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アレクサンダー建国記(旧バージョン)  作者: 稲荷竜
七章 くじらと奴隷の街
65/73

7-4

 姉さんは細かい事情とか察してくれない人なので、とりあえず一戦交えた。

 そして、ある程度やってから負けることにした。

 かくして姉さんは俺を奴隷にする権利を得て、普通に俺に『奴隷の首輪』をはめたのだった。


 ……いや。まあ、いいんだけどさ。


 まとわりついた首輪は、ややきゅうくつな感触だった。

 テカテカレザーの首輪は、首との隙間に指をさしいれてぎゅうっと伸ばすと、『外すな』と言わんばかりに全身に痛みを走らせる。

 たぶんこれ、のたうち回るぐらいの痛さだよなあ、と思いながらさらに力をこめて引きちぎろうとしてみる。痛みは一定で、首輪にどんな刺激をあたえても、増しも減じもしない。


 意外と丈夫で、引きちぎると同時に首の骨が折れそうな感じがする。

 いざとなれば首の骨ぐらい折れてもいいし、頭と胴体を切り離して首輪外してからまたくっつけるという手段も俺ならとれるんだが、イーリィと合流前にそれをするとちょっとめんどうなので、最後の手段にしておこう。


 首輪の内側をぐるりと一周、人差し指でなぞる。


 継ぎ目がない。


 首輪を俺につける時にはたしかにあったはずの接合部が、指で触れても感じ取れない。まるで最初から閉じた円環だったかのような、なめらかな感触――

『魔法の首輪』。

 なるほど、これはたしかに『魔法』としか表現できない。


 この技術が生まれた背景に思いをはせる。

 人が人を奴隷化したいという欲求はまあ、普通に自然発生するだろうが、その欲求からの要求に応じてどんな変態技術者がこの首輪を開発したのかはおおいに気になるところだ。



「アレクサンダー……まさか私が君をつかまえることになろうとは」

「ほんとだよ」



 俺たちは戦乙女詰め所でテーブルを挟んで向かい合っている。

 詰め所っていうか詰め所(仮)だ。先ほどまで詰めていた場所は俺が粉々にしてしまったので、今は民家を接収して仮詰め所としていた。


 すぐそこが元詰め所だった廃墟で、そこにはたくさんの奴隷が、戦乙女数人の指揮のもと、新しい詰め所を建てている様子が見えた。

 まさか工事までやる集団だったとは。思うに『きつい力仕事』全般をまかされているのが、彼ら奴隷なのだろう。


 彼ら、っていうか。

 俺も、だけど。


 あたりはすっかり日が暮れ始めていて、そろそろあたりは夕食時のようだった。

 ゆうげのニオイがただよう木造の家の中、俺は『戦乙女様に』と出されたミルクのような飲み物を姉さんからもらって、飲み干す。……なにか脂っこいような、変な味がした。



「それは街の真ん中にいるあれ(・・)の脂肪を溶かしたスープだ。おいしくないぞ」

「姉さん、そういうのは俺が飲む前に言ってくれ」

「それにしてもアレクサンダー、なぜここに?」

「えっ、あんたが『首輪をした男たち』につかまったって聞いたからだけど?」

「……ひょっとして君は私を助けに来たのか?」

「そうだよ」

「いい子だな」



 なでなで。

 姉さんはほほえんで俺の頭をなでた。



「そして悪いことをした……『(あたま)』やウー老師にも連絡をしたかったんだ。でも、みんなどこかに消えてしまって、ほんと、どこにいるかわからない……頭はともかく、ウー老師まであんなにかくれんぼがうまいなんて思わなかった……」

「ウーばあさんはとっくに街の外に逃げてたよ」

「なんと」

「シロはまあ、普通に忍んでたみたいだけどな。……おい、いるのは見えてんだよ。出てこい」



 呼びかければ、俺にくじら(・・・)スープを提供してくれた家人の後ろから、シロがぬっと現われた。

 背後から急に人が来て、家人はぎょっとしている。


 どう見てもシロのほうがいいガタイをしてるのに、どうして隠れられるのだろう……

 俺にステータス閲覧能力がなきゃ普通に気づかなかったぞ。

 シロは物陰とかじゃなく、人の意識の裏に隠れるから。


 シロは笑って、俺の横に立った。

 そして、家人に目配せして「少し外していただけますか?」と述べ、家人が家の外に辞したのを見てから――



「まずは無事でなにより。君が窃盗でつかまった時は、すぐに助け出せなくてすまないね」

「いいんだ。私が間抜けだった。間抜けがつかまるのはしょうがないし、その結果殺されても、それは当たり前のことだ」



 二人の会話は殺伐としている。

 まあ、港町で反政府組織やってたからな……



「ところでアレクサンダー」シロは俺の肩に手を置いて、「どうでした?」

「どう、って?」

「やだなあ。逮捕された彼女がなぜか逮捕する側の勢力にいるんですよ。びっくりしませんでした?」

「……ひょっとしてお前、知ってて黙ってた?」

「こういうサプライズ、お好きでは?」

「……」



 嫌いだよ、とは言えなかった。

 まあ実際、ちょっと好き。


 シロは俺の沈黙を肯定と解釈したらしく、「よかった」とほほえんで、



「さて、我々を襲っていたとおぼしき危機はこうしてなくなりました。アレクサンダーが奴隷になるという事故は発生しましたが、首輪を首ごと引きちぎれば問題はないでしょう」

「だな」

「我らの前には――というか、彼女には二つの道がある。一つは、我らの旅に同行する。もう一つは、この街で戦乙女として生きていく。……あっはっは。僕としてはまあ、不安定な旅暮らしより、こういう場所でしっかりと地に足をつけた生きかたをしてほしいところですがね」

「その前に、気になることがある」



 俺は姉さんを見た。



「姉さんはなんで、戦乙女になろうと思ったんだ?」

「戦乙女になろうとは思ってないぞ」

「……え、じゃあなんで戦乙女やってんの?」

「……ああ、そうか、戦乙女か。なるほどな。私、戦乙女だ」

「おいおい」

「だって」姉さんはちょっとすねたような顔をする。「色々な呼ばれかたがあって、わけがわからないんだ。戦乙女とか、守護騎士とか……どれか一つにしてほしい。姉さんはあまり複雑なことを覚えられない」

「まあなんでもいいけどさ……なんで、今の職につこうと思ったんだ?」

「……姉さんは、うまく話をまとめるのが苦手だから、説明しきれないかもしれないが……」

「いいよ。ゆっくりで」

「まず、強かったから、気に入られた」

「……まあ俺たちと旅してたからな。パワーレベリングはできてるし」

「うん? ぱわー?」

「いいんだ。それで? 戦乙女になる『資格』についてはわかったよ。連中が法だし、罪人を迎え入れるぐらいはわけないだろう。だから、姉さんの意思のほうは? どうして姉さんは戦乙女になろうと決意したの?」

「倒そうと思ってるんだ」

「なにを」

あれ(・・)――あれは、なんだっけ」



 姉さんは、俺の前にあるカップをジッと見て、



「そうだ。くじら(・・・)

「くじらがなんだよ」

「くじらを、倒すんだ」

「……」

「それが戦乙女の……今代の戦乙女の目的らしいから、手伝うことにした。だって――支配者に刃向かう人は、みんな姉さんの仲間みたいなものだし」

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