うきうき非世界転生ディストピア
「マーシャ様。ゴミ掃除が終わりました」
「ご苦労メイド一号くん! やっぱり君は優秀だなぁー作ってよかった!」
「近寄らないでくださいマーシャ様。変態が感染ったら困ります」
積み上げられたスクラップの山の間を堂々と歩く、いかにも科学者然とした女性。というか私だ。かっこよかろう。黒幕っぽかろう。
「マーシャ様。アホなことを考えているお暇がお有りなら早々に目的のブツをお探しください」
「一号くんつめたーい。ねー二号くーん」
「ご主人様……かつて特等市民であった開拓民の肉体がご入り用だったのですよね?」
「二号くんまで……」
お手製メイドの二人にせっつかれて、廃棄されている開拓民の死体を漁る。生きていれば重畳、死んでても見つかれば御の字、だ。
「お、こいつかな? 一号、検索」
「……一致しました。下等市民殺害犯、ルイ・リーンゲルトに相違ございません」
「ジャンボ!」
「ジャストです」
「ちぇすと!」
「ジャストです」
まだ、かすかに息があり、心臓もなんとか動いているようだ。素晴らしい。本当に今日はいい日だ。
「最後のパーツが揃いましたね」
「おめでとうございます、マーシャ様。この後は何をなさいますか? 市民虐殺? 地球侵略? 国の建国?」
「ンフフ……まずはね――」
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――長い夢を見ていた。
生まれたばかりの自分は、何もわからず、ただ水の中をもがき泳いでいたような……いや、巣の中で騒がしく鳴く兄弟らとともに母の帰りを待ち望んでいたような……いや、路地裏で鳴き叫び、いたずらに若者の気などひいたりしていただろうか。最早どれが本当の自身の記憶かもわからない。
「二度目の誕生、おめでとうルイくん! 今日は新しい君デビュー祭りと称してご馳走を頼んであるからね。間違いなく胃には合うものを用意したんだけど、舌にも合うと嬉しいね!」
枕元にいたのは丸眼鏡の女性だった。アッシュグレーの量の多い髪は左右二本の三つ編みにまとめられている。――見知らぬ女性だ。
「ルイ、とは、私の名前か」
「そうだよー、忘れちゃったかな? あ、よかったら君自身のことは俺って言うことにしよう! その方がカッコイイからね。まあ開拓地じゃそっちの方が多かったろうから、そんなに難しくはないと思うよ」
「はあ」
人間が執刀していた頃の手術室。口にかけられた謎の送気マスクからは、特に何かの気体が出てきているわけではなさそうだ。手足も謎の粘液に濡れているが、別段異常は――
――全裸だ。
この女性、全裸の自分に揚々と話しかけていたのだろうか。恥などはなかったのだろうか。
「あの」
「はいよお」
「服をもらえないか」
「……アッ」
ゴメンネ、と小さく言うと、ぱち、とウインクをし、何か裾のボロボロになったマントを投げ渡された。何故ウインク。いやそれより、全裸にマントはなんだか気恥ずかしいんだが。
「マスクとかいろいろは取っ払っちゃっていいから」
「ああ……」
気になるのはそこじゃないんだが。
「お食事の用意が整いました」
「はーい! あ、ルイくん、この子は一号くんだよ」
「お初にお目にかかります」
一号くんと呼ばれた女性はそっと頭を下げた。
「一号と呼ばれてはおりますが、個体名はアニスと申します。自分のつけた名前で呼ばない阿呆の主人ではございますが、どうぞ共に励ましあってやって行きましょう」
「ナチュラルにアホ呼ばわりしたな! ルイくんを混種として完成させたのは私なのに!」
「マーシャ様は医学、生物学、化学などの科学のみならずカバラ、ウィッカ、錬金術などの一部の魔術にすら精通しておられますが、そのほかの全てがご覧の通りのアホでございますので」
「ひどい!」
魔術。知らない単語だ。
アニスと名乗った黒髪ショートカットに金眼の美人メイドが自分たちを先導して歩く。
「ここは……?」
「私の研究所さ! といってもその辺のボロ屋を改装して作ったんだけどネ」
「ここは開拓の進んでいない街ですので、旧市街地の様子が窓からご覧いただけますよ。まあ、先の戦争で街自体は滅んでおりますが」
アニスに促されて窓の外を見た。瓦礫がずいぶんと多く転がっている。初めて見た光景だった。
「戦争があったのか……」
「あれ? 学校で習わなかった?」
「……俺の記憶は、先程、生まれたばかりのような気がしているところだ」
