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蒼空を翔る  作者: FM
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プロローグ

どうもこんにちは!初めまして!この小説を読みに来てくださりありがとうございます!下手な小説ですがよろしくお願いしますm(__)m

古くから数々の周辺国への侵略戦争によって勢力を高めて来た大和大帝国。今ではアーシア州最大の国家となっており、その軍事力は大国アイアデル連邦国とも張り合えると言われるほど。


帝国はアーシアの北側にある大ゲルマラン帝国と南西側にあるアベロン帝国で大帝国連合軍を結成した。アーシアを栄えある我ら帝国で統一する「帝国統一」を目標に掲げ、創暦2644年の大和大帝国によるタラーノル共和国侵攻を皮切りに大帝国連合軍は周辺国への侵攻を開始した。



子供の頃から自分は飛行機、特に戦闘機が大好きだった。家からそんなに離れていない所にある山に登ってそこから見える軍の飛行場から離着陸する飛行機達を見るのが子供の頃の日課だった。


飛行機雲を引きながら飛ぶキラキラと煌めく銀翼の羽はとても美しかった。


創暦2646年、デマール共和国東部シリス。

空戦、航空機同士が高速で飛び交う空の戦い。飛行機雲が複雑に絡み合い重なり、空に不思議な模様を作り出す。戦闘機から放たれる様々な色の曳光弾が飛び交う様はどこか幻想的だ。

しかしそんなことを当のパイロット達は気にしている暇は無い。


《田中後ろだ!敵機ッ!》


《クソッ⁉︎振り切れない!誰か助けてくれ‼︎》


「待ってろすぐ行く!」


首を左右に振り助けを求めた味方機を探すと右下の方にデマール軍の戦闘機「ジャガー」に追いかけ回されている強風を見つけた。強風の左翼からは燃料が漏れ出しており霧状になって後ろに流れている。燃料に引火してもおかしく無い状況だ。俺はスロットルレバーを倒し加速させながら右下に機体を向け味方機の方に向かう。


アイアデル連邦国が作り世界中に輸出された戦闘機ジャガーは技術力の低い国でも生産できるように設計された戦闘機で、戦闘機自体の性能はそこまで良く無いが 製造、整備のし易さや操縦のし易さではピカイチだ。デマール軍が使っているのは数ある派生型の1つでエンジンを強化し速度、上昇力、加速力などの性能を上げたものだ。旋回性能以外全てこちらが優っているが油断は禁物だ。


敵機との彼我の距離が縮まって行く。後数秒で射程距離に入る。その前に左右、後方、上の順で周囲を確認する。相手を攻撃する瞬間が1番隙のできる瞬間だと自分が前にいた部隊の先輩が言っていたのを一瞬思い出した。


周囲に敵機無し。これで安心して目の前の敵機に集中できる。もし敵機が後ろに来ても2番機(相棒)が助けに来てくれるので最悪の事にはならないだろう。照準器一杯に敵機の後ろ姿が映る。距離にして300メートルほど。


敵機は目の前の獲物に夢中な様で後ろから接近する自分には全く気づいていない。操縦桿の先端にある小さなボタンを右手親指で約1秒間押す。機首から12.7ミリ弾が、主翼内から20ミリ弾が毎分700発もの早さで撃ち出される。20ミリ弾の炸薬量はとても多く至近距離からそれを食らったジャガーは右翼と垂直尾翼が吹き飛びグルグルと錐揉み状態になって落ちて行く。あれでは遠心力で中のパイロットは動くことができ無いだろうから、脱失できずに墜落するだろう。


