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「ビームライフルってのはなんだ、その……光か。光で攻撃するのか……ふむ」
ダヴィッドはなにかを考えこみ始めてしまった。
俺は持ちうる限りの知識を彼女にあたえた。
主成分が光なのになぜか光の速度で飛ばない弾丸……
『別に剣のかたちにする必要はなくない?』と百万回ぐらい言われているであろうビームサーベル。
そして巨大人型兵器より強いおさげのオッサンの話、ネタにされるほど自爆しまくった(実際にはそれほどでもない)とある少年兵、月に存在する秘密基地などなどを経由して最終的にダヴィッドが一番興味を示した飛び道具の話に落ち着いた。
「たしかにそうだな。アレクサンダー、テメェの言う通りだよ。人型である必要はねェ。なんだ、飛び道具そのものを移動させる感じで仕上げれば無駄はねェだろうよ。実際、ゴーレムくんは一体作るのに結構な素材を食う。人型じゃなけりゃ素材も少なく済む……」
「そうだよ」
「でも、納得いかねェんだ。ドラゴン殺しっていう目標を甘く見てるわけじゃねェが、ゴーレムくんは人型じゃねェと、うまくイメージできねェっつーか……」
「わかる、わかるぜ。説明なんかいらない。言語化なんかしなくていい。こだわりってのはそういうモンだ。お前がそうしたいならそうしろ。俺は全力で応援する。第一、俺も人型派だしな」
「そうか。わかるか」
「ああ。だいたい効率やらなんやらで戦いを語るのがそもそも間違いだっつーんだよな。戦いなんてのは『戦闘行為』そのものじゃなくって、戦闘をする連中のすれ違いを見て楽しむモンだろうが。『人が乗る必要ない』とか『人型じゃなくていい』とかもまあわかるが、人がかかわらなきゃドラマ的価値がねーし、人型じゃないと人間ドラマとして見るのにコストかかるだろ」
「そのへんはさっぱりだが」
「この世界に映像記録媒体とそれを見る装置がありゃあな……絶対に見た方が早いんだが」
「だが、一つ、テメェの話を聞いてて確信したことがある。――超弩級威力の大型兵器ってのは、なんだ、素晴らしい」
「デカさはロマンだ」
「ああ」
俺たちはイデの光でわかり合うことができた。
あるいは波動砲の残光だったかもしれない。
「アタシは当初、たくさんのゴーレムくんを並べて、全員に飛び道具を持たせて、それでドラゴンを迎え撃つ予定だった」
「そうだな」
「だが、考えが変わった……んな細々したことはしなくていいんだ。デカいゴーレムくん! デカい飛び道具! これでいい。これが、いいんだよ」
「そうだな!」
「だいたい、相手がデケェんだ。こっちが縮こまる必要なんざねェ。相手のデカさに合わせてやる。……よし、そうと決まりゃあさっそく、テメェらが散らかしたゴーレムくんたちを集めて再生に入る。アレクサンダー、テメェも手伝え」
「もとよりそのつもりだ。あとさ」
「んだよ」
「村の連中にも手伝わせようぜ」
「……あー」
ダヴィッドのテンションが急に下がった。
「あのな、アレクサンダーよ。そりゃあ無理ってもんだ。村の連中はドラゴンを倒すつもりがねェからな」
「そこが疑問なんだけど、なんで倒す気ないんだ? 脅威であることは間違いないんだろ?」
「村がドラゴンの炎によって発展したからだよ」
「……うん?」
「ドラゴンの炎を防ぐために、村は丈夫な壁を作らざるを得なかった。……が、皮肉なことに、そのために技術の研鑽が行われて、村は栄えた。武器と盾のお陰で狩りはすいぶん簡単になったし、ドラゴンが燃やした森跡地では作物がよく育つ。そもそも、金属の鍛造に使う温度の高い炎は、ドラゴンの息吹なんだ。脅威ではあるんだが、恩恵を与える存在でもあるのさ」
