんはお義兄さんである副会長を嫌っていたのに。
「はっ!これ言っちゃいけないのです。お姉ちゃんに『めっ!』って言われちゃっているのですぅ‥‥‥。」
「ねえ、黄瀬ちゃん。」
はっとした感じで自分で自分の口を封じる千陽ちゃんに、日夏が話しかけた。
「この際、全部話しちゃうのは駄目なの?」
「だ、ダメなのです!!これを言ったら『ぜつえん』と言われたのです!!」
俺は困惑の声をあげる。
「ぜ、絶縁‥‥‥?」
そこまで隠したいことというのは一体なんなんだろうか‥‥?
「なあ、千陽ちゃん。そのことについてもう少し詳しく教えてくれないか‥‥?」
「駄目、なのですぅ‥‥。お姉ちゃんに捨てられちゃったら、千陽、どうやって生きればいいのかわからないんです‥‥。ママもパパもいなくなっちゃって。もう、千陽にはお姉ちゃんしかいないのです。」
千陽ちゃんは表情を曇らせて目を潤ませていたが、それでも俺は尋ねた。黄瀬さんのために。
「でも、黄瀬さんがなんであんなことを言ったのかの手がかりになるかもしれないんだ。」
「お兄さん、もう黄瀬ちゃんは『大丈夫』って言いましたよね?それならなんでもう手を引かないんですか?それともなんですか?人の家庭にいちゃもんつけていて楽しんでいるんですか?」
「い、いや‥‥。そういうわけじゃ、ないんだが‥‥。」
それでも、黄瀬さんのあの震えた身体が気になってしまう。
「約束、破るつもりですか?」
「‥‥。」
でも俺は確かに日夏と約束してしまった。それを破ってしまうのはよくないのではないのか?
あのとき震えたのはただ単なる偶然なのかもしれない。
なのに、黄瀬さんの表情が脳裏から消えてくれない‥‥。
ぐるぐるとひたすら回り続ける思考に頭がだんだん追いつかなくなってくる。
俺は、このまま何もしないのが一番なのだろうか‥‥?
すると、いるはずがない声が響いた。
「‥‥おにい。」
__そう、碧音だ。
「っ!?あ、碧音!?」
「あおちゃん先輩‥‥。」
「碧音、もしかしてずっと聞いていたのか?」
「‥‥ん。」
いつも素直な碧音が強情をはるのが珍しい。人の言うことを、特に日夏のことをよく聞くいつもの碧音からは考えられない。
勘、なのだろうか‥‥?
「おにい、は。もっとこれ、調べなきゃ。」
「碧音っ!!でもお兄さんがこれ以上割入ったら黄瀬ちゃんの家に迷惑がっ‥‥!」
いつも飄々とした日夏が碧音のいきなりの反抗に混乱しているのか、怒鳴るように言った。
いつもとは違う日夏の様子に、碧音は怯えながらもたどたどしく、でもはっきりと言葉を連ねた。
「ひーちゃん‥‥、は、関係ない。」
「あ、碧音‥‥?」
「ひーちゃんに、なにをいわれても‥‥、こうかいするの、おにい。ひーちゃんじゃ‥‥、ない。」
「‥‥それはっ!!そうかもしれないけど!!」
「それに‥‥、その、黄瀬ちゃんのおねーさんは‥‥、おにいを、たよった。‥‥‥なら、なにか、助けてほしかったんじゃ、ないの‥‥?それをむししたら、おにい、きっとずっとウジウジしてる‥‥。」
「そんなのお家事情で自分が将来出世したいからに‥‥!!」
「それ、なら‥‥、おにいをたよらなくても‥‥、いい。おにいは、やくたたず。」
「‥‥そう、だね。お兄さんは役立たずだね。そんなお兄さんを頼るなんてよっぽどのことだもんね‥‥。確かに碧音の言う通り‥‥。」
「おい、お前らは俺のことをなんだと思っているんだよ。」
碧音と日夏の緊張した雰囲気にハラハラしていたら、なんかすごい流れ弾を食らって泣きそう。なんでコイツラは俺を貶すことで合意しているんだ?