《ありがとよ戦友!帰ったら何から奢るぜ!》


「なら冷えたビールを頼む」


戦争の最前線で手に入り難い物の中に冷たい物がある。後方の方に下がれば冷えたビールや水などにありつけるが、最前線で冷えたものは中々手に入らない。


《了解した!》


「燃料は大丈夫か?」


今も左翼からは燃料が派手に漏れている。最悪途中で燃料切れになって何処か着陸できそうな平地に不時着する事になる。


《あぁ基地までは持ちそうだ》


助けた相手田中は機体を左右に振ってから離れて行った。


《新手の敵機!3機上から突っ込んでくる‼︎》


《全機散開!散開!》


首を右上に向けて上を確認するとジャガー戦闘機3機がこちらに目掛けて緩降下してきていた。向きからして俺狙いの様だ。


機体を降下させ速度を稼ぎつつ相手の動きを見る。1機がこちらに接近して来たのを確認すると左斜め上に急旋回し、敵の第一撃を回避する。そのまま機体をバレルロールさせてオーバーシュートした敵機に向けて照準、発砲。ただあちらは降下で速度を稼いでいたので直ぐに俺を追い越して行ったので射撃できるチャンスが短く有効打を与えることはできなかった。撃たれた1機は潤滑油だろうかエンジンら辺から黒い煙を出していた。すぐさま上を見る残りの2機は仲良く2機同時にこちらに向かって急降下して来ようとしている。


「援護頼む!」


《言われずとも!》


その降下しようとする2機の横から強風が機銃と機関砲を撃ちながら襲い掛かる。右側を飛んでいた敵機は右から接近してくる強風に気づいて急上昇し間一髪弾を避けたが左側を飛んでいた方は気付くのが遅れ被弾する。胴体に何発も弾を食らった敵機は黒煙を吹きながら降下して行く。上昇して回避した敵機は降下に転じ俺の2番機に襲いかかる。2番機は急旋回し攻撃を回避するが敵機は2番機の後ろにぴったりと付いて離れない。


2番機との高度差は約1000メートル。強風の上昇力を持ってすれば直ぐに行くことができる。一度距離をとってから機体を左に180度旋回させて機首を上に30度ほど上に上げて上昇。


《島田!そのまま直進しろ。俺が撃墜する!》


《お願いします!》


島田の乗る強風はこちらに向かって来ている。このまま行けば俺は島田機を追う敵機の機体下面に銃弾を食らわせることができる。島田機が俺の上を通過しその後を追う敵機が俺の上を通過しようとする。弾の弾道を考え敵機の前の方に照準を向けてトリガーを少しの間だけ引いた。


「何ッ!」


しかし弾は敵機に当たらなかった。こっちに向かって降下して来たからだ。今敵機と俺は正面を向き合っている。正面からの真っ向勝負、ヘッドオンだ。回避しようかとも思ったが既に敵との距離が近すぎる為受けて立つしか無い。歯を食いしばりながら引き金を引きつづける。ジャガーの武装は色々あるがデマール軍の使っているジャガーは機首に7.7ミリ2丁、主翼に12.7ミリ4丁を搭載している。一方俺の乗る強風は機首に12.7ミリ2丁、主翼に20ミリ2問。火力ではこちらが勝っている。


敵機から放たれた弾が胴体や主翼に当たったり掠めたりするがこちらも怯まず撃ち続ける。20ミリの集中砲火を受けたジャガーは右翼が捥がれ火達磨になった。


「よしッ!」


俺は撃つのをやめて敵機と衝突しないように機体を降下させて落ちていく敵機の下をくぐって行く。が、敵機と擦れ違う瞬間突然敵機が爆発!ジャガーの真下という至近距離にいた俺は爆発した時に飛散した機体の破片をモロに食らう。強風の上面にまるで散弾銃で撃たれたように大小無数の破片が当たり突き刺さる。風防にも破片が容赦無く降り注ぐ。風防の前は厚さ12.7ミリの防弾ガラスがあるのだが左右や上には無いので破片はガラスを貫通し、俺の体に何個か刺さった。


「グァっ!」


クソいてぇ!太ももとか腕とかに金属片が刺さってやがる。クソっ右目が見えないし、頭のてっぺんから血が流れて来た。不味いな。


自分の怪我に注意を向けていたせいで機体の方のことを忘れていた。上昇し続けた強風は失速し、降下を始めた。それに気づいた俺は痛む両手に鞭打って操縦桿を引いた。いつもより操縦桿が重く感じる。恐らく怪我のせいだろう。なかなか機体が上がってくれない。渾身の力を入れて操縦桿を引く。


