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というわけでいったん里に帰った。
こっそりとばあさんの家に戻り、誘拐前に一つお願いをする。
「あのな、ばあさん、世間は厳しい。その葉っぱとツタだけの衣服だと、ちょっと寒さとかしのげないと思うんだけど、俺らが着てるみてーなしっかりした服はないか?」
少し待て、と言われて待ったところ、ウーばあさんは装いも新たに現れた。
藍色を基調としたブレストプレート。
金色の飾りを肘あたりにつけ、短いながらも『ちゃんと衣服と呼べるもの』で下半身……腰あたりを覆っている。
裸足だった脚には膝上まですっぽりおさまるブーツをまとっており、なにが転がってるかもわからない地面を歩く対策も万全だ。
「ばあさん、その服装は、なんだ? この里で作られた感じじゃねーけど。特に鎧とか、金属製に見えるな。この里の技術レベルじゃねーぞ」
「よせ集めじゃ」
「……よせ集め?」
「んむ。昔、男がいた時代、姉さまたちが男どもに貢がれたものを、よせ集めた。なんせ二百年ぐらい前のものじゃから、完全なかたちで残っておるものは貴重でのう……色んなところから引っ張り出して、まとってみた」
「そうか。似合ってるぜ」
「……他の女に贈られたものを『似合ってる』とは、貴様、さては女心を知らんな」
「人の心なんかわかるかよ。俺はいつだってその場のノリと勢いで相手の気持ちを決めつけて生きてるんだぜ」
「モテぬじゃろう」
「そうかもな」
「里で子作りをすれば、ドライアドにモテるぞ」
「そうかもな。じゃあ、あんたをさらって旅を再開するか」
「揺らがぬな、貴様は」
うらやましい、と彼女はつぶやいた。
たぶん、声に出したつもりはなかったんだろうと思う。
だから、聞かなかったことにした。
◆
旅を再開するんでシロとサロモンを拾いに行く。
そうしたら、なにやら里が騒がしい。
「わしのための祭壇前広場で、なにやっとんじゃあいつら……」
ウーばあさんが初登場した祭壇前広場には、なぜかドライアドたちが団子状に集まっていた。
その様子を、俺とウーばあさんは、茂みに隠れて遠くから見ている。
……ばあさんが争いの気配を感じたせいか、いきなり隠れたから、それにつられたかたちだ。
「んー……誰かとにらみあってるな。ばあさん、ちょっと髪ウネウネさせるのやめろ。視界にちらついて邪魔くさくて仕方ねーから」
「邪魔なら勝手におさえろ」
「はいよ」
「んむぅ!? くすぐったいわ!」
「どうすりゃいいんだよ!」
「あ、あまり大きな声を出すな……見つかる……! わしがあの、剣呑な空気に巻きこまれたらどうするんじゃ……! 死ぬぞ……! 意外とあっさり死ぬぞ、わし……! 心が弱いから……!」
「わかったわかった……とにかく髪をどかせよ。この自在に動く緑色の髪を」
「歳をとると、体の自由が利かなくてのう……」
「早くしねーと三つ編みにするぞ」
「わかったわかった、まったく……んむ? ……お、女じゃ……」
「ドライアドはそりゃあ、女だろうよ」
「そうではなく、わしの民とにらみあっておるのは、女じゃ」
「……」
「ボヨンボヨンのちっさいのと、ボヨンボヨンのおっきいのと、わしらに似た体型のと、なんかこう、背が高くて顔立ち整っててあんまり正視したくない感じの、女じゃ……」
「どけ」
ばあさんを押しのけて視界を確保する。
夕暮れの赤い光が目にチラついてなかなか視界が通らなかったが、光に慣れてきた目がとらえたのは――
「……イーリィたちじゃねーか」
「知り合いか? 子作りは?」
「してねーよ。……ばあさん、あのな、あんまり人前で『子作り』とか言うな。世間的には変態の発言だぜ、それ」
「人は子を作る。だのに、子作りは変態か?」
「その問答はもうちょい状況が切迫してねー時にしようぜ。なぜか剣呑な雰囲気だ。下手すると戦いが始まるぜ」
「わしと逃げよう」
「そうじゃねーだろ。おさめろよ。さもなくばあんたの民が絶滅するぜ」
「貴様ら、そんなに凶悪なのか……」
「おうよ。行く先々で街を滅ぼしてる集団とは俺らのことだ」
主に俺の犯行だけれども……
「基本的に戦闘担当は俺とサロモンとシロではあるんだが、ここに来るまでのパワーレベリングのせいでイーリィだって充分に強いし、ダヴィッドは前線に出てモンスターと殴り合うぐらいには強いし、姉さんはシロをレベルダウンさせつつもシーフ系に特化させた性能だし、カグヤは超かわいい。死ぬぞ、ドライアド」
「わしの方がかわいい」
「立てばヤシの木、座ればバオバブ、しゃべる姿はクソババアのくせしてなに言ってんだ。俺のカグヤのがかわいい」
