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全裸になってしまったことも、生存本能




個性とは、生命が生き延びるための手段なのだという。

例えばパンデミックが発生したとき、同個体で抗体を持っていないのだとしたら、その全てが等しく死んでしまう。

万物に共通する生存本能が、個性を創造した。

そう、アニメが好き、漫画が好き、テレビゲームが好き、数学が少し得意で、運動が苦手、情報系の会社に勤める父親と専業主婦の母親と転職活動中の姉とペットの猫と共に暮らし、就職活動中の大学三年生の俺という個性も、人類の持つ生存本能の現れであるはずなのだ。





「はっ!」

覚醒。耳に飛び込む川のせせらぎ、背中に感じる草の感触、目に映る青空。きれいだなあ。なんて平和な世界だ。

違う違う、そうじゃない。俺は慌てて身体を起こす。ここはどこだ。俺は誰だ。いや俺は神田翔悟だが。大学三年生。就活中。まだ内定は出ていない。


最近はとても疲れていた。噂には聞いていたが、就活というものは非常にメンタルを持っていかれる。かつて絶望の心地だったはずがすっかり慣れてしまったお祈りメール、徐々に地獄から離脱していく友達、取り残される恐怖、将来への不安……。だから現実逃避で東京というコンクリートジャングルを抜け出し、大自然の真ん中で全てを投げ出して意識を失っていたとしても、納得できる範囲だった。俺のメンタルはそこまできていたということだろう。


しかしそれにしたって、首の閉まる心地のリクルートスーツまで嫌になって、引きちぎってしまったのだろうか?

俺は全裸だった。


やばい。それはまずい。

百歩譲って複数受けすぎてもはや区別のつかないどこかの企業の面談をすっぽかして夢遊病のように無意識のまま東京を脱出して自由を象徴した大自然に転がり込んだとしても、それはなんの問題でもない。

だがこれは犯罪だ。人に見られたら一発で通報されてしまう。言い訳だって苦しいかもしれない。俺もよく覚えていませんが、いつの間にか全裸になっていたんです。いやあ、就活って辛いですよね。フヒッ。オタク特有の早口で。俺の経歴には傷がつき、ますます遠のいていく就職。よくわからない漠然とした不安。


俺は慌てて着ていたはずのスーツを探した。もしくは身を隠せるもの。このままでは東京に帰ることすらままならない。スマホすらない。最悪だ。服は捨ててもスマホは捨てるな。これは一生教訓にしていく。


「にーちゃん」


終わった。

今明確に俺の人生は終わった。

全裸の俺の背後から聞こえた幼い声。ゆっくりと視線を向けると、大きな目の可愛らしい褐色をした小学生くらいの幼女が、全裸で、あどけない笑みを浮かべて立っていた。


終わった。






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