「あッ・・・!ガッっれぇぇぇ‼︎」


俺の叫び声に答えてくれるかのように強風はゆっくりと機首を上げ機体を水平にすることができた。


《真和さん!大丈夫ですか⁉︎》


「すまん・・油断してた。・・・俺の機体は今どうなってる?」


《右翼付け根辺りから燃料が漏れて・・水平尾翼と主翼の動翼も破損してます》


燃料の残り残量もそうだが何より俺の体が持ちそうに無い。


「すまない。これ以上戦うのは無理そうだ。基地に帰投する」


《了解しました。私が誘導します》


「頼む」


俺の前に出てきた島田の乗る強風の行く方向に合わせて機体を右に傾け、ゆっくりと旋回させる。ここから基地までは直線距離で約200キロ。25分程で到着する。無事に基地まで帰れるだろうか?


さっさと戦域から離脱しようとしていると味方機から通信が来た。


《そっちに1機行ったぞ!逃げろ‼︎》


振り返ると先程逃した敵機がエンジン辺りから黒い煙を出しながらもこちらに急速接近していた。敵機の後ろには味方の強風が追いかけていたが距離的に考えて敵機が来る方が先だ。機体と体が万全ならバレルロールとかで敵機をオーバーシュートさせたり回避運動に入ったりするのだが今の俺には無理だ。


しかしだからと言って諦めて何もしないわけではない。こんな所でまだ死にたく無い。敵の有効射程。撃ってきた!俺は右のラダーペダルを踏み込み機体を右にスライドさせる。敵弾は左翼を掠めただけで致命傷にはならなかった。機体を降下させて操舵を稼ぎつつ逃げる。最高速度はこちらが上なんだ速度差で張り切ってやる!重い操縦桿を必死に動かして弾を躱しながら降下を続ける。地面が目の前に迫り操縦桿を引き機体を水平にする。地面スレスレを飛行しとけば敵機はこちらを狙い難くなる。敵機は降下で得た速度を生かして強風を追いかけるが、徐々に強風に置いて行かれる。なかなか弾が当たらないのに業を煮やしたのか、それとも離れていく敵機を見て焦ったのか。敵機は機銃をこれでもかと乱射してきた。


乱射してと言ってもちゃんと狙ってはいたようで、機体に何発も銃弾が当たる。今までの機体と比べると丈夫な方と言われた強風だが、流石に何発も撃たれては機体がもたない。


速度を上げる為回避運動をしていなかったのが仇となり、もろに敵の攻撃を受けた。ガン!ガッ!ガゴン‼︎と言う音が機内に鳴り響く。右翼の燃料タンクに被弾し右翼の付け根辺りから炎が上がる。


「っだッ⁉︎」


更に胴体に当たった弾丸が操縦席を貫通しの俺の背中に当たった。ガゴッ‼︎っという何かが外れ吹き飛ぶ音が聞こえた。機体が緩やかに降下を始める。操縦桿を引くが機体がいうことを聞いてくれない。低高度を飛行していたので地面はすぐそこ。機体の降下角度的に地面に突き刺さることはないだろうが胴体着陸にしては角度が深すぎる。俺は目をつぶって衝撃に備えた。次の瞬間、強風は地面に勢いよく衝突。凄まじい衝撃が俺を襲い、俺はどっかに思いっきり頭をぶつけ意識を失った。




これが俺がパイロットだった時の最後の時の記憶。俺が撃墜されてから半年後の47年にアーシア全土を巻き込んだアーシア大戦は我が帝国とその同盟国で結成した大帝国連合軍の勝利で幕を閉じた。


あの後意識を失っていた俺を仲間が救助してくれたそうで、そのおかげで一命を取り留めた。しかしあの戦闘で負った傷は想像以上に酷く、右目は失明し背中に当たった7.7ミリ弾は脊髄に当たりそのせいで俺の下半身はピクリとも動かなくなった。お陰様で俺は車椅子生活だ。こんな有様で空を飛べるわけもなく、除隊し傷痍軍人となった俺は実家に帰りそこで静かに隠居生活をしている。


