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転生前の

転生前の面談、その後

作者: ようつう

前作「転生前の面談(https://ncode.syosetu.com/n9823fz/)」の続きです。

よろしくお願いします。


「おい、嘘だろ?」




今朝のテレビの占いの射手座は確か……



「8位でしたよ」




まだ始業前、しかもここは職場の入口にある掲示板。自分の部下は何時に来ていたのだろうか。わざわざ、ここを通ったと言うことは、今日は何かあったっけか?いや、何もないはず。でも目の前のこれ、何なの?


「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

「射手座は8位でしたよ、別のチャンネルですと最下位でしたよ」

「俺が見たのは最下位のほうだ」

「そうだと思いました」

「……お前、何時に家出てるの?」

「今日はたまたま早く目が覚めたので、早めに出勤しただけですよ。昨日別部署から回されていた書類をお届けしに向かっていたところです」

「……ブラックじゃねぇんだし、今だって始業30分前だろ。あんま早過ぎても守衛のおっちゃんが困るだろうに」

「今日はゲイルですよ」

「え?」

「つまり、私と一緒に出勤です」

「……待て!朝から惚気はしんどい!」

「ははは。では、書類をお届けして戻ります。コーヒーでよろしいですか?」

「え、あ、うん」



部下が笑ったかと思えば、全然。無表情ではははとか言うなよ。しかも朝から惚気。ゲイルとは守衛のおっちゃん……ではなく、守衛の若い兄ちゃん。部下とそういう仲だと知ったのも偶然だったが……いや、それよりもこのお達しだ。



「おはよう」



また後ろから声を掛けられた。



「おはようございます、課長」

「どうした?そんなどんよりして?」



俺が掲示板のお達しに指を指した。



「アレですよ。どういうことですか?」

「ん?あぁ、あれか。お前、知らなかったの?」

「いや、俺だって知りませんよ。知ってるはずないじゃないですか。おかしくないですか?」

「おかしくないだろ。優秀な人材に正当な評価をしただけだろ。手離すには惜しいしな」

「そんなぁ……」

「長く置いておくには理由も必要だしな。お前も良い刺激になるんじゃないか?」

「刺激じゃないですよ激痛ですよ。まじかよ……」





自分の部屋に行き、コートを脱いで、席に着く。するとすぐ部屋のドアをノックする音が聞こえた。



「どうぞ」

「あ、おはようございます!さっき、先輩に会ってすぐに戻れないとのことで、コーヒーを受け取りましたわ。お渡しします」

「あ、あぁ」



今日一番会いたくない女、厳密に言えば元秘書現同僚、いや、それも、



「掲示板はもう見ましたよね?なんかアタクシに言うことございません?」

「ナンダロウネ?」

「ん?」

「昇進、おめでとうございます……」

「まあ!嬉しい!ありがとう!肩書きはご存知よね?」

「ハイ、主任担当官……」

「素晴らしい!良くできましたわ!」



ニコニコ微笑んでる目の前の女は昨日までは元秘書現同僚、今日からは元秘書元同僚現上司……嘘だろ。俺担当官になって長いんだけど!俺だって一応主任よ?階位で主任。でもコイツまさかの主任担当官。ちょっと違うのよ!担当官をまとめる人、俺より立場上。まさか元秘書が2年で異例の大出世!びっくり!目ん玉飛んでっちゃうよ!!



「なあ、どんな賄賂渡したんだ?それとも変な接待とかしたのか?」

「そんなわけないじゃないですか!失礼な!まるで縁側でのほほーんとお茶を飲むお爺さんのような過ごし方をする貴方と違って、ちゃーんと丁寧にお仕事させていただいてるだけでごさいますわ。うふふ。まさか、自分の元部下が上司になるなんて、って顔ですわね。その顔が見たかったの!うーん!最高!」

「ハイハイ、最高で結構。そのコーヒー置いてさっさと自室へ向かっていただけませんか、主任」

「主任!なんて良い響き!って上司にコーヒー届けさせないでほしいわ!」

「いや、そしたら何でお前、俺の部下からコーヒー預かってんの?」

「それはザックス様がアタクシの永遠の先輩だからですわ!」



部下は今頃、クシャミしてるんじゃねえの?



