生徒会と朝原由美と
朝原由美と出会った夏から半年が経ち、お互いが生徒会役員の選挙に立候補したことで転機が訪れた。
俺の立候補は弓道部部長の唐崎雅美先輩からの突如とした指令によるものだった。
大人びた女性で、個人としては県大会2連覇を成し遂げ、部長としては50人の日昇高校弓道部員を見事に統率し、全国大会常連校に押し上げていた。
高松をはじめとする男子部員達はこの凛とした唐崎先輩に熱をあげていた。
ある日突然の呼び出しを受け、緊張でガチガチに固まっていた俺に先輩は
「生徒会執行部の選挙に立候補してほしいんじゃわ」
と言った。
「えええ!なんで、なんで僕なんですか!?」
「生徒会執行部が野球部ばかりで占められているのよ。万年地区予選落ちの野球部の部費が去年は30万円も配分されていて、うちらの部は強豪なのにたった15万よ!?信じられる?だから山科には、生徒会に入って野球部支配を打破してほしいのよ!」
「えええ!それ、めっちゃ責任重大じゃないですか!?なんで僕なんすか?高松や池田だっているじゃないですか!」
同級生で部でも自分よりも早くレギュラー入りをして、活躍していた2人の名前をあげた。
「高松は今年の国体選手有力候補よ。練習に専念させる。池田は次の部長候補じゃし。山科、アンタはまだレギュラーじゃないし、成績も中の上、あたりさわりのない人畜無害な感じが適任じゃけえ」
「そんなむちゃなっ「部長命令!」は、はい!!」
部費を獲得してこなければ許さないと脅されながら、俺は立候補させられ、弓道部票を基礎票に生徒会執行部に当選した。
そして、ある日、当選をはたした俺がおそるおそる生徒会室に足を運んだが、咥えタバコで諸先輩方が敵がい心むき出しの激しい出迎えをうけた。
「あ…あの、「おめぇが弓道部のか」は、はい!や、山科です」
「てめぇらのせいで、1年は野球部が生徒会に入れんかったじゃねえか!」
むなぐらを捕まれ、弾き飛ばされる。
机のカドで頭を打ち、目が回る。
その時、
「ちょっとアンタら、恥ずかしくないの?!」
颯爽と現れたのは朝原由美だった。
生徒会室のドアは勢いよく開け放たれ、夕日が後ろから射し込んだ姿は後光がさしているようだったのを今でも覚えている。
…
…
「ほんとあの時は容赦なかったよな」
「だってムカついとったんじゃもん」
照れたように由美はオレンジ色のカクテルに口をつける。
市内の中心部にある居酒屋。とと屋大勝。
大漁旗がたなびく、新鮮な魚介がウリの店だ。
俺は生ビール、由美はビールや焼酎、日本酒は苦手らしく甘いカクテルをちびちびと飲んでいる。
あの時、由美と一緒に来ていたのは生徒会担当の野球部顧問ではなく、自分の担任でもあり生徒指導担当の教諭だった。
野球部だけ優遇し、文化部には予算配分を厳しく削っていた執行部に、園芸部だった由美も怒っていたらしい。
「でさ、もうちょい俺の活躍もあってもよかったんじゃね?」
「あれ?山科くん腰抜かしてなかった?」
「もう忘れたわい!」
喫煙と後輩(俺)への暴行が発覚した生徒会執行部は、会長以下、あ、という間に辞任+停学謹慎。野球部は一時休部に追い込まれた
「顧問だけ逃がしたよね」
「あいつ、自分だけ逃げたんよな!」
生徒会担当で野球部顧問だった鹿島は「知らなかった」「わからなかった」で逃げ切り、今は勝瑞高校で校長をしているらしい。
今日も高松はその校長に急な残業を命令され、21時になろうとする今もまだ現れない。
高松が残業続きの日々なのは、あの男が原因でもあるようだ。
これ以後、3年の卒業まで生徒会で由美と俺は一緒に活動することになった。そのきっかけとなる出来事だった。