見てね
中学の頃、放送部だったんだよね。だって運動嫌いだし、楽そうなのって放送部くらいしかなかったの!
それでその放送部で何をしてたかっていうと、発声練習とかコンクールに出すビデオ制作とか、校内放送の準備とか、結構仕事があったのね。楽ちんかなーって思って入ったから最初はすっごいめんどくさかったんだけど、やってみたらかなり楽しくって、先輩たちもいい人ばっかりだったし、とにかくいい部活だったんだよー。
毎日放課後になると放送室に集まって、今日はバスケ部を撮らせてもらおうとか、次のコンクールの原稿はどうしようとか、わいわいみんなで話してると、あっという間に時間が過ぎちゃうんだよねー。
で、ある日の活動で、部室にあるビデオテープを整理しようってことになったの。そう!DVDじゃなくって、ハンディカム用の8mmテープ!手のひらサイズのやつ!古い学校だったし、公立の中学だったから、機材も古いのを使ってたんだよね。でも生産終了になっちゃうって聞いて、来年は新しいカメラを買おうってことになったんだけど、保存してるテープをデジタル化とか何にもしてないの。だいたい20年分くらいのテープが棚にずらーっと並んでて、さすがに整理しようか、って。あんまり古いのは捨てちゃって、最近のや大事そうなものはデジタル化して残しておこうって話になったの。
大変な作業だったよー。ラベルに昭和59年とか昭和61年とか書かれてる古いのは問答無用で捨てちゃうんだけど、数が多いし、ラベルが剥がれてるのや、貼ってないのもあったし!中身のわからないものは一回見てみようってことになって、別の箱に入れといたの。それもすっごく大変だったんだから!
だいたい仕分けたら、デジタル化する班とテープの内容確認班に分かれたんだけど。あたしは内容確認班だった。部室のパソコンも古くって動作が重いから、デジタル班はパソコン室を借りて作業をすることになった。あたしたちは放送室で専用のビデオデッキを使って作業をしてた。
テープの内容はだいたいが部員がふざけて撮った練習用の映像だったり、こっそりダビングした、当時流行していたドラマだったりした。まあそういうのは捨てる箱行きになるんだけど。冒頭5分くらい見て、次のテープ、また5分くらい見て、次のテープ、みたいな感じで、流れ作業で。
まあそれが何百本とあるわけなんだけど、1日10本くらい見て、全部見るまで何日もかかっちゃった。しかも古いテープほど劣化していて映像が乱れてたり、音が飛んでたりするから、5分以上見ないとわからないものもあった。
1週間くらいたったころかなー?ラベルに①ってだけ書いてあるテープを見つけたの。そのラベルだけ、赤マジックで書かれてて。きっとふざけて撮ったやつかな?って思って再生したの。でも違った。
椅子に座った女子生徒が写ってて、じーっとこっちを見てるの。カメラの方。撮影してる場所はよくわからなかった。うちの学校の制服で、髪は腰くらいまであって、無表情で、じーっとカメラを見てるの。睨んでる感じじゃなくて、ただ見てる感じ。音とかなんにも入ってないし、ぴくりとも動かない。まばたきもしないの。そんな映像が10分くらい続いて、途中でみんな気味悪くなってみるのをやめた。
その日は怖くなってそれ以上テープを見れなかった。
次の日、とりあえずあのテープは保留にしようってことになって、また違うテープを次々再生していったの。しばらくしたら、先輩がきゃって叫んで、どうしたんですかーって近づいたら、②って赤マジックで書かれたテープが見つかったの。
見つけた先輩は「絶対見たくない」って言ったんだけど、他の先輩が「きっとふざけて撮ったやつだって!見てみようよ」って言ったから、②のテープも再生したの。
おんなじなの。昨日見た女子生徒が、椅子に座って、じーっとこっちを見てるの。場所も昨日と同じところみたいだった。ただひとつ違ってたのが、その人、笑ってた。
口元だけにぃぃーって吊り上がってて、でも目は全然笑ってないの。ガラス玉みたいにただカメラの方を見てるの。それがまた10分くらい続いて、テープはまだ残ってたけど、みんなまた見るのをやめた。
テープを見つけた先輩は泣き出しちゃって、見ようって言った他の先輩も青い顔になって、その日もそれ以上テープを見れなかった。
それでまた次の日なんだけど、テープを見つけた先輩は休みだった。手伝いでデジタル班から他の先輩が来てくれて、作業を続けることになった。
そしたら今度は③のテープが見つかった。
昨日見ようって言った先輩も今日は見たくないって嫌がったし、あたしも見たくなかった。でもデジタル班の先輩はなんにも知らないから見てみようって言いだして。
結局再生することになった。
女子生徒は映ってなかった。椅子だけが映っていて、それだけの映像がずーっと続いてるの。その時はみんなほっとしたんだけど、5分くらいしたら突然女の人の笑い声みたいな、泣き声みたいな甲高くてざらざらした声が入ってきて、画面がガタガタ揺れだした。
みんな足がすくんで動けなくなって、30秒くらいしたら、カメラの視点が切り替わって、あの女子生徒の顔が画面いっぱいに映し出されて、声が途切れて、目が合って、それから、
「何で、見るの、やめちゃうの」
先輩がきゃーって叫んで、急いでテープを止めた。もうそれ以上見てられなかった。デッキから出して、①と②のテープと一緒にビニールテープでぐるぐる巻きにして、ごみ袋に投げ入れた。
耳に笑い声がこびりついてしばらく離れなかった。みんなその日も他のテープを再生できなかった。
そんなことがあったから、もう内容のわからないテープは全部捨てちゃおうってことになって、ごみ袋に全部入れたんだけど、昨日捨てたはずのテープ、棚の中に戻ってた。
うん、①から③まで、全部。見つけたのはあたしで、他の部員が気づく前だったから、またごみ袋に入れたんだけど。
次の日にはまた戻ってきてたんだよね。また棚の中にあったの。
私、どうしようどうしようってなっちゃって、じゃあもう隠しちゃえって。棚の後ろに隙間があったのね。そこに全部隠しちゃった。
毎日こっそり確認したよ。ちゃんとそこにあるかって。どこかに行ったら大変だもんね。
え?捨てたかったんじゃないかって?そんなわけないじゃん、大事なテープだよ?あとでみんなに内緒でちゃあんとデジタル化したよ。みんなに見せなくちゃいけないし、ちゃんと取っておかなくちゃ。うん、今も放送室にあると思う。
コピーもとってあるからさ、私と今度一緒に見ようよ、ね。途中で見るの、やめたらだめだよ。
最後まで、ぜぇぇんぶ、見てね。