「ザックスのお遣いはいいけど、お前、今日辞令とかもらうんじゃねえの?さっさと行ったほうがいいんじゃね?」

「はっ!アタクシとしたことが!確かに!では、ご機嫌よう。あ、そうだわ!今夜アタクシの昇進のお祝いしてくださらない?」

「なんで俺が自分の元部下が上司になったのを祝わなきゃならないんだよ」

「いいじゃありませんか。いつものお店でいいですから!ね、待ってますわ!」

「……今日は会議あるだろ?定例の。それ終わってからだから遅くなるぞ?」

「大丈夫ですわ!アタクシ、明日お休みなので」

「俺は明日も仕事なんですけどぉー!」

「では、お待ちしておりますわね」



厄日か?






定例会議が終わって、外を出ると冷たい風が吹いていた。寒い。コートないと無理。早く行こう。行きつけのお店は徒歩で行けるが本格的な冬が近いせいか、店に行くより帰宅したい気持ちが出てきた。いや、でも今日は昇進祝いか。あ、手ぶらじゃね?まぁ、いいだろ。いつもの店で飯を奢れば。あ、この前行った時に次来たら良い酒仕入れとくっておかみさんが言ってたな。

良い酒か、悪くねぇな。ポケットに手を入れて足早に店に向かった。



「いらっしゃーい!あ、遅かったね!奥の席にいるよ!どうぞ!」

「ありがとう」

「外寒くなってきたもんね。今飲み物持ってくよ!」



おかみさんがキッチンへ向かう。

ここは昼間は定食屋、夜は居酒屋のような店だ。リーズナブルで今の部署に配属されてからは顔馴染みになるぐらいは通っている。



「お疲れ」

「あ、お疲れ様!定例会議の後も長かったの?」

「あれから30分打ち合わせ。お前は?会議終わってすぐ上がったのか?」

「うん、まあね。今日は色々あったし、みんな早く上がってもらったわ」

「俺も早く上がりたかったな」

「いいじゃない!昇進したのですし、付き合って頂戴」

「ハイハイ、主任担当官様のご命令とあらば」

「うふふ。そうこなくっちゃ」



メニューを見る。いつもと同じ、ん?日替わりのこれいいな。どうすっかな。



「あ、先に頼んでしまいましたわ」

「えー!?嘘だろ。俺これ頼もうかと思ってたのに……」

「それ?好きそうだったから頼んでおいたわよ?」

「さすが、主任担当官!」

「そこ煽てるところかしら?」




「それでは、アタクシの昇進を祝って」

「そこ自分で言う?」

「カンパーイ!」

「……乾杯」


こいつ、俺んとこ配属された時は酒一滴も飲めませんって言ってたのに、いつの間にかジョッキで飲んでるんだけど?本当に令嬢だったの?

しばらく食事を楽しむ。何年かの付き合いだけど、最近はコイツと飯行くのが多いな。





「そう言えばなんだけど」



唐突に真面目な顔になった。どうした?



「アタクシ、主任担当官になったことで転生が延期になったのですわ」

「あぁ、そう言えばそうか。あれ?でも転生延期って何年だっけ?」

「えぇ、主任になったケースがないから決まっていないみたいなのよ。どうするかは上の判断だって」

「へぇー。んじゃ、何年か勤めたら転生ってことか?主任になったんだし、免除になるかと思ったけどな」

「私もそう思ってましたわ。でも独り身ですし、いつまでもここに居続けられるというわけではないみたいな。あくまで転生者ですしね」

「ふーん」


そういうもんなのか。例外はなく、ってやつか?上のやることもよく分からんが、せっかく主任担当官になったんだ。今更転生させるのも勿体ない気がする……って俺は思ってないよ!コイツ転生したら主任担当官の席空くんでしょ?俺だって出世願望あるよ!ゴメン、やっぱ嘘、ないわ。上に上がっても大変そうだしな。

あれ?今も末端だけど大変じゃね?





「それでね、結婚しようかと思ってるの」





……危ねえ。美味いお肉が口から飛び出すかと思った。え?誰と結婚するの?