「なるほどね。ドラゴンが、この村にとっての神なのか」
「……神ねェ。それがなんなのかはよくわからねェが、少なくともドラゴンの炎によって立場を確立した連中は、ドラゴンに感謝こそすれ、倒す気はねェだろうな」
「はーん」
「面倒くせェんだよ。そういう……権力者? を説き伏せて、大々的に呼びかけてっつーのは……だからアタシは一人でやってる」
「ちなみにあんたのモチベーションを支えてるのはどんなもの?」
「親の仇だ」
「……」
「オヤジは打ち手として一流だった。アタシはその才能を継ぐことはできなかったから、仇ぐらいは討ってやらねェとな。……動機が陳腐で申し訳ねェが」
「いや。人が願いを抱いた理由に、陳腐も珍奇もあるもんか。他人でしかねー俺は想像しかできないし、きっとあんたの気持ち全部はわかってやれねーけどさ。きっとそれは、あんたにとって長い時間と情熱をかたむけるほどのものだったんだろうってのはわかるよ」
「……そうかい」
「そして俺はそういうのを手伝うのが割と好きだ」
「……」
「村の連中は俺が説き伏せる」
「……いいよ。面倒くせェ」
「でもさダヴィッド、想像してみろよ。デカいゴーレム。デカい兵器。……今、ここにある素材だけで、いったいどれだけのものが作れる? ……あんたが手持ちの素材料から算出して製作しうる『デカいゴーレム』は、本当に満足いくほどのデカさなのか?」
「……それは」
「夢を見ようぜ」
「……」
「思い描いてみてくれよ。この村だ。この堅牢な壁に包まれた、ドラゴンの炎により作られた村が――変形してゴーレムになるんだ」
「……!?」
「ガシーン! ガシーン! どういうギミックかは俺には想像できねーけどさ。このドーム状に壁に覆われた村がだぜ、巨大人型兵器になる。んで、それが空から来るドラゴンと取っ組み合うわけだな」
「……」
「一歩ごとに大地が揺れる! 一撃ごとに空気が震える! 肉を叩く音が響いて、この村が、この村の変形したゴーレムが、ドラゴンをたたき伏せる! なんつー皮肉だ! ドラゴンは自分の炎で育てた村そのものにやられるんだぜ!」
「……」
「よくないか?」
「…………非常にいい」
「よし、やろう」
「……だが、村の連中の説得なんかできるのか? 悪いがアタシにゃ想像もつかねェよ、この村の辛気くさいやつらが『よし、みんなでドラゴンを倒そう』ってなる姿が」
「ダヴィッド……今まで黙ってたことがあるんだ」
「なんだよ」
「俺は悪党だ」
「……」
「説得は試みるけど、正直、俺もどうしたらこの村の連中を説得できるかわからん。まあ時間をかけりゃあ可能だとは思うが、あんまり時間もかけたくない。しかし巨大ゴーレムvsドラゴンの怪獣大決戦は見たい……そこで手早く村の連中に言うことを聞かせるにはどうしたらいいか? わかるか?」
「どうすんだよ」
「略奪するんだよ」
「……」
「武力で征圧して、村そのものを一切合切奪うのさ。大丈夫だって、安心しろよ。殺さずに征圧できるぐらいの実力が俺らにはある。その実力でドラゴンを倒せとかは言うなよ。それじゃいけないことを、あんたはもうわかってるはずだ。これはあんたの戦いだ。そして巨大ゴーレムvs巨大ドラゴンで決着しなきゃいけねーんだ。わかるな」
「……ひょっとしてアタシは、とんでもねェ連中とかかわったのか?」
「どうする? やめるか? あんたが描いた夢は、常識やら正義やら倫理やらがブレーキになる程度のモンか?」
真正面のダヴィッドの目をじっと見た。
赤茶色の瞳を持つ女ドワーフは、
「クソが。……アタシも征圧を手伝う。なにすりゃいい?」
ニヤッと笑った。




