7-11
やっぱり俺には責任をとる能力などなくって、しでかしたことにはそれなりの反動があった。
テューネは望みを果たしたお礼にとある程度の責任をかぶってくれた。
くじら討伐は――みなが『恩恵をもたらしてくれるありがたいもの』と信じて疑わないものの信仰を失墜させるという行為は、もともとテューネの望みでもあったし、それは命懸けで果たしたいものでもあったらしい。
責任を果たした結果死ぬことがあっても、テューネはそれでいいと思っているようだった。
もちろん、街の人たちが彼女を責め、殺そうとする流れもあった。
けれどこれをとどめたのはテューネのしてきた『くじら討伐後の準備』であり――
ようするに、テューネの進めてきた畜産と、彼女が確保したくじらの皮革、脂、肉がなければ生きていけない人たちが、彼女の存在を必要としたわけだ。
それでも身勝手の反動は小さくない。
街の人たちは離散した。生活できないというシリアスな問題よりも、『こんな身勝手なヤツと一緒にいたくない』という感情が勝ったのだろう。
戦乙女たちもちりぢりになり、街はもはや『街』の規模を維持できなくなった。
テューネたちは、街から離れたところに設置していた牧場および素材保管庫のあたりで、新しく村を始めるようだ。
俺は、旅についてこい、とは言わなかった。
言えなかった。
だからすべてが終わって、人々がちりぢりになって、俺からテューネに申し出たことは一つきりだった。
「『墓』を作らせてほしい」
姉さんの、墓。
前世――いつだったか、どこかの誰かが言っていた、あるいは書いていたことを思い出す。
『弔いは死者のためではなく生者のためにやるものだ』。
まさしく墓を作りたいなんていうのは、俺が俺のためにやりたいことだった。
少しでも彼女を弔いたい、なんらかのかたちで弔いをしなければ、旅に巻き込んで彼女を死なせた責任の重さに、俺の心はここで砕けて折れるだろうと確信があった。
なんでテューネの村に作りたいと思ったのかといえば、それは、テューネもまた姉さんから弟というふうに呼ばれていたからだ。
最後まで姉さんがいかなる基準で『弟』認定をしていたのか、わからない。
『姉さんの本当の弟は死んでいる』ということ以外、俺は知らない。そこにどんな思い出があったのか、興味はあったが、聞くこともできなかった――しなかった。
けれど『弟』というものは、姉さんにとってきっと大事なものだったんだろう。
俺は旅をする。……今、ここで止まることは、なんだか、できない。
だから姉さんをゆっくり休ませるならば、この場にとどまる『弟』――テューネのそばに墓所を作るべきだろうと、そう思ったんだ。
テューネは承諾してくれた。
俺たちは石を運び、墓を作る。
それは俺が前世においてもっともよく見たかたちの、石柱を立てただけの墓で、西洋人顔の姉さんには合わないような気もした。
通常、『○○家の墓』というように墓石に文字を彫るのだろうけれど、俺たちには名字がない。
だから、その墓石には、あの港町の文字で、姉さんの名前だけを彫った。
『ヘンリエッタ』。
……それはもちろん俺がつけた名前で、由来は、漫画かなにかで見た、格好いい女性キャラのものだったと思う。
名前の響きだけでつけたものだから、元ネタと姉さんとの共通点は、本当に、まったく、全然、ないような気がする。
「……ああ、なるほど。『名前』があると、こういう時に便利ですね」
できあがった墓石を見て、シロは笑っていた。
「僕はきっと、この名前を忘れないでしょう。『手足』という立場から離れ、『弟を亡くした女性』であることが忘れられても、きっと、名前だけは、忘れない。その名前に付属していた思い出が消えても――名前は、記憶に残るのですね」
画期的だ、とシロはうなずく。
そして、
「やはり僕には、名前はいらない。……誰かの記憶に残るのは、いいことばかりではなさそうですからね」
「……シロ、お前は、俺になにか――」
「なにも」
「……」
「『なにか言いたいことはないのか?』と問おうとしましたね。なにも、ありません。なにかを言ってほしそうだから、僕はなにも言わないのですよ。今、この時、僕が告げる言葉はきっと、あなたを縛る。僕はそれを望まない」
「でも――」
「アレクサンダー」
墓に背を向け、シロは俺を振り返った。
……草原地帯に、一陣の風が吹く。
夕刻の赤い光を背後から受けた男は、ふわりとした服と、長い真っ白な髪を風に揺らして、笑った表情のまま、告げる。
「僕はやはり、誰かに目的を与えられないと、生きられないようです」
「……」
「だから、僕があなたに目的を与えるのではない。あなたが僕に、目的を与えるのですよ」
……都合のいい妄想をしてしまう。
これは、シロなりの励ましなのだと。
俺よりもヘンリエッタ姉さんとのつきあいが長かったシロが、俺に気をつかって、姉さんの死についてなにも言わないでくれているのだと、妄想してしまう。
どうだろう、真実なのかもしれない。わからない。俺には、他者の考えていることなんかわからない。
ただ――俺にもわかることがある。
シロの発言に俺への励ましが入っているかどうかはわからないが、シロの言ったことは、まぎれもなく真実ではあるのだろう。
目的を与えられないと生きていけないから、目的を与えろ。
シロはそういうやつで、そういう目的――目的を与えられたいという目的が、たしかにあるのだろう。
俺たちは自分勝手に、相手に夢を見ている。
ウーばあさんは自分の武勇伝のために俺たちを利用しようとしている。
シロもまた、自分の可能性を試し、目的を与えられるために俺とともにいる。
ダヴィッドはあきらかに『聖剣』を作ることを目的にすえている。
サロモンは闘争がなければ俺と旅をしないだろう。
イーリィは、わからないが、あいつなりのなにかがあるのだろうし――
カグヤはきっと、それ以外ないから、俺たちとともにいる。
俺に同行しているみんなは、自分なりの目的をもっているし、ともに旅をする仲間が、その目的のために役立つと夢を見ている。
俺もそうだ。いや、俺こそがそうだ。
自由を愛して夢を見る。夢のために人をたきつけてまわる。
それはこれからも変わらない、俺のありかた。『こういう生きかたしかできない』というもののはず。
なのに――
夕日を背負うシロから、つい、目を背ける。
今の俺にはなぜか、シロの自由さがまぶしくて、直視できなかった。