帝国には傷痍軍人に対して手厚い保護制度があるので色々優遇されたりする。タバコ等の優先販売権や鉄道運賃免除、所得税減税、軍人恩給などだ。近所の人達は「まだ若いのに可哀想に」などと言って同情の目を向けたり「何か困ったことがあったらなんでも言ってね」と優しくしてくれたりした。


縁側で俺の太股に乗って寝ている猫の頭を撫でならがぼーっと空を眺めていると小型機が4機 編隊を組んで飛んで来た。あれは三五式中等練習機だ。俺が子供の頃によく見に行っていた空軍基地から飛んで来たのだろう。新米達が訓練飛行を行なっているようだ。まだ綺麗に編隊を組めてないし1番後ろを飛んでいる奴は前との距離が離れすぎている。


「ふっ・・昔を思い出すな」


俺も編隊苦手だったなぁ。何度教官に怒鳴られたことか。今となってはあの鬼教官の罵声も恋しく感じる。


「おーい!ひこーきのおにいちゃーん!」


俺が練習機を見て思い出に浸っていると元気な男の子の声が庭の奥にある塀の奥から聞こえて来た。田中さん家の勇太君だ。


「入っていーいー?」


「いいぞー」


勇太は塀をよじ登り塀のてっぺんからジャンプして庭に着地する。何で玄関からこいつは入って来ないのかねぇ。


「えぇ⁉︎勇太君!そこから入って大丈夫なの⁉︎」


ん?今日はお友達も一緒なのかな?知らない声が塀の奥から聞こえてくる。


「大丈夫!ほら早く 早く!」


勇太は塀をよじ登っててっぺんから外にいる人に手招きをする。


「ちょ、ちょっと待って!」


慣れない手つきで塀を登って来たのは勇太よりも身長が高い男の子。


「わわっ⁉︎」


その男の子は塀の上で体勢を崩し、庭の草むらに墜落。大丈夫か?頭は打って無さそうだが。


「大丈夫か?」


「は、はい!大丈夫です!」


男の子はすぐに立ち上がり気をつけの姿勢で俺に挨拶した。


「こんにちは!大橋小学校6年の中尾秀人です!」


大橋小学校と言うことは1年生の勇太と同じ学校に通ってる子か。


「成る程勇太君の友達か」


「はい!勇太君から貴方のことを聞きまして是非会って話をしてみたいと思いまして」


「そんな敬語なんで使わなくて良いよ」


「で、でも貴方は空軍のエースパイロットだと聞きました」


俺が堕として来た敵機の数は不確実なのを除いて32機。5機撃墜したらエース扱いになるので俺もエースの1人だ。しかし上には上がおり、50機や70機も撃墜しているのでなんだか俺の戦果が少なく感じてしまう。47年に戦争が終わり、世の中がちょっとばかし平和になると輝かしい戦果を残したエース達は讃え敬われ、テレビや映画に引っ張りだこだ。俺の方にも取材が来て、新聞に「翼を失った若き撃墜王」と言う見出しとともにデカデカと現役時代と現在の写真が貼られていた。だがテレビや映画には呼ばれなかったな。まぁ金や名誉などが欲しかった訳じゃないから別にそんな気にしてはいないが。


