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蒼空を翔る  作者: FM
3/3

第2話 霞ヶ原航空基地

お待たせしました第3話です!

創歴2648年4月1日。軍用の輸送トラックの荷台に押し込められてからかなりの時間が経った・・・と思う。時間を確認しようにも俺は腕時計を持ってないし、この狭く暑苦しい荷台に時計がある筈もない。


あの施設での新しい身体に慣れる為の訓練(リハビリ)も終わり、俺はこうして海軍航空隊の志願兵として第2のパイロット人生を歩もうとしていた。


郊外からも離れた所をトラックはひた走る。俺の乗るトラックには俺も含め18名の志願者が乗っている。ほぼ全員成人もしてなさそうな若者ばかりだ。


俺は途中からこのトラックに乗った訳だが、そこで問題発生。俺がトラックに乗り込むなり先に乗っていた男どもの視線が一気に俺に集まり「おい見ろ女だ!」とか「金髪の女なんて生で見るの初めてだ!」とか「しかも目の色が左右で違うぞ!すげぇ」などと言って大騒ぎ。乗る前からこうなることはある程度予想はしていたんだがまさかここまでの騒ぎになるなんて思っていなかった。まぁこうなるのも無理はないかもしれん。


我が国では男だけでは無く女でも軍役に従事できるようになっており、これは世界的に見ても珍しい。だがやはり軍隊=男と言うイメージが強く実際女性軍人の数はかなり少ない。我が軍の女性軍人の割合は2〜3割程だと言う話も昔何処かで聞いたことがある。トラックに乗っている男どもが騒ぐ気持ちも分かる。俺が席に座り、トラックが再び動き出してからしばらくは俺の方をチラチラと見たり、俺の方を指差しながら何やら隣の奴と話していたりしていたが、そのうち誰があの女に最初に話しかけるのかと言う話になっていた。俺が!いや俺が!いやいや俺が!と男どもはお互い譲ろうとせず睨み合い、言い合いが続いた。最終的に「うるさいぞ貴様ら!たかが女で騒ぐんじゃない!」とトラックの助手席に座っていた教官が怒鳴って終わった。それからは騒いでいた連中も大人しくなり、小声で喋るだけになった。


俺は荷台の乗り降り口がら見える景色をぼーっと眺めていたのだが、突然左側から声をかけられた。


「あ、え、え〜っと・・・グーテン ターク?」


声のした方を見ると今までずっと隣で俯いていた気弱そうな少年だった。何で少年が俺にゲルマ語で挨拶して来たのか分からなかったが、少ししてから気づいた。あぁそう言えば今の俺ゲルマ人女性っぽい見た目になってたんだった。


「あ〜大和語で大丈夫だよ」


「あ、大和語上手ですね」


やはり少年は俺をゲルマ人女性だと思っていたらしく俺が流暢に大和語を話したのを聞いて感心したようだ。


「おr・・私は生まれも育ちも大和だからね」


「えっ⁉︎」


少年はたいそう驚いたようだ。その話を聞いていた他の連中も同じ様に驚き、他の奴に俺のことを話している。


「母がゲルマ人でね。私は母親似だから大和人らしくない見た目なの」


「へぇ、そうなんですか」


と、ここまではあの坂本から受け取った書類に書かれてあったことを元に喋って来たが何か変な感じだ。まるで劇の役者をやってるみたいだな。俺の本当の母は大和人だし俺にはゲルマ人の血なんて一滴も入っていない。それに俺は父親似だった。何より女らしい喋り方をするのは大変だ。未だに一人称を俺と言いそうになる。


