第9陣:また会う時まで
ドレイク:眼鏡を掛け地味な色をしたコートを羽織る中年の男性。
強い意思を持ち何らかの理由でアグニカ帝国の敵として登場。役割は主に参謀を担っているとの情報。
「邪魔。消えて」
帝国軍に勤める兵士が続々とやられていく中で淡々と狼型の機械獣を呆気なく消し去り首に一周巻いている白いマフラーをたなびかせるミューに対してクロノはビクビクと震える。
理由は余りにも狂人的な捌きで作業のように葬っているから。
「いや~、怖い怖い。やっぱり戦闘最中のミューちゃんはマジで近寄りがたいな」
怖がりつつも自慢の武器である鎌で狼型の機械獣を真っ二つに切り裂き、首だけを削ぎ落とすクロノの面はどこか冷めた表情をしている。
そんな表情をいつも影で窺っていたミューにとっては慣れた事である。
「クロノ、お喋りはそこまで。さっきから妙な気配が近付いてくる」
「本当か?」
「本当。こちらに向かって来ている。数は1人だけど」
風が妙に吹き付けると共に黒い髪を長く伸ばした片目の女性が鋭利な刃を外にさらけ出して、ミューに対して笑顔で振り撒き複数の従えている狼型の機械獣を後方に下がらせると自ら進んで自己紹介を始める。
「あたいの名前はサソード。あなたみたいな小柄で可愛らしい少女に巡りあえて嬉しいわ」
「ちっとも嬉しくない」
「えぇ、俺は嬉しいぜ!だってスタイルはさながら胸が最高だしな。もし、味方になるなら喜んでウェルカムするぜ!」
クロノの邪な目に呆れ果てるサソードは鋭利な長刀をクロノの首に対象を定める。
「あなたみたいな下品の塊には即刻死んで貰うわ。少女ちゃんは後でたっぷりと遊んであ・げ・る」
「勘弁して欲しいな。女相手に手を振り上げたくないのが正直な気持ちなんだけど」
「偏見は嫌いだよ!!」
長刀を一振りするだけで無数の斬撃がクロノへと向かっていく。この攻撃に対してクロノは渋い表情をしながらも正面に防御の魔法陣を展開して回避に専念すると空中に高く舞い上がったサソードは次なる一手を放つ。
「散りな!」
「野郎」
しかし、その直後に向かってきたミューの攻撃に弾かれたサソードは嬉しそうな表情でミューを全身くまなく眺める。
何だか気持ち悪い視線で見られてしまっているミューは身体全体がブルブルと震えだしていく。
「あはぁ、良いわね。その怖がっている表情……とっても素敵よ。あなたが良ければ食べたいわ」
「気持ち悪い。早く全身を切除して終わりにしたい」
「あのお姉さん、結構えげつないな。ミューに対して完全にあれだぞ」
さすがにサソードの気持ち悪さに身を引いたクロノは今度こそ敵と認識して鎌を頭上で一回転振り回してから、ダガーを持ったミューと隣り合わせで対象をサソードに定める。
「下品の塊は即刻排除。終わり次第そこの少女ちゃんとゆっくりと遊ぶ事にするわ」
「排除されるのはあなた。それに私にはミューという名前が存在する。少女ちゃんでは無い」
「お姉さんとゆっくりと遊んでいたら、試合会場で今も戦っているかもしれないレグナスにどやされる。だから……すぐにでも拘束ぐらいはさせて貰うぜ!」
「私の実力を甘く見ていると後悔するよぉぉ!」
二人相手に笑顔で戦闘を楽しむサソード。対してクロノとミューは気を抜けない戦闘に張り詰められている。
そんな中でミューは戦闘の最中で何処からか侵入してきた巨大な狼型の機械獣が試合会場へとダイレクトに入っていくのが目につく。
「何、あれ」
「くそっ!とんでもない化け物が会場に入りやがった!」
「おやおや、余所見は良くないよ!」
一瞬の油断に気を許したクロノとミューは本気を少しだけ出したサソードの長刀の一撃で吹き飛ばされる。
しかし、日頃から戦闘任務に属していた2人はそんな一撃を喰らいながらも痛そうな表情を浮かべる事無く立ち上がる。
「これくらいは日常茶飯事。問題無い」
「やれやれ、痛いのは勘弁してくれよ。特に俺の身体はとっても繊細なんだからさ」
「へぇ、さすがはあたい達を苦しめる特案部隊だね。これは久しぶりにあたいを楽しませてくれるかもしれないわ」
狂喜の満ちた表情を浮かべるサソード。クロノとミューは落ちついた表情で対峙していく。
そんな中試合会場では大きな音が鳴り響くのであった。
※※※※
「ハイドロ・ブラスト」
「スノウ・クライシス!」
ハルトの水魔法とレイピアが繰り出す無数の氷柱を組み合わせた攻撃を目の前で佇んでいる巨大な狼型の機械獣に当てるが一切の攻撃を受けない。
「その程度では、永久に勝てませんよ」
「黙れ、てめえは後でじっくりとぶった斬るから覚悟しておけ」
俺は巨大な狼型の機械獣が繰り出す物理攻撃を上手く回避しながら、頃合いの所で足の部分を掻い潜る形で強力な一撃を入れる呻き声を上げ始める。
「全員、叩き込め」
俺の合図に動き出すハルトはその場で双剣を足の付け根の部分に投げつけレイピアは直接近付いて片足の部分を遠慮無しに切り裂いてから距離を置く。
そして最後にルナという魔力の元を溜め込むアイリスは溜めきった所で強力な灼熱の炎を放つ最高峰の一撃を放ち、とてつもなく巨大な狼型の機械獣を一瞬にして丸焦げにさせて地面に倒された。
