4-8
イーリィとカグヤが二等住民(カグヤはイーリィの所持品)、ダヴィッドが三等住民、サロモンが四等住民だったか。
んで、住民には等級ごとに住める区画が設定してあって、基本的にはそれぞれの区画で過ごし、自分の等級より上の区画に行くには面倒な手続きが必要ということだ。
まあ、とりあえず上の区画から順番にまわるか――
にしてもそれなりの広さがあるこの街で、どこにいるかもわからない連中を探すとか超めんどくせーな――
そんなことを考えていたのだが、
「兄さん!? やっぱり生きてたんですか!?」
講堂っぽい、ドーム状の屋根を持つ、大きな石製の建物の前だった。
真夜中だっつーのに手に手に灯りを持った人だかりがいたもんで、物珍しさからフラフラ近付いていったら、その真ん中にイーリィがいた。
カグヤも一緒にいて、周りにいらっしゃるのは武装した屈強な兵隊さんたちであった。
兵隊さんたちは俺の姿を見るとみんなして「よかったなあ」とイーリィやカグヤをなぐさめるように声をかけてくださる。
カグヤはパタパタ走って俺の胸あたりに抱きついて、イーリィは「そんなことだろうと思っていましたけど」と言いつつも涙なんか一筋流していた。
え、どういうこと?
「『真白なる夜』とかいう盗賊団に拉致されて戻らないという話を聞いたので」
「…………あー」
拉致されたことになってたのか。
まあ、事情を知らなきゃそう思えるか……
「もう、兄さんは本当に心配ばっかりかけて……」
「悪かったよ。でも、俺が死なないこと、お前は知ってるだろ?」
「でも……死ななくても、いくらでもやりようはありますよ」
「お前、発言の恐さに磨きがかかってない?」
なんだよ『やりよう』って。
普通に恐いわ。
「一等住民である兄さんが拉致されたというので、英雄が捜索隊を編成し、街を毎日探してくださっていたんですよ」
「まじかよ。ダリウスのおっさんには悪いことしたな……」
ちゃんと『裏切るからよろしく』って言っておけばよかった。
しかしイーリィを『真白なる夜』に誘いに来たんだが、兵隊さんたちに囲まれたこの状況じゃやりにくい。
「……あー、その、イーリィ。サロモンとかダヴィッドはどうしてるか知ってる?」
抱きついてくるカグヤの頭をなでながら問いかける。
イーリィは「そうなんですよ!」と勢いよく俺に詰め寄り、
「ダヴィッドさんがドワーフのみなさんを率いて、この街の英雄に対する反乱組織を立ち上げたようなんです。そのせいであちこちで半武装蜂起みたいな集団が呼応してて……」
「…………」
「サロモンさんは街に来た初日に行方不明らしく」
「………………まあその、みんな、うまくやってるみたいでよかった」
他のコメントが思いつかない。
まあそのー……らしいよね。すごく『らしい』。
いや、初日でダリウスのおっさんを裏切って『真白なる夜』についた俺が言える義理じゃねーんだけどさ。
「で、イーリィ、お前はなにしてんの?」
「兄さんが行方不明だし、ダヴィッドさんは反乱軍だし、サロモンさんはどこに行ったかわからないので、ちょっと兵隊さんたちのところにお邪魔して、今は指揮官をやっています」
「お前もお前だ」
「なにがですか!?」
「どういう昇進スピードだよ。わりとガッチリした組織があったと思うのですが」
「私はケガをしたみなさんを治療していただけですけど、ダリウスさんに目をかけていただいて」
「まあお前が治療してたらそうなるわな」
イーリィの治癒技能を放置する為政者なんかこの世にいねーよ。
いたとしたらよっぽど現場を見てないか心の目が開いてないかのどっちかだ。
「つーかみだりに人前で技能をさらすなよ。ダリウスのおっさんが理性的だったからいいようなものの……」
「でも、ケガをしてる人を放っておけなかったんです」
「……まあ、そうだろうけどさ」
「兄さんを探してケガをしているわけですし」
「なんで俺の捜索でケガ人が出るんだよ。……ああ、武装蜂起集団が噴出してるって言ってたっけ。それか?」
「いえ、兄さんを探していると『弟に近付くな』とつぶやきながら襲ってくるおばけが出るらしく」
「……」
すべてがつながっていくこの感じ、非常にイヤ。
「……まあわかった。うん、わかった」
「おばけの正体に心当たりがありそうですね?」
「その話もふまえてちょっと人のいないところで会話したい。イーリィとカグヤと俺の三人だけで。ほら、再会を喜ぶ感じで? そっとしておいてほしいなあなんて」
