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アレクサンダー建国記(旧バージョン)  作者: 稲荷竜
二章 はぐれ者ども
12/73

2-5

 カンカンカンカンカンカンカン!



「ほら、村あったぞ。え? 知ってたのかって? 知るわけないじゃん。ただの偶然だけど結果的にあったんだからいいだろ?」



 ちょっとうるせーけど村は発見した。


 そこは分厚く高い木製の壁に囲まれた大きな集落で、壁の向こうには物見櫓のようなものも見えた。

 さっきからけたたましく鳴ってるのは警鐘かな? 外敵の襲来とかを村中に告げるためのアレね。

 物見櫓にはあっという間に人が配置された。


 エルフだった。


 耳が長くて全員が女顔のイケメンだ。

 装備は弓。


 高所、壁、弓。


 しかも引き絞られたそれはやじりを俺たちに向けてるし、なにより連中の俺らを見る目がモンスターに向けるような感じだった。

 おうおう、すごい歓迎じゃねーの。心折れそう。



「んじゃ行くか」

「兄さんはこの状況でためらうとかなさらない?」

「話し合いで人はわかりあえるからな」



 俺が言語の尊さを説いていると、集落側から声があがった。



「止まれ! それ以上近付くと、害意ありと見なすぞ!」



 金髪碧眼トガリ耳の、男だった。

 髪の長さは肩までぐらいで、容姿的にはまあ、周囲の『その他大勢エルフ』とあんまり見分けもつかない感じ。

 だが、他のエルフと違ってでかい羽根みたいなの頭のバンダナ? に差してるから、きっと偉いんだろう。

 それよりも重大な事実だ。



「おー、やっぱり言葉は通じるのね。それに、エルフに弓、と」



 この世界は、誰かによってデザインされた感がある。

 人間がいてエルフがいて獣人がいてドワーフがいる(ドワーフは未確認だがきっといる)。


 俺が前世を過ごしていた世界のゲーム感というか、お約束感があるのだ。

 まあ、まだ未確認なところも多いのだが……


 ただそうなるとモンスターとダンジョンが余計で、俺のやってたゲームにはそういった害意は存在しなかった。となると計算違いか、バグか。

 味もまずいしモンスターはマジでバグなんだよなぁ……仮に創造主がデザインした通りの存在だったら、せめてもっとおいしく作ってどうぞ。



「カグヤちゃん、今の兄さんの発言は適度に無視した方がいいですよ」



 声に出てたらしい。

 このように俺はしゃべってるつもりのないことが勝手に口からこぼれてることがままある。

 抑えがきかない体になってしまったのだ。心のタガは前世に置いてきた。



「警告はした! 言葉が通じない者、モンスターとみなす!」



 矢が放たれた。

 ためらいなどない、やぐらに立った全員からの一斉射撃だ。


 見た目子供の俺にも容赦がねーのがなかなか好感持てる。

 ただし一点、どうにも致命的な間違いを犯しているようなので訂正を求めよう。



「悲しいねえ。俺の脅威を、モンスター程度と一緒にされるなんてさあ!」



 背負った剣を抜き様に放つ。

 風圧で矢を蹴散らす。


 死なないのと手足がバラバラになってもイーリィに治してもらえるのをいいことに、死ぬような戦いを繰り返して鍛えに鍛えた力だ。


 相変わらず俺自身のステータスは見えねーが、モンスターのステータスから逆算した予想値と、エルフどものステータスとを比較すれば、俺にとって連中の攻撃は脅威じゃない。


 ただし。


 カキン、と剣に一矢だけが当たった。

 すべてを風圧で吹き飛ばす算段だった俺の、唯一の計算違い――いや、計算通りの一矢。


 それはともかく。



「っていうか食糧分けてもらいに来ただけだっつーの! いきなり矢を射かけてくるなよ!」



 子供みたいな見た目だってだけで侮らなかったのは好印象だが、そもそもいきなり矢を射かけてくるのがNGだ。

 こんにちは、死ね! とかされてキレない方が難しい。

 俺はいいけどカグヤとかに当たったらどうすんだよ。防ぐけどさあ!


 ぶち切れる俺に、村を警備するエルフの隊長っぽいヤツは言う。



「食糧は分けられない! 帰れ!」

「わかったよ。まあ、そうだな。こんな時代だもんな」



 会話で終わるじゃねーかよ。

 矢を射かける一手間、必要だった?


