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3-1

「やっべえ、剣が折れてるとクソ戦いにくい」



 こんな時代なので仕方ないのかもしれないが、最近常になにかに困窮(こんきゅう)している。


 サロモンたちのいた村から西へ歩けば意外とすぐに『恵み』に出会えた。


 森が広がり、小高い山などが存在する一帯は、視界が悪いものの食べ物は多い。

 モンスターも多いのが難点と言えばそうなんだが、俺とサロモンの力が合わさればなんだってできるっていうかサロモンが飛び道具で全部しとめるので俺がヒマ。


 なので俺は活躍できないのを剣のせいにすることにした。


 ほぼ根元から折れてる剣は『柄が長くて鍔のでかいナイフ』という感じで戦いにくいのも事実なのだ。



「……やはり貴様と十全なる闘争をするためには、貴様の剣をどうにかせねばならんな」



 サロモンが不満そうな顔で述べる。


 なんでもかんでも闘争扱いするこいつは、モンスターが出ると当然のように『どちらがより多くモンスターを倒したか』を闘争化する。

 バトルマニアっていうか競争好きなわけだが、いざそうやって勝敗があるものと定められると俺も負けたくないもんで全力を出す。


 しかしそれでも負ける。


 ……いや、だってサロモンが弓で俺が剣だぜ?

 間合いが全然違うって。負けるだろ。


 だがしかし負けて当然な条件が整っていたって素直に負けを認めるのは悔しいもので、だから俺は負けるたび『武器が折れてなきゃなー! かーッ! つれーわ! 武器が折れててつれーわ!』ってやってる。


 負け惜しみだった。



「しかしサロモンよ、剣の修理ってちょいちょいとできるわけじゃねーぞ。それに俺の今の腕力で折れない剣は、この世界の技術レベルだとだいぶ難しい。鍛冶について詳しいわけじゃねーが、炎の温度が低いと金属に不純物が混ざって丈夫さが下がるし、そもそも『折り返し』ができる技術がないし、ねばり(・・・)もないんだよ」

「ふん。武器などに頼るからそうなる」

「お前だって普段は普通の弓矢使ってるじゃねーかよ。面倒くさくねーの? 倒したモンスターからいちいち矢を回収するの」

「我が真なる弓は放つ相手を選ぶのだ。雑魚を相手に用いるものではない」

「こだわりがあるのか。そういうのは全力で評価するぜ。やっぱり普段使いにしちまうと必殺技感下がるもんな。わかる」

「おおむねそういうことだ。……ふっ。我が真なる弓の姿を開陳(かいちん)するのは、我が定めた強敵相手のみよ。森のモンスターどもにその資格はない……加えて述べるならば貴様の言うところの『魔力』を矢にするのは神経を使うので疲弊(ひへい)するのだ」