記憶を遡っても、水流でもがいていたことや、木の上で親の帰りを待っていたことなどぐらいしか思い出せない。
会話はできるし、裸は恥ずかしいということはわかるが、今まで生きてきた記憶……自分が何者であったか、これまで何を学びどう生きてきたか、というのは全部すっぽり抜け落ちているようだった。
「エピソード記憶が保たれていないようですね」
「あちゃあ……ま、いっか! しょうがないしょうがない。新しい人生を共に生きようじゃないか!」
「ご主人様、それじゃあプロポーズですよ……」
にこ、と笑って銀髪ウェーブボブに赤眼の小柄な美少女メイドがドアから顔を出した。
「やや! 二号くんったら覗き見?」
「そんなことありませんよ? でも、冷めてしまう前に、お食事を召し上がっていただきながらお話しするほうが、素敵だと思います」
「そうだった! ごちそう!」
「マテリアル機の修理をしてくださったおかげで、本日は朝食としてフル・ブレックファストをご用意できました」
「最高!」
コーヒー、ポリッジ、フルーツコンポート、ベイクドビーンズにソーセージ、ブラックプディング……知識としては知っているが食べた記憶のないものが並んでいる。
「いただきまーす」
「……イタダキマス?」
「ご飯の挨拶……は特等市民は使ってなかった? あ、忘れた系?」
「記憶にはない」
「そっかー。あ、カンパイする? わっしょいおめでとう祭り的な感じで」
「マーシャ様の発言は全てを正面から受けると疲れますよ」
「こうやって斜めの角度ではじくんですよ!」
「はじけないから」
メイドに挟まれ、わいわいと食事する。
いつぶりだろうか、と、振り返ろうとしても、そこには親鳥の姿を待っていた記憶しかなかった。
ご馳走、と呼ばれた豪勢な朝食を食べ終え、ふうと一息つく。マーシャと呼ばれた女は口元を紙で拭いながら満足そうに笑っている。
「明日は白米と味噌汁とたまごやきがいいー」
「畏まりました」
「了解しました」
ぺこり、と丁寧にメイドの二人が頭を下げた。このいったい何者なのだろうか。
「ところでルイさんはいつまで全裸マントなんですか?」
「ごめんすっかり忘れてた! 一号くんなんかない?」
「彼の能力を鑑みるに、全裸マント以上に良いお召し物を用意するのはなかなか困難です。マテリアルを用意していただければ多少は裁縫いたします」
アニスが食器を下げながらそう言った。
「俺の……能力?」
「お! そうだそうだ。ちゃんと教えてあげなきゃな」
そう言ってマーシャは――俺をぶん殴った。
「いってええええ! やった! ちゃんと起きてるときにも機能したよ!」
「おめでとうございます、ご主人様!」
かなり全力で殴ったかのようなフォームだったが、何一つ痛くない。腹に鉄板が仕込まれているかのようだ。
「クロカタゾウムシはナルドネラという菌と共に暮らします。ご存知ですか?」
「初めて聞いた」
「そうでしたか。今あなたの腹部に展開された装甲はそのクロカタゾウムシの外骨格……それも最も硬くなるよう成分を調整したものです」
にこ、と笑ってアニスはそう述べた。
「つまり腹の表面だけ虫になったんだよ。今、殴られる瞬間。装甲だけは敵対的接触にオートで反応して変形するようになってる。打撃対策にはゾウムシの装甲を入れたけど、そのうちもっとイイものが見つかればそれにしよう」
なんだって?
「あっこれもしかして今が言うべきタイミング? ねえねえ今かな? やっぱり今だよね?」
「わかりかねます」
「そうか! 任せな! フーハハハ! ルイくん! 君は悪ぅい非市民研究者の手によって、混種の究極たる改造人間になったのだ!」
高笑いと共にマーシャが腕を振り上げながら叫ぶ。
「は?」
……混種? 改造人間?
「君は我々悪ぅい非市民研究者及びメイド一号アニスちゃん、メイド二号コロハちゃんその他愉快な仲間たちと共に、この混種の究極たる力を使って、非市民達や苦しみながら脱出できない下級市民のための『市民じゃない奴のための町』を作るのだぁ!!」
「地球侵略ではなかったのですか?」
「いやぁ未開拓の土地余ってんじゃん、もったいない! 無駄な血は流さなくても良いのだよ、フハハ」
マーシャはそう高らかに宣言した。
全く意味がわからないが、これだけは言える。――変なやつに拾われたな、と。
「わくわく悪役令嬢ディストピア」のその後のお話です。
長編の第一話にしようと思ったのですがボツの気配が濃厚なのでとりあえず一話だけ投稿してみました。
インスピレーションが湧いてきたら続きを書くかもしれません。




