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アレクサンダー建国記(旧バージョン)  作者: 稲荷竜
六章 聖剣を求めて
61/73

6-5

「もうテメェに剣は作らねェ」



 夜。


 イーリィとカグヤの眠る横でかがり火の番をしていると――


 戻ってきたダヴィッドはそんな発言をした。


 サロモンとの会話をこっそり聞いていた俺は、どう反応していいかわからないので、とりあえず不思議そうな顔をしておいた。



「どういうことだよ?」

「テメェには折れた剣がお似合いだってこった。もう、やめだ。……アタシにゃ、アタシが理想とする『聖剣』は作れないんだろう」



 折れず、曲がらず、決して砕けぬ剣。


 ……その夢を、彼女はあきらめてしまったらしい。



「……そうか。で、どうするんだ?」

「……アタシはさ、やっぱり『打ち手』じゃねェんだよ。『ずる』を使って、ずるいことをするのが関の山さ。だから――卑怯なことをする」



 ダヴィッドはそう言うと、そこらに散らばる、剣の試作品を拾い集めて、一箇所にまとめた。


 そうして、地面に両手をつき、



「『魔石』」

「……?」

「『叩いたり触ったりすると、魔法みてェな効果を発生させる石』――こいつを使って何本も剣を作っていくうちに、こいつのことが、だいたいわかってきた」

「……」

「だからな、ずるいアタシは、アタシらしく、『ずる』をする。……折れない、曲がらない、砕けない、まともな技術で打たれた剣を『聖剣』とするなら――アタシが今から作るのは、『魔剣』とか『邪剣』だ」



 人工的な赤い光が、ダヴィッドの手をついた地面から発生する。


 すると集められた剣の刃が、柄が、分解されて青くきらめく光の粒になり――それから、寄り集まっていく。



「しょうもねェことを思いついた。絶対に折れない剣を、マトモじゃねェやり方でするにはどうすればいいか? 簡単だ。最初から(・・・・)折れてりゃ(・・・・・)いい(・・)



 集まった青くきらめく光の粒が、カタチを成していく。


 それは紛れもなく剣のカタチだった。


 刃が根元付近で折れた、壊れた剣。



「テメェの剣だ」



 その、壊れた剣を、ダヴィッドは俺に差し出した。


 受け取って、ながめる。



「……見た目はフツーに折れてる剣だな?」



 短剣、ではない。


 俺の目には、それが『破損した剣』に映っている。


 見た目状、たしかに刃の断面は綺麗じゃないし、鍔にも欠けが見られる。


 そしてステータス閲覧能力で見ても、その剣は『破損アイテム』として俺の視界に映った。


 破損品を完成させる。


 それはそれで驚嘆すべき手腕なのだが――



「で、仕掛けは?」



 ダヴィッドの自信ありげな視線が、語っているんだ。


 この剣には『なにか』があるって。


 ダヴィッドは笑った。



「魔石っていうのはな、『力を吸収する部分』と『現象を発生させる部分』が混じり合った鉱石だ。刃の断面に『現象を発生させる部分』を集めて、柄の方に『力を吸収する部分』を集めた」

「それは『異なる二つの素材が混ざってた』って話じゃねーよな? 一つの素材の、分子レベルでの『部位ごとの役割の違い』を見抜いて、しかも、その場所をいじったってこと、なんだよな?」

「小難しい話はわかんねェよ。ただ、アタシは『ニオイをそろえた』だけだ」



 とんでもない。

 現代科学みたいなことを、職人の感覚とドワーフの嗅覚だけでやってのけたのか、コイツは!



「それで、どうなる?」



 俺は興奮をおさえながら聞いた。


 ダヴィッドはニヤリと笑って答える。



「柄を思いっきり握りながら振ってみな。……人のいない方に向けてな」



 言われた通り、思い切り振った。


 すると――刃が伸びた。


 青い光が刃の断面から飛び出てきたのだ。


 それは地面を切り、たまたまそこにあった岩を断った。



「……」



 魔剣。


 たしかに、魔剣だ。


 破損しているゆえに、壊れることはない。


 切断の魔法を刃状に伸ばすことで、『折れた剣』ではネックとなっていた間合いの問題を解決している。


 なによりこの途方もない切れ味。


 青い光の剣。

 これは、ひょっとして――



「ビームサーベルか?」

「おう。テメェに言われた話を思い出したんだ。……それから、まあ、なんだ……」

「?」

「……剣を作れないって認めたんだよ。『聖剣』は――『鍛冶技術の粋を集めた、まっとうな折れない剣』の製作は、未来に託す」

「……そうか」

「ただし、『自分の未来に』だがな」

「……」

「あきらめてたまるかよ。……ああ、チクショウ、認めるさ。今のアタシにゃ、作れねェ。……けどな、未来のアタシになら、きっとできる。そう信じなきゃ、アタシは進めねェんだ」