「元、エースパイロットだがな」


「元とか関係ないですよ!エースはエースです!」


秀人は目を輝かせながらそう言った。


「ねーねー!秀人くんにも空戦の話をしてあげてよ!」


「・・聞きたいか?」


俺はニヤリと笑って秀人の方を見た聞いた。秀人は更に目を輝かせて大きく頷いた。


「はい!」


「じゃあほら、ここに座れ。突っ立ったままじゃあキツイだろ」


縁側に秀人が座り秀人の上に勇太がちょこんと乗った。仲良いなこいつら。


「さて、何処から話そうか」


「初めて敵をやっつけた時の話とか聞いても良いですか?」


「いいぞ。じゃぁまず俺がどうして空軍に入ったかを教えてやる」


学校を卒業した自分は迷わず空軍に志願した。海軍航空隊でも良かったのだが自分が中学の頃、隣国のチュコアと戦争していた時に空軍の主力戦闘機「電光」が大活躍しているのをニュースで見て空軍パイロットになりたい!と思ったため空軍に志願した。空軍学校に入学した自分は猛勉強し、飛行訓練などの訓練も必死に頑張った。その甲斐あってか良い成績で空軍学校を卒業することができ、その後空軍の第220戦闘飛行隊に配属された。配属されてからは国境付近の哨戒飛行などを行うだけだったが約1年後の創暦2644年に我が大和大帝国が隣国のポラーノル共和国に宣戦布告し、戦争が起きた。


自分はポラーノル共和国の都市や工場などを爆撃する戦略爆撃機の護衛を務めた。 初の実戦はとても緊張して、まともに戦うことなんかできず先輩の後ろを付いて行くだけだった。初めて敵機を撃墜したのは宣戦布告から3週間後、その日は味方爆撃機の護衛ではなく敵の双発爆撃機の迎撃が任務だった。敵の爆撃機を探していると偶然下の雲の中を飛んでいる爆撃機を発見した。今まで銃弾1発でさえ敵機に当てることができていなかった自分は鈍重な爆撃機なら堕とせると思い仲間に報告すると同時に爆撃機に向かって急降下した。照準器に爆撃機が入った瞬間、距離なんて御構い無しに引き金を引き撃ちまくった。そのまま爆撃機とすれ違い振り返ると右翼から派手に炎を上げる爆撃機が見えた。それが初の戦果だった。


動きの鈍い爆撃機だったとは言え敵機を撃墜することができた自分は自信を持ち、それからは先輩達の助けを借りながら積極的に敵機を追いかけ回した。


「まぁ結局ポラノール戦で落とせたのは2機だけだったけどな」


「そんなに当たらないんですか?」


「弾か?あぁ上下左右色んな方向に逃げ回る飛行機に弾を当てるのは想像以上に難しい。それに前の敵ばかり気にしていたら自分が別の敵から狙われてましたーってこともよくある」


「へぇ〜」


秀人は分かってくれたようだが勇太はよく分からないと言いたそうな顔をしている。まぁ難しい話だったし仕方ないか。


「真和さんは強風をどう思います?」


「良い機体だと思うよ」


四〇式戦闘機強風。大和大帝国軍が世界に誇る最高の戦闘機。2640年に正式採用され44年のポラノール侵攻時も空軍の主力戦闘機として活躍。同世代の戦闘機を凌駕する性能を持ち、後から登場した新型機にも引けを取らない。艦上機型も作られ海軍の主力戦闘機にもなっている。一時期は強風は世界最強の戦闘機だと言われ我が帝国を象徴する物の1つになった。


しかし強風は活躍し過ぎた。軍上層部などは強風最強論が今も根強く残っており、そのせいで後継機の開発は遅れに遅れ48年の現在も強風が主力で使われ続けており、格段に性能の上がった敵の新型機に苦戦することが増えてきたと俺の知り合いの空軍パイロットが言っていた。


敵の性能が上がる度に改良を施して性能向上を図っていたが強風は正式採用されてから既に8年もの月日が経っており航空機の発達が急速に進む今の時代ではもう旧式機と言っても良いだろう。


「速いし、よく曲がるし、よく昇る。それに・・・」


「それに?」


俺は秀人に向かってニィと笑った。


「カッコいい」



それから1時間後、勇太の母が迎えに来た。勇太がまた塀から侵入したことを知った勇太の母はもう塀から入らないように注意したがあの様子だともうしばらくは玄関から入って来ることは無いな。秀人も勇太と一緒に帰るようで「失礼しました」と礼儀正しくお辞儀をしてから俺の家を後にした。


今の時間両親はまだ仕事に行っているためもうしばらく俺は家で1人ぼっちだ。ラジオを聞きながら新聞を読んで暇を潰していると引き戸を叩く音が聞こえてきた。「はーい」と言いつつ新聞を折り畳み机の上に置き玄関に向かう。父が車椅子の俺の為にと木の板でできた傾斜路を玄関に作ってくれた。お陰で俺は楽に土間に降りることが出来る。引き戸を開けるとそこには

黒のスーツを着た女性1人と男性が2人。明らかに普通ではない来客に俺は顔を険しくした。

・・何者だこいつら?

