訝は住む
能力もの第一弾、雑な文章ですが温かい目でみてくださいまし。
ソファーに身を預ける。背もたれを体の右側にし、仰向けになる。頭は肘掛に、腕は体の上に置く。体の上には毛布が乗っかっており、足元にはクッションがある。なぜクッションを枕にしないのか、それは彼の性格のせいだろうか。部屋の中には本や雑誌、新聞が無造作に転がっている。テーブルの上は食べた物が分かるようなゴミだらけ。キッチンはもう、空いてる場所がない。ベッドにも本等が散らかっているため、寝る場所など確保されていない。
元々それなりに大きな家ではある。売れている作家の家とでもいうような、そんな家。大手企業の社長の家である、と言うと少し説得力に欠ける。そのくらいの大きさの家である。そんな家を足の踏み場もない場所に変えたのは、この家の家主、フィール・ラ・訝<いぶか>である。外から見ると生活感がない家である。中に人が住んでいるとされているが、実際見たことのある人はほとんどいない。と言う噂を聞いて、やってきた変人もいたらしい。得た物はほとんどなかったらしいが。
「すみませーん。」
インターホンが鳴る。訝は音に気付き、窓から玄関の様子をうかがう。見知らぬ女性が一人、必死に建物の中を見ようとする。訝はため息をつくと部屋に戻った。ソファーに転がるとまた目を閉じる。つもりだった、また音が鳴る。訝は怒りを覚える。出ないと帰らないだろう。訝はめんどくさそうに起きると、玄関に向かう。扉を開けるのと同時に声がする。
「すいません、こんにちは。中慶出版の、ブエナ・セ・楼<ろう>です。雑誌のお屋敷の特集で聞きたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか。」
「帰れ。」
「いえ、少しだけでのいいので。」
「帰れ。」
訝はあくまでも受け付けない、数秒、楼を見つめる。
「帰ります、失礼しました。」
急に意見を変えると楼は帰って行った。門を出ると名残惜しそうな顔をする。なんで、帰るなんて言ったのか、自分でもわからない、そんな顔をしている。
「厄介なやつも出てくるな。」
訝は怒りを含めた顔をすると、器用に足元の物をよけてソファーに戻って行った。ソファーでの睡眠は体を悪くする、彼はそう言われたことがあった。しかし、寝る場所が他にない。もう、彼がこんな習慣になってから、二週間がたったようだ。
楼の急な意思の逆転、まわりに人がいたら不審に思うだろう。あまりに急であったとしか言えない。訝の顔がよほど、怖かったのだろうか。それは楼にしかわからないだろう。
楼は何の収穫もなく、戻ることになり、その心は沈んでいた。通り過ぎる子供たちにも興味がわかなかった。可愛いな、とか元気だな、とか、そういった感情もわかなかった。ただただ、何も情報を得れなかった自分が情けなかった。
「なんで、帰ります、なんて言ったんだろう。」
楼はそれだけが不思議だった。自分でもびっくりするほど気分が変わった。彼にそんな気迫があっただろうか。どこかかっこのつかないような容姿、だっただろうか。それすらも怪しくなってきた。
「もう一度、行こう。」
すぐに行動を起こすのは彼女の性格のせいだろうか。向きを変えると来た道を戻りだす。スタスタと早歩きを開始する。もともとゆっくり歩いてきていた。早歩きで戻ったら、あっという間につくだろう。気分が再びあがってくる。
「すみませーん。やはり少しだけお話出来ませんか。お話出来ないのなら、その理由とか、用事とか。関係ないことでもいいので、何か教えてくれませんか。」
訝はさすがに怒りが限界値まで達した。だが、それを顔に出せばその程度の人になってしまう。彼は一回深呼吸をすると、軽い笑みを浮かべながら、扉を開ける。
「なんだ。」
「先ほども申しましたが、何かお話をしていただけませんか。」
「いやだ。なんで一回、帰るって言ったのにまた来るんだ。さっきのは嘘なのか。」
「さっきのは、なんで自分でも帰るなんて言ったのかわからないんです。なんかこう急に言いたいことが変わったというか。それを言わないといけないという使命感を感じたというか。とりあえずすみませんでした。」
訝は呆れた顔をする。
「ところで、お前ここに来る間に小学生を数人見なかったか。」
「見ましたけど、どうかしましたか。」
「そいつらはこっちの方向に歩いてたか。」
楼はあまり内容が分からない様子であったが、そうです、と答えた。
「出かける。話はあきらめろ。」
そういうと彼は奥の部屋に行ってしまった。しばらくするとコートと帽子を身に着けて出てきた。
「どいてくれ、僕は今から出かける。」
「出かけるってどこにですか。」
訝はめんどくさそうに言う。
「子供たちのもとへだ。」
楼は全く理解できていない。訝はもう説明する気すら出ないため歩きだした。
「待ってくださいよ。私もいきます。」
「僕の役に立てるのか。」
「役に立って見せます。」
訝は笑う。
「君は何が僕の役に立つのか知ってると言うのか。僕の役に立つということがどういうことか、君は分かっている、そういう意味だぞ。」
楼はだまる。
「教えてやろうか。ついてこないことだ。」
「なら、役に立ちません。ついていきます。」
訝は完全に呆れた。
「君はしつこいといわれるだろう。僕からも言おう。しつこいぞ。」
「そりゃどうも。」
楼は完全についていく気になってしまったようである。訝はもう、反抗する気もなく、そのまま歩き出した。どこへ、そして何のために歩いているのか、楼はまだ全くわかっていなかった。
めちゃくちゃ戦うわけではありませんが、少しづつ戦闘シーンも出てきます。温かい目でみてくださいまし。