俺はチラッチラと兵隊さんたちに視線を向けながら言う。
すると気のいい彼らは「お姉さんとの再会だもんな」「わかるよ。甘えたい夜もある」「あとで英雄のところにも顔を出してやってくれよな」と去って行った。
話がわかるのはいいんだが、イーリィが俺を『兄さん』と呼んでいるのに、それでも俺を弟呼ばわりするのはどうなんだ。
まあ見た目は俺よりイーリィのが年上っぽいんだけどさ。
みなさんが去って行ったのを確認してから、
「イーリィ、お前なら予想がついてると思うが、俺は今『真白なる夜』に協力してる」
「……いやいやいや!? 予想ついてませんよ!? 私をなんだと思ってるんですか!?」
「だって拉致されて無事なんだからほとんどピースのそろったパズルだろ。お前ならわかると思ったんだがな……まあ、お前は常識的思考に目を曇らされるところあるから。そういうとこだぞ本当に」
「え、ごめんなさい……?」
「つーわけでお前も来いよ。一緒にこの街をぶっ壊そうぜ」
「兄さんはまたそういうことをする! たまにはお邪魔した団体を破壊せずに平和裏に発とうとかなさらないんですか!?」
「仕方ねーだろ、面白そうだったんだから」
「兄さん……こんなこと言うと意外に思われるかもしれませんが……」
「なんだよ」
「兄さんがお邪魔した団体には、法があって、生活があるんです。壊したら迷惑する人もいるんですよ」
「俺のもといた世界には『旅の恥はかきすて』っていう素晴らしい言葉があるんだ」
「それは『お邪魔した団体をいちいち破壊しなければならない』っていう意味ではないですよね?」
「似たような意味だよ。……とにかくさ、俺は今そこで、アジトの一つを任されてるわけなんだが……」
「どういう昇進スピードですか。というか行方不明になってそんなことをしてたんですか!? 兄さんはなにになりたいの!?」
「俺はでっかい男になりたい」
「もうあきらめましょうよ……十五歳ですよ。伸びませんって」
「身長の話じゃねーよ。もっとこう、心の……そんなことはいいんだ。そこには『魔族』って呼ばれてる連中が集まってて助け合ってるんだよ。心を打たれたね。そういうわけで俺はあっち側だ。お前がこっち側に残るんならまあいいけど、敵同士だからよろしくね☆」
「ウィンクしてもかわいくないですよ。……もう! もうもうもう! 兄さんはまたそういうめちゃくちゃなことをして!」
「あーあーあーあー! 聞こえないキコエナーイ!」
「大人しく私とダリウスさんのところに行きますよ!」
「やだーやだー! 俺は革命するのー! 街の体制を根こそぎぶっ壊すんだーい!」
「子供みたいにだだをこねないで! カグヤちゃんの教育に悪いでしょ!?」
「カグヤは俺についてくるもんねー」
な? と頭をなでる。
俺の胸に顔をうずめっぱなしのカグヤは、俺を見上げると、こくりとうなずいた。
俺は勝ち誇った。
「ほらー! 二対一で民主主義なら俺の勝ちだぞ!」
「知りませんよそんなの! ……それで、今度は誰に肩入れしてるんですか?」
「は?」
「兄さんの行いは、今まで必ず誰かのためではあったじゃないですか。今度は誰のために街を壊そうとしてるのかなって」
「……いやいや。俺は悪党だぜ。嫌いなんだよ、そういう『悪の側にも事情はあるんです』みたいなの。気まぐれでいいじゃん。悪事に信念なんかいらねーんだよ」
「最初は私のためだったじゃないですか」
「結果的にそうなっただけだ。そもそも俺的に言えば、お前は実際のところ迷惑してるんじゃねーかって思ってるぐらいなんだぜ」
「次は……サロモンさんのためだったでしょう?」
「あいつのためぇ? 俺がぁ? そうかぁ? 議論の余地なくあいつのためじゃねーだろ」
「『結果的に』そうなっています。サロモンさんは道中、ずいぶん楽しそうですし。ほら、よくわからない呪文開発の時とか……」
「じゃあ次がダヴィッドのためだと?」
「そうですよ」
「ないない。そういうんじゃねーよ。俺は気まぐれで動く。人には好き勝手生きる権利があるんだよ。信念を貫くのも自由。想いを遂げるのも自由。なら、それらを気まぐれで台無しにするのも自由だ」
「気まぐれのおおもとである『気分』は、どこから生じてるんですか?」
「……」
「あるはずでしょう、気まぐれの理由」
……うーんこの、面倒くさい考え方!
