勇者召喚
マダナリス大陸、ここでは昔から魔王が復活した際に勇者を召喚し、魔王討伐へと向かってもらう習慣がある。
勇者召喚は各国が行ない、召喚に成功した国がこの大陸を治めるという事になっている。
勇者は皆が優れた能力を持ち、魔王を圧倒すると言う。
そして今はまさに、魔王が倒された平和な世界になったばかりである。
「国王様、イスカル王国より伝書が届きました。勇者が魔王を討伐したようです。そして、これより、イスカル王国がこの大陸を治める。と書かれています。」
兵士が姿勢正しく国王の前に立ち、伝書を読み上げた。
「ほう、それは良きことかな。だが!勇者はなぜこのアラサム王国へ来んのだ。いつでも歓迎の準備は出来ていたというのに。」
国王はかなりご立腹の様子だ。
「お父様。それはこの国が山の頂上にあるからかと。なにぶん道が険しいため、そしてこの国へ訪れずとも魔王城へと向かえるためかと思います。」
そう発言したのは、国王の娘のヒアリであった。
「この国はただでさえ貧しいから、民からは何も貰わず頑張っているというのに、召喚も統治もイスカル王国に持ってかれて散々だ。」
国王はついに途方に暮れてしまった。
「であれば、1つ試したいことがあるのですが。今、この平和な世界ですが勇者召喚を行ってみませんか?私も冒険してみたいですし。」
ヒアリがそう提案するのも、本来この国で勇者召喚が出来た際には、ヒアリも勇者パーティに参加するという約束があったからだ。
一国の姫が1人で山をおりる訳にも行かず、ずっと憧れていた外へ出たいがため国王に頼んでいた。
国王はだいぶ腕を組んで悩んではいたが、「我が愛しのヒアリの頼みならば聞いてやらんとな。早速、勇者召喚の準備だ。」
そう国王はだいぶヒアリに甘いのだ。頼まれたことは断れず、なんでも聞いてしまう。
兵士達は準備に取り掛かっていた。
用意するものは、魔法陣、魔道士、そして勇者召喚の書。
召喚の書に関しては、召喚が果たされた時点で召喚した国が各国から集める手筈なのだが、この国は山の上にあるため後回しにされすぎて回収をされなかった。
「さて、成功するかは神のみぞ知る。アラサム王国の国王、イービスが命ずる。ここに、勇者を召喚したまえ!」
国王がそう唱えた瞬間、魔法陣の上に稲妻が幾度となく走る。
そうして、一段と激しい光が走った後、稲妻は収まった。
「これは…成功したの?」
ヒアリや兵士、国王が魔法陣の方をじっと見つめている。
すると、魔法陣の上に人の影が見えた。
「おぉ、勇者よ!よくぞ来てくれた。我が呼び掛けに答えてくれてありが…ってえぇぇぇぇ!」
国王が勇者へと言葉をかけていたと思ったら、いきなり驚きの声を上げていた。
「お父様、どうかされましたか?勇者様への言葉…を……ってえぇぇぇぇぇ!」
続け様にヒアリも驚いた。
なぜなら、魔法陣の上に居た…いや、あったのは、四角い箱すなわち棺桶だったからだ。
箱の上部には十字架が描かれており、それはもう立派な棺桶である。
「これは、失敗のパターンなのか?ヒアリ、1回蘇生の呪文を勇者の棺桶にかけてみてくれ。」
国王が焦りながらヒアリに頼んだ。
「分かりました。蘇生〈バーミール〉」
棺桶が緑の光で包まれたかと思うと、次第に棺桶は消え、一人の男が現れた。
「なんとか初めてだったけど成功しましたわ。」
ヒアリは一息つくと、念の為と思い回復の呪文もかけた。
「回復〈ヒーラ〉」
再び、男は光に包まれて、呪文の効果が終わると、立ち上がった。
「ふぅ、いきなり酷い目にあったぜ。あの駄女神にはいつかたっぷりお礼しないとな。」
男はズボンをパッパッと払いブツブツと呟いていた。
「あっえーと、オホン。改めて、おぉ、勇者よ!よくぞ来てくれた。我が呼び掛けに答えてくれてありがとう。」
国王はようやく、勇者へと言葉をかけた。
「はぁ、駄女神と真女神、そして遂には異世界ですか。」
なぜか落ち着いている勇者の姿に、国王もヒアリも驚いていた。
「さてお主の名を聞こう。」
国王は勇者に問いかけていく。
「十六夜 大我《 いざよい たいが》それが俺の名前だ。よろしく。んでそちらさんは?」
中々変わった名前に少し困惑しながらも、国王達は話していった。
「じゃあ、このアラサム王国を助ければいいんだな。魔王討伐とかじゃなくてホッとしてるよ。」
普通勇者であれば、魔王討伐へすぐ向かうと言うと聞いていたため、一同はずっと驚きっぱなしだった。
「まぁ、魔王は少し前に他の国の勇者によって倒されておるからな。それよりも、勇者は優れた能力を持つと言われているが、お主はどのような能力を持っておるのだ?」
そう、それこそが大本命、この国を豊かにしてくれる優れた能力ならとても助かる…はずだった。
「それな。駄女神のせいでHPがどれだけ強くなっても2ってのと、不幸体質っていうパッシブスキルを付けられてよ。」
聞いているうちに、とてつもなく最弱な勇者を召喚してしまったと国王達は嘆いていた。