「お前、婚約してたっけ?」

「いいえ、今はしていないわ。ただ、主任になったし、結婚したら一生ここにいられるかも、って話があったの」

「なるほどね」

「それで、今回お願いがあるのよ」

「嫌だぞ?」

「何がよ」

「誰か紹介しろって話だろ?生憎俺は友人がほぼいない。無理だぜ。同僚でも独身あんまりいねえし、職場恋愛はちょっと気になるだろ?あ、ザックスはダメだぞ、アイツ今ゲイルと付き合ってるから」

「ザックス先輩に恋人!?ゲイルってあの若い守衛の……?」

「そうそう。今朝も同伴出勤」

「……なんで」

「へ?今なんて?」

「最高じゃないですか……!なんでもっと早く言ってくださらなかったの!」

「えぇ……そこ……?」

「見目麗しい若い2人の男が同じ部屋から出勤……はぁ、冒頭だけで最高。考えたらもっと最高。お酒進むわ。ザックス先輩は線が細いし、少し儚く見えるし、ゲイル様は細マッチョ……最高か!」

「お嬢サマ、お言葉がお乱れですよ?」

「だまらっしゃい!!」



少し放っておこう。アレだわ、妄想の海にいる。



「はぁ……ご飯3杯はいけますわ……何で前の世界にはなかったのかしら……」

「いや、多分あったと思うぞ。見つからないようにしてただけで」

「そうですわよね、きっとあの時代にも同志がいたはず……!」

「まだかかるかー?おかみさーん!お酒おかわりー!」

「今行くよー!!」




「あれ、この子どうしたんだい?何ブツブツ言ってんの?」

「ほっといていいよ。それよりコレも追加でお願い」

「はいはい。そういえば、この子出世したんだって?すごいわね!初めてここに来た時なんてお箸すら知らなかったのに、今じゃすごい馴染んでて笑えるわね」

「そうだよな。箱入りお嬢サマだったもんな」


確かにそうだ。

ここに転生で来た時は何も知らなかったのに、2年足らずでまさかな……あれ?そう考えると俺って……やっぱ今日は考えるの放棄だな。


「おい、結婚の件はどうなったんだ?」

「え、は、あれ?あ!そうでしたわ!そう、その話!」

「誰か結婚する相手いるのか?婚約するのか?」

「婚約はしないわ。もう破棄されたくないし。前世のトラウマが蘇るわ」

「3度だっけか?」

「ええ、苦い思い出だわ。その後死刑ってのも今考えても恐ろしいし、嫌よ」

「そうだよな」


生憎俺は死んだことはない。でも向かいに座るコイツは記憶のある限り、3度殺されているわけだ。そりゃ、嫌だろうに。あれ?これ、俺のせいじゃないよね?


「ねえ?」

「なんだ?」

「アタクシ、今日から貴方の上司なの。昇進祝いが欲しいわ」

「安月給の俺に用意出来るものならな」

「結婚して」

「ん?」

「結婚」

「誰が?」

「貴方が。アタクシと結婚して頂戴」

「何故?」

「覚えてる?アタクシが3度目に断罪されて戻ってきた時、責任とってほしいと思っていたの。だって、さすがに3度目の断罪を回避すること、貴方には可能だったはず」



言われてみればそうだ。回避することは可能だった。

転生するにあたり、俺たち担当官は転生者に3つのことを付与出来る権限を持っている。決裁を押すのは上の役目だが、付与の内容は俺たち担当官が考えている。3つの付与は何でもいい。例えば、【料理上手】と付与すれば料理が上手くなる。【身長が180cm越え】や【音痴】など何でもいい。何なら【耳垢がウエット】【巻き爪】という細かなことも付与出来る。あんまやらんが。

つまり、俺はコイツが3度目の転生の時に【婚約破棄回避】や【断罪回避】、何なら【幸せになる】という漠然とした付与も出来たはずだった。



「でも貴方はそれをしなかった。アタクシが3度目の転生前に面談した際、2度も断罪されたと抗議したのにも関わらず。出来たはずよね?しかも、次は幸せになりたいって言ったわ!」

