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アレクサンダー建国記(旧バージョン)  作者: 稲荷竜
二章 はぐれ者ども
8/73

2-1

「やべぇな。予想以上になんにもねぇ」



 食糧は尽きかけていた。

 俺たちは歩いて歩いて歩き続けたんだ。長い旅路だった。具体的には八日ぐらい?


 長い旅路は体力を奪う。

 イーリィなんか、最初は草木に川に動物に、『それ、俺らの故郷にもあったからな?』というものにもいちいちはしゃいでいたのだけれど、だんだん疲れて騒がなくなっていった。

 というかたぶん、野宿が続いたせいで体力がうまく回復しなくって騒ぐ元気がなくなっていったのだろう。心に来るからな、野宿。


 そんな夕暮れだった。

 正面方向から大勢の人が走ってくる。



「兄さん! 人! 人!」



 今まで全然二足歩行の生命体に出会えなかったものでイーリィは、はしゃいだ。

 俺もはしゃいで叫んだ。



「おーい!」

「兄さん! 友好的かどうかわからないんですから! 声をかける前に様子を見て!」



 様子を見るっつっても、連中はまっすぐこっちへ走ってきてるし、このへんはだだっぴろい草原で隠れる場所もない。

 とりあえず()き殺されないように連中の進路からどきつつ様子をうかがう。


『轢き殺される』とはいえ、別に馬車に乗ってるとかそういうんじゃないんだ。

 ただ走ってくる連中には鬼気迫るオーラがあった。

 迂闊に道をふさげば、はね飛ばされそうな切迫感があったんだ。


 近付くにつれ彼らの様子がハッキリしてくる。


 逃亡している。


 なにから逃げているかは知らない。

 けれど彼らはボロボロで、荷物は『そのへんにあったものをとにかくひっつかんできた』という程度で、そして隊列もなんにもなく息せき切って走っていた。

 連中のテンションに合わせて、切迫した感じでたずねる。



「なにがあった!?」

「モンスターの大群だ! オレたちは村を捨てた! お前も逃げろ!」



 彼らの中の一人がそう叫びながら、歩調はゆるめず走り去って行った。

 三十名ほどいた彼らが通り過ぎるまで黙って待って、それから真横にいるイーリィにたずねる。



「今のわかった?」

「モンスターの大群って言ってましたね」



 二つの事実がここで判明する。


 一つ、この世界は言語が分かれていない。

 なのでまったく知らない別集落に住んでいたはずの連中の言葉が、俺にも、そしてイーリィにもわかったのだ。


 そしてもう一つ。



「ケモミミ生えてたな」

「……けもみみ?」



 イーリィが首をかしげていた。


 そう、獣人なのだった。


 獣のような耳が頭上に生えていて、腰の後ろには尻尾があった。

 顔面や体つきは人間のものと酷似していてケモさはそれほどでもないのだけれど、たしかに犬猫、あと狐? あたりの要素をふくんだ獣人がこの世界に存在したのである。



「俺さ、ずっと不思議に思ってたんだけど、連中の顔の横ってどうなってるんだろうな? ツルツルなのかな、それとも人間みたいな耳があるのかな。お前どう思う?」

「なんの話ですか……それより、モンスターの大群だって……私たちはどうします?」



 ちょっと迷う。

 いや、今去って行った連中に追いついて『一緒に冒険しない?』と勧誘する選択肢が浮かんだのだ。

 しかしそれよりも魅力的なのは……



「経験値がほしい」

「はあ……?」

「あとそろそろ文明を感じる品物がほしい」

「はあ」

「というわけでモンスターの大群に襲われたらしい村に行くぞ」

「モンスターの大群はどうするんですか?」



 経験値がほしい、という言い回しではうまく伝わらなかったようだ。

 ちょっと考えて告げる。



「皆殺しだ」





 マジで大群でやがんの。



「兄さん! ちょっと! もう! 何回腕を飛ばせば気が済むんですか!」



 最初は俺が深刻なケガをするたび心配を隠そうともしなかったイーリィだが、今ではもう慣れたものである。

 慣れると治療に小言がついてくる。イーリィの悪いところだ。


 村を見つけるころには夜になっていた。

 その村でたむろしていたモンスターどもを倒すころには、もう深夜だ。


 破壊のあとを見る。

 ひどいありさまだけれど、そもそもこの村は丈夫さが足りないように思える。

 モンスター除けの壁は薄っぺらい木の板だし、家屋も堅牢なものが一つもない。


 この時代全体のことはまだ知らないが、少なくともうちの村ではモンスターが村に来た時のための籠城用施設が一つはあった。

 イーリィの閉じこめられていた神殿がそれにあたる。

 あそこには治癒設備イーリィの他に、村中の保存食がおさめられており、武器なんかも多少はあった。


 この村には、そういった『砦』みたいな施設が見当たらない。


 なにか襲われないための工夫でもあったのか、単純に想定していなかったとか建築技術が足りなかったとかなのか……

 このあたりは森もそばにないし、木々なんかも少ないのが影響してそうだ。


 だからこそ、この時代の連中が集落に選ぶ場所のそばには森があるもんだと想定していたんだけれど、どうにも集落ごとに集落候補地選定のための基準が違うっぽい。

 いいね、新しい知見だ。世界が広がっていく。



「兄さん、腕、つながりましたよ」

「お前、だんだん手際がよくなっていくな」



 イーリィの治癒は万能だが、傷や病が重ければそれだけ時間がかかるものだった。

 しかし村を出て俺と旅した数日間で、もはや欠損級の傷さえまばたきのあいだに完治できるようになっていた。

 パワーレベリングをしていた、お陰だろう。

 どうにもこの世界の連中は俺の見てるようなステータスが見えないようなので、イーリィの方には強くなった実感はなさそうなのだが、確実に強くなっている。



「……はぁー……しっかしまあ、ロードローラーでならしたのかってぐらい色んなモンがペシャンコだな。アレか、さっき倒したやつらに大型モンスターが多かったからか。こんなんじゃ勇者行為も働けねーじゃん」

「勇者行為とは」

「人様のお宅から『つるぎ』とか『やくそう』とか持ってく行為だよ」

「『勇者』というのは盗みを働く人を現す俗語(スラング)なんですか?」

「そうだけどそうじゃない。……ん?」



 夜の光が冴え冴えと照らす村跡地の地面。

 土塊と砕けた建物のかけら、日用品とモンスターの足跡が散らばるそこに、一箇所、扉のようなものが――地面に、扉のような金属板が、存在した。



「なんだろう。地下道の入口か? ……普段は石……製のなにかを置いてふさいでたみたいだな。見ろよ、この扉の上に散らばった石のかけら、あきらかに研磨したあとがある。……このへんにはこのサイズの石もなかったし、どこからかわざわざ持ってきたんだな。結構デカかったみたいだぞ。大事なモンだったんだろう。……石像かなんかか? 神像的な」

「兄さんはたまに異常な洞察力を発揮しますよね」

「興味があれば気付くんだよ。とりあえず扉に『聞き耳』します」

「なんの宣言ですか……」

「……んー……ん? 中でなにか動いてるな?」

「……モンスターの生き残りですか?」

「さあ? とりあえず行ってみる」

「ちょっと兄さん! モンスターがいたらどうするんですか!?」



 地下への入口をふさいでいた金属板をどかして、中に飛び降りた。


 いや、モンスターはたぶんいねーよ。

 いたら金属板いちいち中から閉めたとかありえないし。


 まあ普通に考えて保存食の貯蔵庫とかだと思うよ。

 え、そこでなにか動いてるの?

 恐くない?

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