「わしは、かわいいかわいいと姉さまがたから言われ続けて数百年じゃぞ」
「そんな問答はいいんだよ。あんたがおさめに行かないなら、俺が行くぜ」
「ま、待て! わしを一人にするな! 哀れな年寄りを置いて行かないでくれ……」
「わかったよ、しょうがねーな。あんたを一人にしねーよ」
「アレクサンダー……」
俺は背中の剣を抜いて、ばあさんに突きつけた。
「アレクサンダー!?」
「おら、とっとと歩け!」
「な、なんでじゃ……? わしらは親子も同然と……あの言葉は嘘じゃったのか?」
「発言を捏造するな。……まあっていうかさ、いい機会だから、あんたが誘拐された哀れな被害者であることを見せつけに行こうぜ。あそこに行けば仲間と合流もできるし」
「なるほどそういうことか。信じておったぞ、アレクサンダー」
「まあ、バッチリ着替えまで済ませてるあたり突っこまれたら、ごまかせよ」
「出任せは得意じゃ」
「旅の仲間にまた一人口から出任せ勢が加わった」
俺とシロと、ばあさんだ。
かくして俺に剣を突きつけられつつ、ばあさんは意気揚々とみんなのもとに歩み出る。
団子状に固まっていたドライアドの集団が俺らに気付いて、「最長老!?」と口々におどろいた声を出した。
「みんなー! わし、脅されて人質にされたー!」
嬉しそうに言うな。
しゃべらせるとろくなことなさそうなので、俺は剣を持っていない手でばあさんの口をふさいだ。
「そういうわけだ。最長老はあずかった」
「もくてき、なんだ!」
ドライアドの若いのがたずねてくる。
…………目的ね。
なんにも考えてなかった。
ばあさんを誘拐するメリットが俺には一切ないんだよな……
この里に欲しいものがあるってわけでもないし……
やっべーな、予想以上になんにも思いつかねーぞ。
「俺がなにを求めてるか、お前らの胸に聞いてみな!」
俺が丸投げすると、ドライアドたちは手を、あるいは髪の毛を、自分の胸に当てた。
なんだあの集団、かわいさの塊か。
「わからない……」
どうしよう、とか困った、とか口々に言い始める。
お前らに詰まられると、俺ももうこれ以上なにも思いつかない……
秘宝の一つぐらい持っててほしかった。
「……そうだな。よし、俺は、お前らの最長老の子孫だ! 俺の、えーっと、じいさん、の、じいさん、の、じいさん? をこっぴどく捨てたお前らの最長老に、復讐するのが目的なんだ!」
「そんなの、むねにきいても、わからない」
「そうだな。ごめん」
どうやら緊張感の維持が課題のようだ。
五十人の褐色ロリどもにいっせいにシュンとされると、悪役慣れした俺でも、悪に詰まる。
ボロが出る前に立ち去ろう。
「そういうわけだから、イーリィ、あと、サロモンにシロもどっかにいるだろ!? さっさとずらかろうぜ! ばあさんは誘拐していく! ドライアドども、ばあさんの命が惜しけりゃ手は出すなよ!」
「かみは?」
「髪も! 足も!」
俺が抵抗を封じると、ドライアドどもは舌を出した。
……くそ!
どうして切迫した空気を出すのがこんなにも大変なんだ!
こんなにくじけそうなの、今までなかった。
ドライアドは変な方向に俺の世界を広げていく。
さて、ここでイーリィだとかダヴィッドが『なんで誘拐を』と突っこみ始めると、さすがに面倒くささが勝ってウーばあさんを解放しちまいそうなんだが……
イーリィを見る。
あいつはなにかを察したように、『またか』みたいな顔をしていた。
あとで小言言われそう。
ダヴィッドを見る。
俺と目が合うと『わかったよ』って感じで肩をすくめた。
事情があることぐらいは察してもらえたらしい。
カグヤを見る。
おろおろしていた。
かわいい。
姉さんを見る。
彼女はうなずき、左右で色の違う瞳で俺をじっと見て、
「アレクサンダー、姉さんは君の復讐を支持する。あとで一緒にむごい目に遭わそう。協力する」
あとで事情の説明が急務だ。
俺が姉さんへどう説明したものか頭の中で描いていると、団子状に集まったドライアドの中から、上半身裸のシロとサロモンが出てくる。
サロモンはまあ、俗世の些事には興味がない男なので、どうでもよさそうな顔をしている。
シロはにっこり笑って、
「いやあ、まさかそんな因縁があったとは。まったく気付きませんでしたよ」
……あれは、冗談だよな?
それとも本気で、俺とウーばあさんのあいだに因縁があると思ってる?
わからない。
あいつの真意は全然読めないので、姉さんとまとめて説明しよう。
「よし、ついて来い! 抵抗するなよ、ウーばあさん!」
「んむ!」
ばあさんは俺に口をふさがれたまま、元気よくうなずいた。
こうして嬉しそうな被害者を引き連れ、俺たちは合流し、旅に戻るのだった。