「その目は何が入れてたりしてるんですか?」


と、少年は俺の目を珍しそうにまじまじと見ていた。まぁそりやぁ気になるよな。オッドアイの人なんてそう居ないし。


「これは元からこの色」


「オッドアイの人なんて初めて見ましたよ」


「でしょうね」


少年と喋っていると俺の目の前に座っていたガタイの良い男が俺に近寄って来た。


「よぉ お姉ちゃん、今夜空いてるか?」


男の後ろにいる連中は俺と男を見てニヤニヤニタニタと笑っている。俺は目の前よ男を睨み付けたが男の方は全く気にしていない様子だ。


「・・・何ぜそんなことを聞く?」


「分かってねぇなぁ・・夜一緒に遊ばないかって言ってるんだよ」


と言いつつ男は俺に急接近し、手を俺の胸の方に伸ばして来た。俺は男に触られる前に右の拳で男の顎を殴った。男は少し後ろによろめき尻餅をついた。


「気安く触るんじゃねぇ変態クソ野郎が」


元男と言えど自分の胸に触られるのは良い気分はしない。


「このあマァ!」


「下がお留守だよ」


キレた男が立ち上がろうとした瞬間俺は男の股間を右足で思いっきり蹴り上げた。


「グぁっ⁉︎」


「ああぁぁああぁあッ!」っと股間を抑え悶絶する男。ザマァ見ろだ。事の成り行きを見ていた周りの連中は男が悶絶するのを見て「いきなり胸を触ろうとすっからだ」などと言ってゲラゲラと笑っていた。少年の方を見てみると俺と倒れた男を交互に見てとても驚いたような顔をしている。そして恐る恐ると言った感じで俺に話しかけて来た。


「お、お強いんですね」


「いや、アイツが弱かっただけだよ」


「そ、そうですかね?結構ガタイの良い人でしたけど・・・」


そうこうしていると上空から低馬力エンジン独特のエンジン音が聞こえて来た。音が近づいて来るに連れ訓練生時代の記憶が蘇って来た。俺の青春の音だ。他の連中も音に気づいたようで飛んで来る航空機を見ようと我先にと荷台の後部に集まる。俺ら荷台の1番後ろに座っていたので別に動かなくても外は見える。目だけを外の方に向けるとちょうど真上を機影が通り過ぎて行く所だった。橙色の複葉練習機・・・三五式中間練習機、通称「赤トンボ」。安定性・信頼性が非常に高くて扱い易く、同時に高等曲技飛行も可能なほどの操縦性を持ち合わせている傑作練習機だ。と言っても15年も前に正式採用された旧式機だが。1機が通り過ぎて行くとそれに続くように後から2機が飛んで来た。


「これから僕達もあれに乗ることになるんですね・・・」


隣の少年も男どもの間から覗き込むようにして彼方に飛んで行く赤トンボを見てそう言った。


「おい見ろ基地だ!基地に着いたぞ!」


その声を聞いて視線を空から地上に戻すと、確かにあった。基地だ。目的地である霞ヶ原航空基地に到着したようである。初めてこの基地に来たが、基地を見て俺は懐かしさを覚えた。18の時に俺は今のようにトラックで基地に連れてこられて、仲間と共に厳しい訓練を受けた。俺の青春時代の記憶は殆ど基地での訓練だな。色々と昔のことを思い出して思い出に浸っていたが、男どもの興奮した騒ぎ声が聞こえて来て現実に引き戻された。


「見ろよ強風だ!」


「え?強風だって?」


「マジかよ何処だ⁉︎」


「本当だ!強風だ!」


皆の視線の先、今丁度滑走路から離陸した機体が見え、重いエンジン音を響かせながら飛んで行く・・・俺の愛機だった強風だ。しかしよく見てみると複座になっているし車輪部分の主脚カバーが無くなっている。それに主翼から飛び出していた20ミリ機関砲の銃身も見えないから無くなっているのかもしれない。恐らくあれは強風の練習機型だ。とすると思ったより早く強風にまた乗れるかもしれないな。基地の周りに注目してみると所々に土嚢で周りを囲っている対空機銃や高射砲がある。我々志願者達を乗せたトラックは基地内に入りしばらく走ったのち止まった。基地の誘導員達がトラックから降りた志願者達を手際よく誘導して行く。俺も誘導員の指示に従い列に並ぶ。


「三列に並べ!グズグズするな早くしろッ!」


あぁこの怒声、この慌ただしさ、懐かしいな・・・。なんだか昔に戻ったみたいだ。さっき俺の胸を触ろうとして来た奴とそのお仲間達も誘導員に指示されるがまま列に並ぶ。班ごとに分けられる時に、あの変態野郎がこっちの班に居ないのを確認して少し安堵した。ああ言う奴は懲りずに何度でもやって来るからな。これからも用心しないとな。


「貴様らの班を担当する浅倉(あさくら)だ!

私は貴様らを1年と5ヶ月で雑魚から新米操縦士になるよう教育せねばならん!明日から月月火水木金金だ!良いなッ⁉︎」


「「はいッ!」」


ふむ・・・海軍さんはパイロットの数を増やすのに結構力入れてるみたいだな。俺の時は2〜3年程の時間をかけてパイロットを育成していたんだがこっちでは約1年か。帝国海軍はアーシア大戦での経験から少数精鋭主義から大量養成方式へと方針を変えていた。


