訝は行く
少し事件が出てきます。温かい目でみてくださいまし。
「どこに行くんですか。」
「その子供たちのところだ。」
「何でですか。少しぐらい教えてくださいよ。というか、名前ぐらい教えてくださいよ。」
「フィール・ラ・訝。わかったら帰れ。」
「それで帰ると思って言ってますか。」
訝はまた怒りを覚える。しかし、そこで怒るわけにはいかないと自分に言い聞かせる。
「また無理矢理帰らせるぞ。」
楼は不思議そうな顔をする。心当たりがあったのだ。
「あの急に気持ちが変わるっていうか、あの感覚、訝さん何かしてたのですか。まさか、催眠術てきなやつですか。」
「催眠術だろうが、超能力だろうが、霊能力だろうが、知ったことか。僕がそんなことできるように見えるか。」
楼は目をそらす。
「見えますけど。」
訝はため息をつく。
わいわいしてる子供たちが見えてくる。遊びながら歩いてるせいか、全然前に進む様子がない。
「おい、君たち今からどこへ行くんだい。いや、言わなくてもわかる。前大きな声でこの先に秘密基地があると話していたからね。案内してくれ。」
訝はいきなり話しかける。
「ちょ、訝さん、急すぎますよ。」
楼は慌てた顔をしながら言う。子供達には謝罪の気持ちを表した顔を見せる。子供たちは怪しみながら口を開く。
「おじさん誰。秘密基地は僕らのだぞ、案内なんてしないよ。」
「案内しろ。」
訝は睨むように見つめる。遠くの獲物を狙う動物のように、鋭い目つきだった。楼に見せた顔もこんな表情だったのかもしれない。
「分かったよ。」
真ん中にいた子が言う。周りの子は焦る。
「だめだよ。」
「僕たちのだよ。」
だが、真ん中の子は意思を変えない。
「いいの、いくぞ。」
仕方なく皆ついていく。訝は満足そうに歩いている。楼は訝を不思議そうに見つめる。
途中何回か、真ん中の子は案内をやめようとしたが、訝に見られるとまたすぐ案内を再開し、その秘密基地へたどりいた。
「ここか。」
訝は建物のような物体に近づく。
「おじさん、合言葉が必要なんだよ。見てて。」
子供の一人が建物の扉に近づく。木でできた、小さな扉。言葉を発する前に、扉が開く。
「おい、馬鹿。」
訝は叫ぶ。扉出てきたのは子供ではなく、大人。手にはナイフ、扉に近づいた子供を抱き寄せる。
「お前ら、動くな。動くとこいつの命はないぞ。」
扉から出てきたのは男。それも最近ニュースで見た人物。
「訝さん、この人。」
楼もさすがに知っていた。昨日、この町の駅前で人を殺したとして捜索されてた男なのだ。
「ああ、殺人の容疑で捜索されている。逃げてきたんだろう、こんな夜を過ごすのによさそうな場所があれば、入りたくなるさ。ま、ほかの子供が入ってなくって良かったよ。」
男は顔に怒りを浮かべて、叫ぶ。
「さっきからうるせえぞ。黙れ黙れ。」
ナイフが子供の首にあたる。泣く子供。訝と男との間には距離がある。救出は難しいか。
「仕方ないか。楼、警察を呼べ。」
訝が叫ぶ。
「そんなことしてみろ。こいつの命はないぞ。」
楼も電話などできる状況じゃないと、思っている。訝は少し笑みを浮かべる。
「お前はそいつを殺せない。それだけじゃなく、自らそいつを放すぞ。」
そこにいた全員が男を見つめる。男はナイフを降ろす。
「ああ、殺すのはやめだ。ほら、行けよ。」
子供も放した。何があったのだろうか。
「早く警察呼べよ。」
自ら警察を求める。楼や子供と同じように意思を変えた。不思議なものである。訝が何かしたのだろうか。聞いても訝は笑みを浮かべるだけだった。
どうでしたか。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。これからも温かい目でみてくださいまし。