意外に呆気ない形で勝ってしまった訳だが、別にどうだって良い。後は上から呑気に見物しているドレイクに裁きを与えてやるだけ。
「お前達ご自慢の機械獣は俺と0組の生徒のお陰で無惨に散った。残りは……ドレイクだけだな」
「その程度で倒れるなら作った意味が無いですよ。立て、ウルフボロス」
ドレイクが機械獣の名前を口に出す事でウルフボロスは何事も無くむくりと立ち上がり咆哮を上げる共に物凄い波動が直に伝わる。
「ウルフボロスよ!君の本当の実力を見せ付けろ。私はあの男がこの場所に来るように手配しなければならない。それまでには何ともして阻止しろ!」
命を下した瞬間、ウルフボロスの口から地面を抉るほどの破壊光線を放射し周辺の会場を思うがままに壊す。
「避けてばかりじゃ、話にならないわよ!反撃しなさい!」
ウルフボロスの怒濤の攻撃に俺はしばらく回避に専念していると剣の状態を保っているレーナが痺れを切らす。
俺は現在の置かれているに苛ついてるから自然と口調が乱暴になる。
「うるせえ!今からやるから黙ってろ」
「ハート教官、俺達がこいつとの時間を稼いでいる間にアイツの元へ。大元を叩いた方が手っ取り早いです」
確かに。こんな奴と遊んでいる暇があるなら今回の騒動の主犯格であるドレイクを捕らえる事に専念するべきだ。
しかし、そうなると目の前で暴れているウルフボロスなる巨大な機械獣はアイリスとレイピアとハルトに任せっきりしなければならない。
俺はその場で襲ってくるウルフボロスの攻撃に対処しながらもハルトの助言に一瞬に躊躇うが見かねたハルトは一喝する。
「ハート教官!」
「っ、分かった。お前達はウルフボロスの対処を専念。俺は主犯のドレイクを叩く」
ドレイクの元へと向かうついでに拳を地面に殴り付ける腕へと跳躍して黒い剣で切り裂きながらもウルフボロスの頭部に到達した瞬間に大きく跳躍して特別鑑賞の席へと着地しようとすると、到達を許さないドレイクは対抗心を燃やして魔装銃から強力なプラズマ弾を数弾発砲。
空中に高く舞い上がっている状況に置かれている俺は身体の中に眠るルナを消費して黒い斬撃を放つ。
「レイヴン・クラスター」
一直線に放つ黒い斬撃はプラズマ弾を避けて、ハーマン少将とマッカン少佐が座っている席の近くに直撃。
ドレイクは冷静を装いながら乱暴にトリガーを押しまくる。
「ふっ、案外雑魚ね」
「実力とやらは俺達が上のようだな」
無事特別鑑賞席へ辿り着き、俺は透かさず強固なワイヤーで捕縛している2人の人物を解放。
してやられたドレイクは魔装銃の発砲を中断して接近専用の武装と思われる鋭利なナイフを持つと無謀にも接近戦を仕掛けてきた。
俺はナイフの攻撃を剣で受け流しながら頃合いの時にドレイクの身体を切り払うと続いてハーマン少将とマッカン少佐が見事なまでの剣捌きを披露する。
そして見事なまでにダメージを喰らったドレイクは一番直撃した右肩を支えながら後方へと引き下がる。
「ぐっ、やはり実際に戦うの野暮でしたか」
「諦めて捕まれ。それがお前の為だ。ただしお前にはこれでもかと言うくらいに拷問される可能性があるから自由は無いと思っておけ」
「あはははっ、この私が捕まるなんて前代未聞!こんな場所で捕まるなら自殺した方がマシですよ!」
ドレイクは何が可笑しいのか、こんな状況で大きく高笑いをすると何処からかともなく耳に塞ぎたくなる程の強烈な機械音が鳴り響く。あれは……何だ?
「ザビー、部隊を投下しろ!可及的速やかに終わらせるのだ!」
空中に浮いているのか。車と違って、いつまでも浮遊している謎の乗り物からザビーと思われる人物がドレイクに向かって言葉を送る。
「残念だが撤収だ。サソードも負傷した今の状況下では私達の目的は完成されない。諦めて戻ってこい」
「サソードがやられただと!?そんな筈がーー」
「静かなる風と赤髪の青年の2人の合わせ技に流石のサソードも少しばかりの傷を受けたらしい」
「やはり部隊が部隊だけに油断したか。あいつらさえ居なければ……あの男をこの場に呼べたというのに!!」
地団駄を踏み、自前の髪の毛を乱暴にかきむしって気性をこれでもかと荒々しく暴れまわると再び冷静な表情に戻してからその場で一礼。
「誠に遺憾ですが、今回は退かせて貰います」
「待ちやがれ!」
この場で逃すまいと追撃をすぐに実行するも、時すでに腕の先に取り付けられていたワイヤーらしき物で宙に浮かんでいる為に追撃が出来なくなった。
ドレイクはご自慢の眼鏡を片手で押さえながら
「次に会うときを楽しみにしています。0組の諸君並びに漆黒の死神!」
くそっ、今回の主犯格であるドレイクを逃してしまった。しかも奴は置き土産に狼型の機械獣を放置していやがる。
だが今や解放されたハーマン少将とマッカン少佐はすぐに状況の対処へと移行し、教官と力を合わせて狼型の機械獣を僅か数分で蹴散らす。
そして最後に試合会場の周辺を荒らしまくるウルフボロスの対処に大勢の教官が共同して立ち向かうとウルフボロスは悲鳴を上げながら天へと昇る。
6月半ば、最後の最後に異常事態が起きた帝国軍事学校祭は1人の死亡者と数人の負傷者によって事態は終わりを迎えるのであった。