「噂は本当なのかもな」


噂と言うのは近々仮想敵国である大国アイアデル連邦国と戦争すると言うものだ。最近帝国は新型空母を建造したり大量のパイロット育成を急がせたりと妙に海軍戦力の強化に力を入れている。まぁアーシア大戦の時にアイアデルは我ら帝国を強く非難していてアイアデルとの戦争は不回避と言われていたからな。ま、結構アーシア大戦はアイアデルが参戦する前に終わったが、帝国とアイアデルの・・・と言うか独裁主義と民主主義の対立は続きお互い銃口を向けた睨み合いが続いている。逆に今までアイアデルと戦争にならなかったのが奇跡だと言う人もいたな。何はともあれ、これからは訓練づくしだろう。頑張らなければな。




午前中全部を使って行われた筆記試験が終わり俺達は食堂で昼飯を食べていた。海軍なんで魚とかの海系の食べ物でも出てくるのかなと思ったがそんなことはなくカレーが今日の昼飯だった。聞く話によると海軍は毎週金曜日の昼飯はカレーらしい。ずっと船で生活していると曜日感覚が狂ってくるから狂わないように毎週金曜日はカレーになっているそうだ。味の方は悪くなく、と言うか結構美味しかった。昼飯を食い終わった後、志願者達には自由時間が与えられた。皆将来パイロットになれたらどうするかと言う未来予想を言い合い、笑い合っている。俺はと言うと話す相手も特におらず、周りの男どもから向けられる嫌らしい視線から逃げるように食堂からそそくさと退散し、1人外で飛行機を眺めていた。飛行場は今いる基地の隣にあり、憲兵とフェンスが今いる訓練基地と飛行場の間を隔てている。そのフェンスから駐機場で翼を休めている三五式中間練習機(赤トンボ)が見える。


空軍でも三五式陸上中間練習機と言う三五式中間練習機の陸上機型の物が使われており、俺もそれに乗った。初めて自分の手で飛ばした時の興奮と不安の入り混じったあの感じは今だに忘れない。


「乗りたい・・・」


戦闘機でなくても良い。あの練習機でも良いから自分の手で操縦し、大空を自由に飛び回りたい!と言う欲望を軍をやめて隠居生活していたら頃から抱いていたが、今のその欲望が更に強くなりつつある。


「僕達もあれに乗るんですよね・・楽しみですね!」


いつのまにか俺の隣にトラックで知り合ったあの少年が立っていた。確か名前は・・・三島湊(みしまみなと)だったかな。


「三島は何で海軍航空隊に志願したんだ?」


ひ弱そうなこの少年が何で海軍航空隊、と言うか軍隊と言う過酷な組織に入ったのか気になっていた。


「湊で良いですよエリカさん」


「じゃぁそっちもさん付けはしなくて良いよ」


「これは癖みたいなものなんで」


「何じゃそりゃ」


「まぁ気にしないでください」


湊はフェンスの向こう側にある赤トンボを見ながら話し始めた。


「僕はここに来たんでは無く、来させられたんです」


「と言うと?」


「僕は昔から喧嘩とかは弱くて、いつもガキ大将とかから泣かされてばかりでした。それに自分は余り外で遊ばず部屋に篭って本ばかり読んでいたのでよく父からもっとお前は体を動かさんか!って怒られてました。そして僕が18になって軍に入れるようになると父が軍に入って気合いを入れ直して来いって言って僕を強引に海軍航空隊に志願させたんです」


「なるほどねぇ」


俺の親父もそんな感じだったなぁ。大和男なら強くあれって、よく言ってた。まぁ今は女なんだけどな。えっと、大和女は清らかであれだっけ?俺には無理な注文だな。


「エリカさんは何でここに?」


「おr・・私は・・・戦闘機と空が好きだから。かな」


「へぇ〜戦闘機が好きなんですか!僕も好きですよ!昔よく本とかで軍用機関連のを読んでましたし!好きな機体とかあります?」


「そりゃ勿論」


「「強風」」


俺と湊が同時に言った。自分の意見と同じだったのが嬉しかったのか、湊は目を輝かせた。


「ですよね!強風ですよね!良いですよね〜強風。一度は乗ってみたいですよ」


「強風の練習機型がいたし、飛行学生になって飛行機に乗って訓練するようになったら強風にも乗れると思うから、それまで頑張ろう」


「ですね!一緒に一人前の操縦士になりましょうね!」


「あぁ。そうだな」


そう返事をして俺は180度方向転換し、志願者達が集められている食堂に向かう。あの空にまたもう一度戻れることを夢見ながら。

どうだったでしょうか?少しでも読んでくれた皆様が面白いと思ってくれたら幸いです。投稿速度 は遅いですが、これからもこの小説をよろしくお願いします!

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