『魔法を使う』サロモンに話を聞いて分析したところ、どうにも魔力は『イメージを具現化するためのエネルギー』っぽい。


 サロモンぐらいの魔力(無限)があったらいちいち矢のかたちをとらずにそのまま垂れ流しても強そうなのだが、そういうことはできないらしい。


 魔力を現象として世に放つには、なんらかのかたちを――ようするにイメージの具現化という手順をとる必要があるようだ。


 そう考えると村の人々の魔法が妙に弱かった――種火(おこ)し程度しかできない――のも納得できる。


 なにせ彼らは『ファイアーボール』とか『ウインドカッター』とかを知らない。


 普通に生活してて『相手を焼き尽くす巨大火弾』やら『相手を切り裂く風の刃』やらを目にする機会はないし、そもそもそういった現象を想像をする機会もない。


 なので未だ魔法の発展してないこの世界において、サロモンの中二臭さは立派で偉大な力となっている。


 だって普通に生活してて『たくさんの矢と巨大弓で闘う自分』を想像する機会なんかないだろ。


 そんなの想像するのは中二病か中二病で創作癖のあるやつぐらいなもんだぜ。すなわち黒歴史こそが最強。


 ……ただし、俺は、なぜか、魔法を一切使えない。

 黒歴史じゃあそんじょそこらの連中に遅れをとるつもりはないんだが、どうにもうまくいかないのだ。


 まあ、『口減らしに出された代償』とか『不死身の代償』とかそういう感じでごまかしてはいたけれど、俺が魔法を使えない理由は、俺自身にさえわからない。


 異世界転生者であることが関係してるのかもしれない。

 MP自体はあると思うんだけどな、俺にも。

 MP切れすると人類って気絶するわけだしさ。MPなかったら俺、常に気絶してる人だと思うよ。


 自分のステータスを閲覧できたらすぐにわかりそうなもんだが、それだけはできないので、謎は深まるばかりである。


 そんなふうに戦闘後にしゃべっている俺たちに、声がかけられる。



「サロモン」



 この舌足らずな幼い声は、パーティーのアイドルことカグヤである。


 カグヤが話しかけた相手が俺ではなくサロモンなのは解せない。

 なぜなんだ。戦闘の疲れをねぎらうなら、無愛想でまともに会話もしないサロモンより断然俺だろ。いじけるぞ。



「サロモンは、その、矢、ばーってやる、あれ、どうやっておるのじゃ?」

「…………」



 サロモンが困惑してる。

 俺とイーリィはカグヤがかわいくて悶えている。



「ばーってやる、あれ」



 カグヤは両腕をいっぱいに広げて『ばーっ』を表現した。

 俺とイーリィがかわいさのあまりに死にそうになっている中で、無愛想な男は憮然と言う。



「『矢、ばーっ』ではない。我が真なる弓の名は『果てなき闘争』だ」

「『はてなきとうそう』」

「……違う。もっと気合いを入れて呼べ。我が真なる弓の名だ」

「『はてなきとうそう!』」

「……わかった。もういい。貴様の声質では不可能だ」

「わらわは、がんばるぞえ」

「……おいアレクサンダー、どうにかしろ。我は女子供との会話は好かぬのだ」



 まあ苦手そうだよな。

 しょうがないので助け船を出すことにする。



「あーサロモンよ。つまりだ、カグヤはこう言いたい。『自分もアレやりたい』って」

「不可能だ。あれは我が真なる弓。我が心象風景の具現化である。我ならざる者に真似(まね)できるものではない。そう伝えろ」

「いや、目の前にいるんだから聞こえてると思うけど」

「……あと、我をジッと見上げるのをやめさせろ。無遠慮(ぶえんりょ)な視線を我は好まぬ」



 いいじゃねーか、かわいいだろ。俺たちの妹だぞ。


 ともあれサロモンの言うことには一理ある。


 魔法がイメージを具現化するためのものならば、たしかにアレはサロモンだけのものだ。

 魔力に弓矢という形式をとらせるのも、サロモンが普段から扱っているものが弓矢だったからだろう。


 だいたい、あんだけ無駄に矢を展開できるのはサロモンの魔力あってのことだ。

 通常の魔力量しかないやつがマネしたとしても、すぐにMPが枯渇して気絶するのがオチだ。


 そしてカグヤには、MP総量も含め、おおよそ戦闘方面の才能がない。


 ……まあ、才能って言うのは早計か。これから伸びるかもしれないからな。

 俺はたまねぎ剣士を思い出した。