なるべく頭を止めて口から出任せだけで生きていきたいんだけれど、そう言われるとついつい思考を始めてしまう。
立ち止まって考えるとか俺らしくねーと思うんだが、イーリィは先生的っつーかお姉さん的っつーか、他者に『考えさせる』ような話し方をするんだよな。
「お前はちょっと俺のことを聖人視しすぎじゃないか? 俺はお前が思うほどいいやつじゃねーし、お前が思うよりずっと、ものを考えないタイプなんだぜ」
「考えたすえの行動じゃないなら、余計に損得じゃないものがかかわってくると思います」
「……」
「私が兄さんの旅に同行したみたいに、『そうしたい』と思うようななにかがあるはずです。言葉にできなくっても、なにかが、絶対に」
「……わかったわかった。待ってろ今、お前が満足しそうな理由をひねり出すから。……よし、そうだな。俺はまあなんだ、『真白なる夜』の連中が好きなんだよ」
「不遇な人たちなんですね」
「俺が味方する人がみんな不遇みたいな言い方はよせ」
「いつも不遇じゃないですか。サロモンさんもダヴィッドさんも……」
「いいかイーリィ、不遇っていうのはようするに『現在いる環境で力が認められてない』ってことだ。俺がなんとなくぶっ壊すのが『現在いる環境』である以上、俺の賛同者は自動的に不遇になるんだよ」
「ようするに不遇な人じゃないですか」
「……まあそうなんだけどさ」
幻惑するような言い回しをした気がするんだが、本当に最近のイーリィは騙されてくれない。
ただ『僕は不遇なみんなの味方ダヨ!』みたいなヤツだと思われたくないんだ。
この細かなこだわり、わかってくれ。
「つっても俺、ダリウスのおっさんも割と好きよ。あのオールバック細目の筋肉ダルマ。いいよねなんか強そうで。っていうか強い。重さがある。歴戦の猛者って感じ?」
「兄さんが誰かと戦う動機はいつも『好きだから』ですよね」
「まあ略奪者だからな。嫌いなモン奪ってどうすんだって話だよ。っていうか嫌いな相手に費やす時間なんざ人生には一秒だってねーんだよ。『お前が嫌いだからお前を否定する』って永遠に終わらねーじゃねーか。どんなモンにも好きになれる箇所はあるし、嫌いになる箇所だってあるんだ。俺はイーリィのこと好きだけどお前の全部が好きなわけじゃねーんだぞ。嫌いなとこに注目するより好きなとこに注目する方が人生お得だろ?」
「私だって兄さんのこと好きですけど、兄さんの大部分は理解できませんよ」
「全部好きなのはこの世でカグヤぐらいだよ」
「ですね」
俺たちはカグヤをなでさすった。
しばらくして、
「俺がこの街で壊したいモンは二つだ」
「…………この街と私の胃ですか?」
「お前の胃なんざいつでも壊せる。そうじゃねーよ。もっと特別なモンだ。この街にしかないレア度の高いモンだよ。わかんねーか?」
「……船?」
「『真白なる夜』」
「肩入れしてる組織なんじゃないんですか!?」
「好きだから肩入れするし、好きだから壊す。ああいや、『壊す』って表現が悪いな。『奪う』んだ。壊さない。奪うのが目的で、過程で壊れることがあるだけ」
「より悪辣なんですが!?」
「悪辣、いいじゃねーの。悪が悪辣でなにが悪い」
「……で、理由は?」
「ねーよ」
「強いて言えば」
「はーめんどくさ! ……そうだなあ……ダリウスのおっさんを倒したとしても、次は『真白なる夜』がこの街を確保しちまう。そうしたら奪えない。だから両方まとめて、あるいは時間差でどうにかする。つーか街を確保しそうな組織全部ぶっ壊す! そういう感じで満足か?」
「この街がほしいんですか? 兄さんもついに定住する気に?」
「比喩表現だよ。もっとフワフワ受け止めろ。とにかく奪うんだよ。だってもったいねーじゃん。ダリウスのおっさんにはあからさまに可能性がある。『真白なる夜』の連中は、今の環境じゃ活かしきれねー可能性がある。これらがフイになるほど安定した政権がある。なら可能性のために政権を壊す。うーん、論理的」
「たしかに筋は通っていますね。道義的問題に目をつむれば」
「だろ? で、お前は誰につく?」
「それはまあ、兄さんにつきますが」
「いいの? ダリウスのおっさんのこと気に入ってるんじゃねーの?」
「父さんに似てますよね。でも」
「なんだよ」
「私は父さんより兄さんについたんですよ」
イーリィは笑って言った。
その屈託のない笑顔を見て、しみじみつぶやく。
「たぶんお前が一番『悪』だよな」
「なんでですか!?」