先頭に立っていた長髪の女性が俺の目を見て話しかけて来た。


「どうも初めまして。八咫烏研究所の坂本飛鳥です。・・本田真和さんですね?」


車椅子の俺は彼女から見下ろされる形で見られている訳で、タダならぬ雰囲気も相まって嫌な気分だ。


「あぁそうだ」


「貴方に御用があって来ました」


俺は頭を掻きながら言った。


「俺に?」


「はい」


右側に立っていた男が彼女の話に付け足す。


「我々はとある研究をしておりまして、その研究の手伝いを貴方にしてもらいたいのです」


一気に怪しい話になって来た。適当にあしらって皆さんにはお帰りになって貰おう。


「悪いが見ての通り俺は傷痍軍人なんでな。あんたらの足を引っ張るだけで役には立てないよ」


と言って引き戸を閉めようとしたが坂本の言葉を聞いて俺の動きは止まった。


「また空を飛べる様になれるかもされませんよ?」


2年前に撃墜されてから今まで、俺は何度も何度もまたあの空に戻りたいと思っていた。別に俺は戦闘狂って訳ではないが・・どうしても俺はあの空に未練を断ち切れずにいた。俺の中ではまだ俺は落とされていない。まだ飛んでいる。


「・・・どういうことだ?」


「取り敢えず、中でお話ししませんか?」


「・・・そうだな」



居間に案内しお茶を人数分用意して机の上に置き、自分も椅子に座る。気になることが色々あったので早速俺の目の前に座っている坂本と名乗った女性に尋ねる。


「俺がまた飛べる様になれるって言ったな。それはどういうことだ?それに八咫烏研究所なんて所は聞いたことがない。あんたらは一体何者だ?」


「それも含めて、今から説明します。・・・ゲルマラントと大和では10年程前からとある研究を行っていました」


大和大帝国の友好国であり、大帝国連合軍の一員である大ゲルマラント帝国。国土の大きさで言えば大帝国連合軍の中で1番小さいが、極めて高い技術力を持っている。


アーシア大戦が始まる前、ゲルマラントは隣国エラール王国への侵攻作戦を考えていた。そこで問題になったのが物量差。陸・空軍共に兵器や兵士の数で負ける可能性があり、最悪侵攻作戦は成功せずに逆にこちらが侵攻、占領される恐れがあった。この物量差を埋める為に様々な案が出され、その中の1つに人間強化案と言うのがあった。


後にフランケンシュタイン計画と呼ばれる様になるこの案は医療技術の高いゲルマラントだからこそ思いついたものだった。これは特殊な薬で人間の身体能力を強化して兵士1人1人を一騎当千の強者にしてしまえば物量差を埋められるのではないかと言う考えのもと計画されたもので、軍上層部はこの計画に大いに注目した。大和の方でもこれは注目され、共同で新薬の制作をすることになった。八咫烏研究所がその新薬の研究・開発を行なっている研究所の1つである。


しかしこの新薬開発は難航し、結局アーシア大戦が終わっても完成しなかった。たが新薬の研究開発は続けられ47年に遂にその新薬が完成した。


「動物などを使った実験では身体能力向上などを確認しており、概ね成功しているのですが人間を使った実験はまだ行なっていません。そこで貴方にその新薬の被験者になって欲しいんです」


「その薬を使えば身体能力が向上するってのは何となくわかったが、俺は下半身が動かないんだが?」


「動物を使った実験で分かったのですがこの新薬は身体能力の向上させる以外に怪我をあっという間に治癒させる力もあります。 つまり貴方の下半身が動くようになるかもしれませんし、その失明した右目も見えるようになるかもしれません」