「……そうか」

「必要なのは知識と研鑽(けんさん)だ。……世界にゃ、もっとこういう石があるだろうよ。テメェらとの旅で、こういう石を見つけたい。それから、アタシの知らない鍛冶技術も知りたい。それに、色んなモンと出会って刺激を受けりゃ、アタシだってなにかをひらめくこともあるだろう」

「だな」

「今は未熟だよ。自分が今、未熟だって気付けねェぐらいにな。……ここにはまた来る。今度は奥まで入ってみるさ。奥のがいい鉱石あるかも知れねェからな。でも、それは今じゃねェってだけの話だ」

「……」

「悪かったな寄り道させて。……旅に戻ろう。今は、その『ずるい』剣もどき(・・・・)が、アタシの最高傑作だ。いつかサロモンとバチバチにやり合える、とんでもねェまともな剣をテメェにくれてやる。それまで待ってろ」

「ああ」

「待ってろよ」

「わかったって」

「……待ってろ」



 三回言われて、気付いた。


 ダヴィッドの言葉は、俺に向いているものではない。


 ここにいない――


 いや、どこかで話を聞いているかもしれない、サロモンに向けてのものだ。


 俺は肩をすくめる。


 まあ、いいんだけどさ。


 どうしてうちの連中は、俺を通して人と会話をしたがるのかね。





 山を下りて、シロの向かった方へ行くことにした。


 サロモンは俺たちの様子をどこかで見ていたらしく、『出発するぞ』っていうタイミングでちょうどよく現れた。


 なぜそこまで監視してるのにわざわざ単独行動をとりたがるのか不明だが……


 ここで気にすべきは『どこかで俺たちを見ていた』のに、俺が『見られていたことに気付けなかった』ことだろう。


 俺は他者のステータスを閲覧できる。


 そのステータスは、ある程度の距離や遮蔽(しゃへい)物なら無視して俺の視界に飛び込んでくるわけなのだが……

 サロモンは、俺がステータスを見ることのできる距離や遮蔽物の厚さ、数などをかなり正確に把握してるっぽい。


『あいつからは視界が通って、俺はステータスを閲覧できない』という条件の満たしかたをあいつは知っているのだ。


 俺とのガチな殺し合いに備えて、俺の戦力を分析している。


 ……ああ、想われている。


 剣も手に入った。


 あとはきっと、あいつが、俺の殺し方を発見すれば、俺たちの再戦は叶うのだろう。


 ワクワクする。

 俺たちはたしかに仲良しだ。色んなバカ話をした。くだらないことを真剣に語り合った。


 でも、俺たちの関係の根底にあるのは『殺し殺され』のままなんだ。


 それがたまらなく嬉しくて、ぞくぞくする。


 普通、人は変わる。

 器用に社会の中で変化していく。


 でも、俺とともに歩むみんなは、その『器用な変化』ができない。

 そのことに、俺はとてつもない安心感を覚える。

 一人じゃない、って感じるんだ。


 ……などとイーリィあたりにカミングアウトしたらドン引きされそうなことを思いつつ、俺たちは山を下りて、元いた場所に戻る。


 昼日中の平原。


 整備された街道と、整備されていない草原の狭間――


 そこに、見知った人物がしゃがみ込んでいた。


 ウーばあさんだ。



「あ、アレクサンダー!」



 ばあさんは俺たちの姿に気付くと、自在に動く髪の毛を総動員して立ち上がり、二本足と神を使ってこちらに素早く接近してきた。


 ドライアドっていう種族は髪が自在に動くんだが……

 慌てると、手足よりも髪を多く使うようになるらしい。

 不思議。



「よう、ばあさん、久しぶり。慌ててどうした?」



 この時点で俺は、なんとなく心の準備ができていた。


 ここにいるウーばあさん。


 ここにいない、シロと姉さん。


 ばあさんの慌てた様子もあって、『なんかあったな』ぐらいは、感じていた。

 シロと姉さんが、ここまで来られないぐらいの、『なんか』が。


 だから、次にばあさんが放った言葉に、俺はある程度の覚悟をもって備えることができた。


 にも、かかわらず。



「あ、あやつが、いい女のあやつが!」

「落ち着け、姉さんか? そうだな? 姉さんがどうした?」

「つ、捕まった!」

「……なにに?」

「首輪をした男たちに!」

「……」



 状況が意味不明すぎて呆然としてしまう。


『首輪をした男たち』ってなんだよ。

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