 俺たちとの旅でカグヤのレベルも上がっているが、ステータスの伸びは俺やイーリィに比べてゆるやかっていうか『無』に等しい。

 しかしカンスト間近で急激に伸びる可能性だって捨てきれないのだ。


 まあ、いくらステータスが伸びようが魔法という概念の開発自体が十全ではないこの時代だ。

 カグヤがやりたいらしい魔法使いにジョブチェンジするためには、ひと工夫必要だろう。


 魔法ってのはイメージの具現化だ。

 じゃあどうやって『イメージを強固に抱くか』ってことになるが……

 アレだな。



「カグヤ、アレクサンダーお兄ちゃんがお前にアドバイスをやろう」

「なんじゃ?」

「サロモンみたいなことは、お前にはできない」

「……わらわは、戦いができないのかえ?」

「俺の個人的願望を語るなら、お前に戦いはさせたくねーんだが……まあお前には戦いを志す自由がある。そこでアドバイスだ。お前に『呪文』という概念を教えよう」

「じゅもん」

「そうだ。魔法はイメージを魔力により具現化することで成立するっぽい。ってことはだ、強固なイメージを抱きやすい文言を唱えることで、あるいは『その文言さえ唱えればこんな現象が起こる』と信じることで、おそらく『強敵を一撃で焼き尽くす火の弾丸』とか『相手を細切れにする風の刃』とかを起こしやすくなるはずだ」

「強そうじゃのう」

「そうだ。問題はお前が描けるかどうかだが、想像力に自信は?」

「……そうぞうりょく」

「ふとした瞬間に物語を描いたりそういう力だ」

「よくわからぬ」

「よし、じゃあ、言葉から入ろう。試しに念じてくれ。『強い火の弾出ろ。出ろ』」

「出ろ……出ろー」

「……出そう?」

「出なさそうじゃ」

「うーん……もっとこう、なんかいかにも強そうな火の弾が出そうな感じの言葉があればいいんだがな……」



 やはり必要なのはポエムか。

 しかしポエムセンスは俺にはない。


 俺は前の世界で耳にした数々の呪文を思い出す。

 ああいうのどこから拾ってくるんだろう?

 作者が考えるのか。脳のどこからひねり出すんだよ。たぶん俺にはその神経回路がない。


 カグヤと二人で顔を突き合わせて「でろーでろー」と唱えていると、



「――強壮なる火炎よ」



 ボムッ! という音とともに、俺たちの頭上に火球が出現した。


 ちなみに今、森の中にいる。



「馬鹿! 誰だ! 消せ! ああっ、木が、木が!」

「う、うむ、待て、本当に出るとは思わなかったのだ。(しず)まれ……火炎よ鎮まれ……」



 声はサロモンのもので、鎮まれと言ったら本当に鎮まった。

 俺たちは木の葉に燃え移った火を剣で叩いたり弓で吹き飛ばしたりして消火し終えてから、



「おいサロモン、お前すげーじゃねーか。どうやったんだ今の」

「なんということはない。そう、我は幻想の中に燃えさかる大地を見たのだ。大いなる炎。燃えさかり消えぬ平原。枯れた荒れ野の中から、その炎をすくいとる……すると、すくいとった炎がそこに出現した。それだけだ」

「意味が全然わからんが、一つだけわかった。お前には魔法開発の才能がある」



『魔法の才能』と書いて『中二病』と読む。

 というかどういうことだよ。こんな娯楽もない時代にどうしてそこまでの想像ができる? なんだよ『燃えさかる大地』ってどこから出てきた? 天才かよ。尊敬の念が尽きねーわ。


 サロモン先生による解説が始まる。



「強そうな炎を想像したのだ。それはやはり、強いのだから消えぬのであろう。そして、大きなものを燃やし続けているはずだ。我の知るもっとも巨大なものは、大地に他ならぬ。我が炎は大地を焼き尽くすのだ」

「お前、魔法を開発してくれ。アイデアのとっかかりは俺がやる。話をしよう! 聞かせてやるぜ。決して溶けない氷の矢! どこからともなく現れ相手を突き刺す岩の槍! それこそ大地すら燃やし尽くすような炎、そしてエターナルフォースブリザード」

「エターナルフォースブリザード!」

「長大な剣を操る片翼の男の話をしよう」

「長大な剣を操る片翼の男!」



 中二病が食いついてきた。

 ならば森を抜けるまで話し尽くそう。

 それはとあるファンタジー。

『最後の』という名を冠しながらいつまでも終わらない幻想の物語――

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