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3-12

 なお、巨人は必殺の砲を放ったあとで壊れた。


 ダヴィッドもバフをかけるのに限界だったこともあり、物理的にどうがんばっても戦闘なんかできないはずの二足歩行の巨人は、魔力という幻想を奪われた結果、極めてまっとうに自壊したのであった。



「……我の不戦勝か」



 サロモンのつぶやきをみんなで無視して、祝勝会が始まった。


 戻ったドワーフの集落には、そこを重苦しく覆っていた壁は存在しない。

 俺たちが通った道にバラバラとこぼしてきた巨人だったものが、もともと村を覆う壁だったのだ。

 っていうか壁が変形してあの巨人になるというコンセプトだったのに、変形シーンを見逃した。


 俺はタルごと酒を呑んでいるダヴィッドに泣きついた。



「あの巨人、もう一回作ってくれよ。変形シーンを見たかったんだよ……」



 ダヴィッドはあおっていたタルを地面に叩きつけて言う。



「その前にテメェの剣を作らなきゃならねェだろうが」

「あー……」

「勝手に持っていた剣を全部折って帰ってきやがって」



 ドラゴンさんとの戦いに備えてそのへんから拝借(はいしゃく)した剣は、一本も無事に残らなかった。


 俺がコメントに困っていると、祝勝会の主役であるダヴィッドのもとへ新しいタルがとどけられた。

 ダヴィッドは俺がまるごと入れそうなそのタルの蓋を殴って壊し、抱きしめるようにタルに両腕をまわす。


 すると周囲から手拍子と酔っ払いの怒声が響いた。

「酒だ呑め! 酒だ呑め! 呑めなきゃ帰ってねんねしな!」

 どうやら『一気コール』らしい。え、待って、一気すんの? そのサイズを? しかもこの世界観の酒を? アルコール度数めちゃくちゃ高いだろそれ。


 しかしダヴィッドは抱えたタルに口をつけて、あっというまにそれを逆さまにしてしまった。

「プハーッ!」と息をつき、口を腕でぬぐって、少しだけ赤くなった顔をずいっと寄せてくる。



「アタシは作るぜ」

「大丈夫? 酔ってない?」

「ハン! このぐれェ水みてェなもんら!」



 舌が回ってねーよ。



「つくりゅんら……アタシは、テメェの剣を! きっとさっきぶっ壊れた巨人よりも大きな仕事になりゅじぇ! なんしぇ、テメェが振っても壊れねェ剣なんじゃ、今までに存在したことがねェだりょ! これからだって、存在しねェはずら!」

「お、おう。落ち着けよ」

「アタシが! アタシが作り上げるんらよ! テメェの剣にょ! にほんとーだがせーけんだかいうアレを……」

「わかった、わかったから絡むな。息のアルコール濃度やべーから」



 たぶんこの村がドラゴン相手にやりすぎなぐらいの防壁を築いたのって、大量の酒を地下に貯蔵してたからじゃねーかな……

 派手に燃え上がるよこんなん。


 ダヴィッドは俺に正面からもたれかかるようにして、そのあともなにか言っていた。

 しかし大半は聞き取れなかった。もう完全に舌が回ってない。


 でも、一言だけ。



「……オヤジ。見てたかよ」



 眠りに落ちる直前につぶやいたその言葉だけは、はっきりと聞こえた。





「まあ守るべき酒も尽きたしな」



 という理由でドワーフたちも俺たちに同行してくれる流れになった。

 が、やっぱり今日明日にも一緒にぞろぞろ行くということはできないらしい。


 人数が増えればフットワークは重くなる。

 たとえば食糧問題。四、五人だと『行く先々でどうにかする』という選択肢もまだ現実的だが、これが数十人単位になると話が変わってくる。


 らしい。

 俺にはよくわからん。



「兄さんはもっと考えてくださいね」



 性格的に不向きでどうしようもないんだ。

 だからこそ、そういった大人数の管理運営ができる人材を俺はことさらすごいと思う。


 イーリィのオヤジしかり、サロモンの兄貴のジルベールしかり、このモンスターあふれる時代に村という集団を管理しどうにか維持してきた連中というのは素晴らしい。

 その才能をもっと大きな場所で活かしてほしいと願うばかりだ。

 俺が王様になったら宰相とかやらせるね。宰相がどういうポジションかは知らんけど。


 で、ダヴィッドが、他のドワーフどもに先んじて、俺らの旅に同行することになった。

 なんでって、現実処理能力がないから。



「みんなで準備とか苦手なんだよ。それにアレクサンダーの剣を作るっつぅ目的もあるしな」



 心強い鍛冶担当の同行――

 これにイヤそうな顔をしたのはサロモンだ。



「武器女め」

「あァ? なんだこの細長(ほそなが)? アタシに文句でもあんのか?」

「ふん。貴様と我とは相性が悪い。同行するのは止めぬが、あまり話しかけるなよ」

「なんでテメェにンなこと言われなきゃなんねェんだよ」

「我になにかを言う前に、さっさとアレクサンダーの剣を作れ。我との闘争に耐えうる剣だ。それができたなら、我は貴様の価値を認めてやろう」

「あァ!?」



 仲、悪っ。


 イーリィは苦笑し、カグヤは二人のあいだでおろおろし、俺は笑った。


 のぼって間もない日差しを背に、人数を増やした俺たちは出発する。


 旅をする。

 世界の果てまでの旅を。

 あるいは、そこにまではいたらないけれど、一生を費やした冒険を、俺たちは続けた。


 まあとりあえずは――

 村を襲ったドラゴンの発生源であろうダンジョンでも、つぶしに行くか。


 きっと死ぬほど楽しいぞ。

次回、四章投稿は1/3、『セーブ&ロードのできる宿屋さん』コミカライズ版更新日の予定です

それではみなさま、よいお年を

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