まあ、本格的な喧嘩にならなくてホッとしているのは事実なんだけどすごく複雑な気分だわ‥‥。
「じゃあ、お姉ちゃんにも『涼風グループで出世したかった』じゃない事情があった、っていうことですか‥‥?」
話がまとまったことを感じ取ったのか、千陽ちゃんはうつむきながら尋ねた。
「ん‥‥。じゃなきゃ‥‥、おにいに『たすけて』‥‥、言わない‥‥。」
「そうだよね〜。ひーちゃんもウッカリしてたよ〜。」
そろそろこの二人をなんとかしたい。っと、軽口を叩いている場合じゃなかった。
「そこで、だ。千陽ちゃんには、さっき言っていた『秘密』を言ってほしい。絶対に秘密にする。秘密にしなかったら俺を永遠にATMにしたっていい。もし絶縁になったとしても俺が取り持つ。だから頼む。」
「でも‥‥。」
「ためらう気持ちは分かる。でも、黄瀬さんになにかあったら遅いんだ。」
口をもごもごしていた千陽ちゃんは助けを求めるように日夏の方を見る。
「ひーちゃん先輩‥‥。」
「‥‥いいんじゃない?言っても。ひーちゃん、どんなことかは知らないけど、でもお兄さんは小心者だから大丈夫だよ。きっと。」
「小心者は余計だ。馬鹿日夏。」
「あう‥‥。」
「きせ‥、ちゃん‥‥。」
迷うように視線をキョロキョロ彷徨わせる千陽ちゃんに、碧音が優しく語りかけた。
「わたしも、いる。ひーちゃんも、いる。‥‥ひとりじゃ、ない。」
「あおちゃん先輩‥‥っ!!」
千陽ちゃんは俯くのをやめ、嬉しげに顔を赤らめてから、やがて、ぽつりと呟いた。
「その『秘密』っていうのは、夜になると、時々物音がするんです。」
「物音‥‥?」
「はい‥‥。千陽、怖くて‥‥。お姉ちゃんを探してもいないんです‥‥。時々『トラウマ』も蘇って最悪なんです‥‥。」
トラウマ、というのはきっと虐待のことだろう。それを思い出させられるくらい、怖くて心細かった彼女は黄瀬さんを探したらしい。
「でも‥‥、見つからないんです‥‥。お姉ちゃんの部屋にもリビングにも。」
「全部の部屋を探したのか?」
「いえ、物音のした部屋だけは怖くて入れなかったんです。そんなことが何回かあって、千陽は怖かったです‥‥。そんなある日、物音がし終わった後、お手洗いに行きたくなったんです。お手洗いの場所は物音のする部屋から近くて、怖かったんですけど頑張って行ったんです。そうしたら、その物音のする部屋からお姉ちゃんとお義兄ちゃんが出てきたんです。」
「‥‥二人、どんな様子だった?」
「なんか、お姉ちゃんが怖がっている?ような気がしました‥‥。やっぱりお姉ちゃんも物音のする部屋にいるのは怖いみたいですぅ。」
「っ!!」
いや、これは‥‥!!
__黄瀬さんが俺が抱きしめたら震えた理由。
__黄瀬さんが副会長を『冷酷』だと罵った訳。
これらを今の話とつなぎ合わせるとなんとなく想像がつき、思わず唇を噛む。
おそらく千陽ちゃんは彼女の義兄をいい人だと思いこんでいるのかもしれない。だが、黄瀬さんにとっては‥‥。
だから俺に助けを求めたのか‥‥。
日夏も碧音も少し青ざめながら手を震わせている。千陽ちゃんの言うきっとその意味に気がついたのだろう。
千陽ちゃんだけが首をかしげている。
もし、俺が考えていることがあっていれば副会長はよっぽどの屑だ。
「千陽ちゃん!!黄瀬さんは今何をしている!?」
「え?ええっと‥‥、今は‥‥、どこかにでかけているのかもですね‥‥。朝早くに出かけていたので。」
「‥‥よかった。」
なら今は大丈夫だろう。
「あう?」
千陽ちゃんがスマホを取り出して何やら操作していると、俺らの方を向いた。
「今、お姉ちゃん帰ったみたいですけど‥‥。お義兄ちゃんと一緒に。」
「「「っ!?」」」
俺たち三人は椅子を派手に倒しながら立ち上がった。
「千陽ちゃん!!今すぐ君の家に行かせてくれ!!今すぐに!!おい!!碧音、日夏、行くぞっ!!」
「ん。」
「はい。お兄さん。」
いつもは茶化す日夏も今ばかりは真剣な眼差しをしている。
「な、なにがあるんですか…‥?」
訳がわからないと言わんばかりの表情に俺は少し話すのをためらったが、やがて口を開いた。
「‥‥いいかい、千陽ちゃん。黄瀬さんは、君のお姉ちゃんはお義兄さんに暴行されている可能性がある。」
「っ!?」
お久しぶりです。とても更新が遅くなって申し訳ないむこうみず太郎です。やっとこの章も最終ステージに来ましたね〜!
最近嬉しかったことは更新が遅くなってもずっと見ていらっしゃった方がいたことです。あ、ありがとうございます!もう本当に泣きそうになりました‥‥。これからも更新が遅いかもしれませんが(おい)それでも暖かく見守っていただけると嬉しいです。
頑張ります!!ほどほどに((殴
あー!!嘘です嘘です!!殴らないでくださ〜い(´;ω;`)
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