「……そうだったっけか」

「そうよ、だからアタクシ、今回は幸せになりたいの。責任とってくださらない?」

「俺で幸せに出来るのか?」

「やるのよ」

「他力本願かよ!」

「いいじゃない。婚約はしない。結婚だけ。アタクシは婚約破棄せずに結婚式がしたい。転生も回避したい。貴方は結婚してアタクシを幸せにして、それで責任とってよ」

「めちゃくちゃだな。待て。どうして俺なんだ?」

「だって他にいないじゃない。転生者というアタクシに優しくしてくれたのって……それに単純に貴方はアタクシに貸しがあるでしょ」

「貸しって言ったって、あれだろ?付与だろ?仕方ないだろ、俺たちは付与が出来ても、それだけだ。進むべき道は転生者が決める」

「でもアタクシは最も望んでいた婚約破棄を回避できず、断罪されたのよ」

「そうだな」

「ねえ、ルール違反なのは分かるけど、3度目の時、アタクシに何を付与したの?」

「んなこと今更聞いてどうするんだよ?」

「知りたいだけですわ」

「んなもん秘密に決まっているだろ」



チビチビとグラスに残っている酒を飲む。なんだろうな、今日は考えがまとまらねえ。あれだ、射手座が8位だったから……いや、確か最下位だったような……もういいか。こういう時はそうだな。俺は顔を上げた。すると、コイツと目が合った。お?この目はマジなやつだな。




「いいぞ」




え、とコイツがキョトンとした目をした。



「責任とってやる。結婚するぞ」

「え?」

「なんだよ、言い出したのはお前なのになんだその反応は?」

「いや、だって、え?本当に?」

「どっちだよ、するのかしないのか」

「するわ……ええ!結婚するわ!」



言い出したくせに顔真っ赤になってる、なんて言ったら多分顔面にパンチ飛んできそうだな。



「どうして?」

「どうしても何も俺に責任とれって言うし、それしかないならそうするだろうが」

「……職場恋愛はしないんじゃないの?」

「結婚だろ?恋愛は通り越すんだろ?職場でチュッチュしたりしないし。問題ないだろ?」

「職場でそんなこと出来るわけないでしょうが!って、何その理論」

「それにお前は上司なんだ。何か言われることもないだろ?言われるなら大抵俺。でも俺職場で空気みたいなもんだから周りから何も言われないだろ。問題ないな」

「前々から思っていたの、アタクシのこと、どう思っているの?愛がなくても結婚するの?」

「何とも思ってない奴と飯食いに行くか?」

「そう……かしら?」

「結婚するんだろ?」

「ええ、でも本当にいいの?」

「いいから、責任とるんだろ?」





ドアを開けて外に出る。やっぱり寒い。

これで明日仕事なければ最高なのに。



「うぅ、外は寒いわね」

「そうだな」

「あの……アタクシ、明日休みじゃない?だから仕事終わった後、また食事はどうかしら?」

「あー、そうだな。いいぞ。終わったら連絡する」

「うん、待ってますわ」

「送っていかなくていいのか?」

「平気よ、すぐですし」

「んじゃ、またな」

「ええ、また」


お互い手を挙げて別れる。なんだろうな。今日一日で色々あったな……。



「ねえ!やっぱり転生前の付与教えてくれない!?」



振り返ると離れた所にいるアイツが大声で聞いてきた。



「そのうちな!」

「……絶対よ!約束!」





でも教えられるわけがない。

3度目の転生前のアイツに与えた付与は【やりたいことを仕事にする】【見極める力】【ハッピーエンド】だ。

つまりこれって、転生後に今現在を含めると……



「今も適用してるってことか?」



プレッシャーだわこれ。努力するか。

つい笑みが溢れた。




今日の射手座は本当は運が良いかもしれない。



お読みいただき、ありがとうございました。



▼語り部兼主人公

この後、結婚して職場でめちゃくちゃいじられるようになるし、たまに奥さんの部屋でチュッチュしたりする。やっぱりか。


▼イリス

無事に昇進し、念願の結婚もして、子供が出来ても働きながら子育てする逞しい奥様になる。もちろんどんどん昇進する。


▼ザックス

めちゃくちゃ優秀なのに昇進する気がないので主人公の補佐を続ける。時々イリスに「お宅の御主人、仕事サボってますよ」と告げ口してイリスが主人公をめちゃくちゃ怒る。それで主人公が仕事を一生懸命やるようになるので仕事が捗る、余裕が出来て、恋人との時間を楽しむ。


▼課長

優秀な部下が転生せずに仕事に専念できるように裏で手を回す。結婚しちゃえば?とイリスに言ったのもこの人。

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