 ……必要ではなかったんだろうが、無駄でもなかったのでよしとしよう。


 俺はステータスを閲覧できるし、数値からある程度の力量を、スキルから技術を推し量ることができる。

 でも、実際に攻撃されてみないと実感できないことがあった。


 思った通りだ。


 いや、ひと目見てから気になってたんだよねアレ。


 あの、一人だけ髪も服の丈も長すぎる、明らかに周囲と風格の違うエルフ。



「あんたら、そんなとこに閉じこもってて、もったいないと思わないのか?」

「なんだいきなり」

「このへんの土地に入った途端にモンスターの姿が消えたんだ。――アレ、あんたらがやってたんだろ?」

「は? ……まさか……!」



 隊長風の男は、なにかに気付いたように背後を振り返った。

 そこには、髪の長いエルフがいる。

 隊長でもねーくせに、隊長以上にオーラのある男だ。



「特にそこの髪の長いあんた」



 そいつは、冷たく俺を見下ろしていた。


 この世界全部に興味がねーみたいな碧眼。

 風に揺れる、長すぎる金髪。

 周囲の連中が軽装なのに、そいつだけロングコートみたいな暑苦しいマントを着込んでいた。


 俺はああいう、人と違うやつが大好きだ。



「あんたの矢が、一番、俺にとどきそうだった。……俺があんたぐらいの腕の持ち主なら、こんな狭い村暮らしに飽き飽きして飛び出すけどな。っていうか、俺は、実際、飛び出した」

「……」

「性格の違いかねぇ。あんたがこんな場所でくすぶってるのは、もったいないと、俺は思う」



 無言である。


 でも、確信がある。

 あいつは今、絶対に俺の話を聞いている。俺の発言次第ではなんらかの動きを見せる。


 だって絶対にこんなところにとどまってるヤツじゃねーもん。


 きっと、このあたりのモンスターを絶滅させたの、あの髪の長いエルフなんだ。


 隊長格の男の反応で確信した。

 あの髪の長い男は、モンスター狩りをしてる。それも村のためじゃない。自分のためだ。


 あいつは趣味で自分を鍛えてる。

 あるいはモンスターを狩ること自体が趣味だ。


 だってエルフたちの平均レベルを見てればわかる。

 髪の長い男ほどの強さは必要ないはずだ。だというのにあいつは自分を鍛えてる。

 なんのために? それはわからない。


 だから誘う。


 あいつはきっと、広い世界に出ていくべき人材だ。

 どいつもこいつもそうだけれど、あいつが一番、現状に満足してない。


 っていう方針で勧誘してみようと思う。

 まあスベっても損はないし、回せるだけ口を回そう。



「なあ、もしよかったら、あんただけでも、どうだ? 俺と一緒に、世界の果てを見に行かないか? この世界には面白いものも、不思議なものも、なんでもある。広く、わけのわからない世界――一箇所にとどまってるのは、あんまりにももったいないだろ?」



 まだ無言。

 そしてこちらを見下す表情もこゆるぎもしない。


 スベったかもしれん。


 まあよくある。

 こちとらなんの事前情報もなく断片的な情報をつなぎ合わせた推測をもとに勧誘してる身だ。反応があればラッキーぐらいの方針で押していこう。

 次の言葉を語ろうと思ったのだが、



「耳を貸すなサロモン!」



 俺にはわからない感情の機微が、隊長格の男にはわかったんだろう。

 その叫びは、今にも行動を起こしそうだったらしい髪の長い男――サロモンを止めようとした。

 でもそのタイミングで耳を貸すなとか言われたら、俺なら逆らうけどな。


 サロモンは果たして、俺と同類か否か?


 結果はすぐにわかった。


 サロモンは、長い髪と衣装をふわりと揺らしながら、やぐらから飛び降り、あんまりにも静かに、壁の前に着地して――

 俺を、真っ直ぐに見つめた。



「面白いものならば」

「……あん?」

「面白いものならば、目の前にある」



 弓を引き絞る。

 矢はとうにつがえられている。


 やじりは俺へ向いている。

 それ以上に、殺意みたいなものを、ビシビシと肌に感じる。


 熱烈じゃねーか。

 これは応えてやらなきゃいけないだろう。


 俺の方針は完全に『応戦』で固まっていた。


 なぜって俺は、あいつが大好きだから。


 どれだけ互いを知ってるかとか、どれだけ長い時間を過ごしてきたかとか、そんなモンは関係ない。


 現状に満足できてなかったあいつが、満足できる可能性を俺に見出してくれている。

 それさえわかれば付き合うのに否はありえない。


 いいでしょう、俺の不死身はこういう時のためにある。戦いがお望みなら死んでも死んでも付き合ってやろう。


 でもちょっとだけゴネておく。



「高所の優位を捨て、遠距離の優位を捨て、壁の優位を捨て、俺とおんなじ地平に立ってもらったところで申し訳ないんだが――俺にはあんたと戦う理由がないんだけど? ほら、ご飯がほしくて来ただけですし」

「我に勝てたら食糧をやろう」

「よっしゃ、やろう」



 サロモぉぉぉぉぉぉん! という隊長格の男の叫びがゴングになった。



「さあ、面白いことを、やろう。――闘争だ、強敵よ!」



 矢は放たれた。

 真っ直ぐに俺を目指して。

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