「ほ、本当か⁉︎」


俺は机に乗り出しそうな勢いで聞いた。この立てなくなってしまった俺がまた自分の両足で立てるようになれるのかと思うと嬉しいし、何よりまた空を飛ぶことができるようになるのがとても嬉しい。


「しかしこの実験が絶対に成功すると言う保証はありません。下半身や右目は治らないかもしれませんし、最悪貴方の体に薬が合わず拒絶反応が出て死んでしまう可能性だってあります。ただその分 貴方と貴方の両親には多額の報酬を出しますし、実験後の新しい体に慣れる為の介護や失敗した時の治療も充分に行います」


「・・・・分かった。その新薬の被験者に立候補しようじゃないか」


俺がそう言った瞬間坂本達は顔を一気に輝かせ、一斉に席を立ち頭を下げた。


「「ありがとうございます!」」



それから1週間後、俺は迎えの車に乗って八咫烏研究所に向った。坂本からの説明を聞いた両親はあまり良い顔をせず反対していたが俺が説得して渋々と言った様子で了承してくれた。車は俺が子供の頃によく見に来ていたあの空軍基地に入り、そこで輸送機に乗った。撃墜されて以来航空機には乗っていなかったので久しぶりに空に上がれて嬉しかった。1時間程で輸送機は基地に着陸し、そこからはまた車で移動。40分程走ってからやっと目的地である八咫烏研究所に到着した。研究所に着いた当日は特に何もせずに説明だけを聞いた。次の日から俺は身体検査などの検査を受け、特に問題がないことが確認された。研究所に着いて3日目、遂に新薬を投与する日が来た。坂本から実験前に「辞めるなら今しかないですよ?」と言われたが、俺は「ここで引いたら帝国軍人の名折れだよ」と言って引かない姿勢を示した。だがいざ本番になってみるとやっぱり緊張するもんで、色々考えてしまう。上手くいくのだろうかとか、もしこのまま死んでしまったらどうしようとか。まぁ取り敢えず苦しみながら死ぬのは嫌だなぁ。俺はベッドに寝かされ麻酔を打たれた。良かった。これならもしもの時でも苦しまずに逝けそうだ。そう思いながら俺は眠りについた。




沈んでいた意識がゆっくりと浮上し、俺は目が覚めた。目を開けて最初に見えたのは見覚えのない白い天井。寝起きで意識がはっきりせずぼーっとその天井を眺めていると視界に違和感を感じた。いつもより見える範囲が広い・・・?っ!まさかッ!俺は左目を閉じてみた。右目は失明しているので左目を閉じれば見えなるなる筈だがー。


「み、見える!目が見える!」


右目がなんと見えるようになっていた!とすると下半身はどうなんだ⁉︎動くのか⁉︎俺は起き上がり足の方を見る。試しに俺は右足に力を入れる。するとちゃんと右足が上がった!左足も動く!両足を駄々をこねる子供のようにバタバタと動かしまくり、次に立ってみることにした。


「っ・・・・クははは、あっははははははは!・・・ん?」


ベッドから降りて両足を少し冷たい床の上につける。多少ふらつきはしたものの、しっかりとその両足で立つことができた。俺は嬉しさのあまり狂ったかのように笑った。が、笑っている途中で俺は自分の声がいつもより高かなっているように感じた。馬鹿みたいに笑っていたからか?


「あー。あ、あ〜・・・あ、い、う、え、お、か、き、く、け、こ。あ、あー。あ〜?」


何度か声を出してみたが、やはり気のせいとかではなかった。明らかに声が高くなっている。それに目や下半身の方にばかり気にしていて気づかなかったが、髪が伸びていた。それもかなり長い。恐らく腰まで届くくらいの長さはあるだろう。それだけでも充分驚く事なのだが、更に驚くことにその伸びた髪は大和人特有の黒髪ではなく金髪。ひと房摘み、目の前で凝視してみるが間違いなく本物の金髪だった。高くなった声、伸びた髪、まるで女性みたいだ・・・。そこまで考えてふと有り得ない考えが浮かんだ。有り得ない。そう、有り得ない筈なんだがそうである可能性がある。さっきは気のせいだろうと思っていたが胸に重みを感じる。もし俺の予想が正しければ・・・この重みの正体はっ!


「・・・・いやいや、それはないって・・」


恐る恐る視線を胸の方に向けるとしっかりとあるふくよかな2つの膨らみ。本物なのかと掴んで揉んでみれば柔らかくもしっかりとした反発力があった。揉まれている感覚もある。ここまで証拠が揃ってしまうともう結論は出てしまっているのだが、やはりそのことを受け止めきれず俺は自分の姿を確認する為に鏡になるものを探した。するとまるで用意されていたかのようにベッドの横にある机の上に手鏡が置いてあった。その手鏡を手に取り、一瞬躊躇する。この鏡を見たら自分が自分で無くなってしまうような気がして恐ろしくなって来た。一度深呼吸し、俺は覚悟を決めて手鏡を見た。


挿絵(By みてみん)


「・・・は?」


驚き過ぎて声も出ないとは正にこのこと。と言うかこの状況に頭がついて来れてない。鏡に映るのは見たこともない少女の顔。本当に自分の顔なのか?

何がどうしてどうなったのか全く分からず混乱しているとドアの開く音が横から聞こえて来た。


「あれ、もう目を覚ましてましたか。意外に早かったですね」


室内に入って来るなりそう言って来たのは坂本だ。今は白衣を着ている。いや今はそんなのどうでも良いそれよりこの体について書きたい。


「お前ッ!」


久しぶりに足を動かすからか、上手く歩けずよろよろとしながら坂本のいる所へ向かう。が、途中つまずいてしまいそのまま体勢を崩し倒れてしまう。俺が転んでしまう前に駆け寄って来た坂本が俺を受け止める。俺は坂本にもたれ掛かりながらも襟を掴み、坂本を睨みつける。


「これは一体どう言うことだ!何で俺は女になっているんだ⁉︎」


と叫んだがやはり俺の発する声は若い女性のもので、違和感しかない。


「落ち着いてください。今から説明しますから」


俺はベッドに腰掛けて腕を組み、貧乏揺すりしながら坂本の話を聞いた。


「今回の実験の結果ですが良い知らせと悪い知らせがあります」


「悪い知らせってのは俺が女になったこと以外にあるのか?」


「はい。貴方を男に戻す方法は現在ありません」


俺が女になったと分かった時よりも俺は強いショックを受けた。戻れないだと?じゃぁ俺はこの先一生女のままかよ⁉︎俺が頭を抱えていると坂本が「では良い知らせを言いますね」と言った。


「実験は女体化した事を除けば成功です。失明していた右目も見えるようになってますし、下半身も動くようになってます。身体能力などは向上しているかどうかは今から調べてみないと分かりませんが、恐らく向上していると思われます」


「それと、お気づきかと思われますが再生した右目は色彩が左目と異なり赤になってしまってますが悪影響は無いですので安心してください」


「目の色とかはどうでも良い。何で俺は女になってしまってるんだ?」


「それが、ハッキリとした原因が我々にも分からないんですよ。薬の副作用か何かだと思われますが・・」


いや薬の副作用で女になるとか聞いたことないぞ⁉︎実験前にある程度覚悟をしていたが女になるなんて予想外だ!


「女体化の原因の調査なども含めて明日から貴方の身体検査などを行います。今後の日程はー」


坂本 はこれからのことを細かく説明して行った。俺は女になったショックから立ち直れず坂本の説明をほとんど全部聞いていなかった。動くようになった体でまた戦闘機に乗るつもりだったが、それ以前に俺はこの体でこれから上手くやって行けるんだろうか?不安は募るばかりだった。

どうだったでしょうか?(主人公が女体化したりとか)色々と突っ込み所がある内容だったと思いますが気にしないでください!主人公が女体化する以上にファンタジーな事は起きない予定ですので安心してください。


コメントしたい人はどうぞ!

投稿速度は遅いですが次回も読みに来てくださると嬉しいです。

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